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ギャラリーランコントル  作者: 津村
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成長


「やぁ」


 ルカはそれまでの辟易していた表情を見事に消し、まるでここまで電動自転車で優雅に走ってきたかのような顔をしてみせる。


「大変だったね、ルカくん。お疲れ様」


 しかしそんな強がりも虚しく、俺と繋いだままの手を見た高城さんが優しくルカを労った。


「高城さんはユカタじゃないのか。残念だったな、ミナト」

「残念だったな、ハル」


 何故か顔を赤くする高城さんはさて置いて、俺は唖然としてルカとトウマを見る。初っ端から何を言ってるんだ、こいつらは。


「浴衣ね、実は持ってないんだ。イマイチ気に入る柄がなくって。やっぱり浴衣の方が良かったかな」


 そして高城さんにまで何言い訳みたいなことを言わせてるんだ、こいつらは。


「こっちの方が歩きやすいし、足に怪我でもしたら大変だから、スニーカーで正解だよ」


 俺は至極自然を装って、二人の失言のフォローをする。するとルカとトウマから拍手が湧いた。


「俺が女ならお前を彼氏にする」

「俺も」

「うるさいわ」


 と言っても、思いきりショートパンツ姿の高城さんに、俺は浴衣姿だったとき以上に意識してしまっている。普段の制服よりよっぽど目立つ生足に、駅で別れるまで絶対に下だけは向けないな……と決意より硬い覚悟をした。


「それじゃあハルのポイントも上がったことだし、行こうか。ルカは日本の祭り初めてだろ?屋台でテキトーに買って、境内の裏でメシ食おうぜ!」

「オーケーブラザー!」


 そんな愉快な二人を先頭にして、四人で鳥居をくぐる。


 入り口で混雑していた人混みも、中に入ってしまえば幾分緩和され、奥の空き地では所狭しと設置されたテーブルで宴会がはじまっていた。


 ここの人たちは本当に集まりと酒が好きだな、と呆れていると、真っ赤な顔で飲み物を売っていたおじさんから、突然ビールを渡された。


「ダメですよ、俺まだ高校生なんで」

「違う違う、奥の坂崎さんたちのところに持ってってあげて!君、地元の子でしょ?おじさん、あっちのグループに持って行かなきゃならないからさっ」


 屋台の裏を覗いてみると、参道から死角になる場所で商店街の店主たちが円になって盛大に酒盛りをしていた。どのコップにも残りわずかとなっているビールを見て、ため息が出る。トウマに代わりを頼もうにも、隣の店でルカにらくかぎせんべいのやり方を熱心に教えている真っ最中だ。


「高城さん、ごめん、ちょっと行ってくる」

「私も手伝うよ」

「でもおじさんたち、酔っ払いだし」

「大丈夫だよ」


 笑顔の高城さんに背中を押され、何本か瓶ビールを持っていくと、突然現れた俺と高城さんに一同が半身を仰け反らせて騒然とした。


「違います」


 言われる前に、とりあえず否定だけしておく。


「まだ何も言ってないじゃないか」

「そういうんじゃないです、本当に」

「おーい!湊人がガールフレンド紹介してくれるらしいぞー!」

「だから違いますって。高校で俺とガクのクラスメイトの高城さんです。ルカと仲が良くて、一緒に遊びに来たんです」


 このセクハラが大好きな酔いどれ連中を前にして、俺は冷静を保ちつつ、端から瓶を栓抜きで開けていく。高城さんは嫌な顔ひとつせずにきちんと挨拶をし、鼻の下が伸びきっているおじさんたちに丁寧にビールを注いでいった。


「ともあれ、あの小さかった湊人くんが女の子とツーショットとは」


 駄菓子屋のヤナギさんが、あたりめを引きちぎりながら俺に微笑む。


「子供ってのは、いつの間にかデカくなってるよな。で、坂崎さんのところのガクはどうなんだ?」


 自転車屋さんの問いに、「どうなんだ?」と、父である坂崎のおじさんが、俺に聞いてくる。


「知りませんよ。あいつ最近じゃ付き合いも変えたみたいで、あんまり教室にいないから」


 それに高城さんが頷きながら、「でも、変な付き合いとかじゃないですよ。健全なお友達です」とつけ加えると、なんて出来たお嬢さんなんだと、俺を含めた全員が高城さんに尊敬の眼差しを送った。


「そういえば湊人、藤間のじいさんから聞いたぞ!今年は町内運動会に出るんだってな!」


 坂崎のおじさんに肩を叩かれ、思わず前のめりになる。


「まだ出るなんて言ってないですよ」


 だから変な噂を流すのはやめてくれ、と、手振りを混ぜて否定するも、騒めきは収まらない。


「ひきこもりも一年半が限界だったな」

「なぁに、湊人からすりゃ、リハビリにはちょうどいいレースだよ」

「となると、今年は青学のケースケを呼び寄せなきゃ勝負にならないか」

「アレじゃ湊人どころか、湊にも勝てないぞ」

「ま、リハビリだから」


 みんな好き勝手に言ってくれるな。それより何より、商店街とは地区が違うから敵チームなのに。


 最後に「期待してるからな」と激励されつつ高城さんと参道へ戻ると、お絵かきが終わったルカとトウマが、完成されたせんべいを持って俺たちの進行方向に立ち塞がっていた。



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