手を繋いで歩く道
神社の参道は人がごった返していて、その密度の高さに「ここに突っ込んでいくなんて正気か?」とでも言いたげなルカが、俺を見てくる。
「ルカがトウマと約束してきたんだろう?」
「俺の入るスペースがない」
「ないなら、作るんだよ」
夏休みも飽きてきた頃に毎年行われる夏祭りの話をルカがトウマから聞きつけてきたのは先週のことで、俺のスケジュール確認もしないまま高城さんにまで話を回してしまったものだから、俺は仕方なく従兄弟との遊びをキャンセルして今ここに立っている。
「どこに?」
「ここに」
しかしまぁ、屋外だというのに、今にも人間と屋台の熱気でぶっ倒れそうだ。風はどこだ?冬になればあんなに冷たく吹き荒ぶのに。
「トウマもルカに余計なこと教えるんだからな」
その上、超高確率で知り合いに会いそうなこの環境に、俺は今すぐにでも家に帰りたかった。
むしろ、だ。
今ここにいるだけで、俺は相当に頑張っている。この我慢は褒めて欲しいし、何なら自分で自分を褒めてやりたい。
「雫と遊べてラッキーじゃん」
「二人ならな」
「二人なら何も話せないでゲームオーバーだ」
「ゲームオーバーって言うな」
スマホで時間を確認し、意を決して足を踏み出す。ルカは揉みくちゃにされながらも、何とか俺から離れないようについてくる。トウマたちと待ち合わせをしている大きな杉の木まで、あと数十メートルといったところか。
「この街には他に娯楽はないのか……」
呟くと突然、横にあったルカの頭が消えて、俺は慌てて体を翻す。
「ルカ!」
人混みの中、名前を呼んで腕を探る。冷たい指先に触れると、急いでその手を強く握った。
ルカから返事のように握り返されると、目一杯に引き寄せる。
「大丈夫か?」
「どんなに楽しいお祭りなのか、とってもワクワクするよ」
イケメンの無残に乱れた髪を、空いているもう片方の手で整えてやる。
「なんてことない普通の祭りだよ。ちょっとした儀式をして、屋台が出て、ケチくさい花火が上がるだけ」
「ワーオ、最高だな」
こんな風にルカの手を握っていると、いつかの夏、まだ幼かった妹を連れてここに来た記憶が蘇る。
妹はやめておけと言う家族に散々駄々をこねて着させてもらった浴衣で、色んな人にぶつかりながらこの参道を歩いた。俺と繋いだ手がすぐに汗で濡れるくらいの暑さだったのに、それでも知り合いに浴衣姿を褒めてもらうと、妹は苦労が報われたのか、疲れもそっちのけで笑顔になった。
結局は下駄ずれで痛がる妹を俺がおぶって帰った訳だけど、まぁ、それも今となってはいい思い出だ。
それからはサッカーが忙しくて、一度も来たことがない。暇だった去年も、当然のように従兄弟と家でゲームをしていた。
成長した妹は、やっぱり反対する親に駄々をこね、今年も例年通り浴衣姿でこの参道を歩いているはずだ。隣には俺じゃなくて、きっと友達か、最悪彼氏。
あいつは重いぞ……と、彼氏には同情しか湧かない。
「ハル、ルカ!こっち!」
杉の木の根本が見えてくると、トウマのよく通る声が人の間をぬって耳に届いた。声のした方へ向かって人波を掻き分けると、杉の木のすぐ近くにトウマと高城さんが立っていた。




