表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ギャラリーランコントル  作者: 津村
2/42

ギャラリーランコントル【後】


【1】


 寒気を追いやったヒーロー気取りの青空には、綿みたいな雲が浮かんでいる。


 授業が終わると、友達への挨拶もそこそこに校舎裏の駐輪場へ向かい、一秒の迷いもなく見つけた愛車へカバンを放り込む。


 鍵を外してサドルに跨ったところで、幼馴染のトウマが教室から手を振ってることに気がついた。俺は右手でグリップを握ったまま、左手を上げる。


「ハル、今日もバイトか?」

「明日からまた留守番なんだ。だから色々、手伝わないと」

「お前のバイト、楽でいいよな。欠員が出たら紹介してよ」


 春風が不意を装ってトウマの前髪を乱し、その整い過ぎる顔に演出効果を加える。それを見ていた駐輪場の女子たちが黄色い声で喜ぶものだから、本人もその気になって、計算し尽くされた完璧な素振りで前髪を掻き上げた。


「そんな顔でよく俺の幼馴染やってられるよな」

「ん?何か言ったか、ハル。聞こえない」

「お前のその顔じゃ、余計な客まで来てメアリーに嫌われるよ!」


 俺は捨て台詞を吐いて自転車を発進させると、顔を隠すためにブレザーの下に着ているパーカーを目深に被った。


 校門を出て駅を抜けたら、自宅とは真反対の道へ曲がる。しばらく商店の並ぶ平地を走り、下手くそなピアノの音色が聞こえてくれば、そこはもう新興住宅地だ。


 立ち漕ぎをして一気に丘の上まで登りきった俺は、僅かに上がった息のままフラフラと自転車を降りた。腕時計を見る。バイトの時間まであと三十分もあった。


「おかえり、ハル。随分と早かったわね」


 画廊のガラスドアの前で身なりを整えていると、鈴の音を響かせてメアリーが出てきた。と言っても、フードが視界を邪魔して、メアリーの姿は足元しか見えない。


 レースの白いスカートから、淡い黄色の靴が覗いている。二つともメアリーのお気に入りだ。


「今日は信号にひとつも引っかからなくて」

「それは幸運のお告げかもしれないわね」

「お告げ?」

「そう。これからハルに幸運が舞い降りるかも」

「むしろ余計な所で運を使っちゃった気がします」

「何か嫌なことでもあったの?」





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ