富士潮商店街
「まずはそこ、坂崎鮮魚店」
俺が指差した先を、ルカが目で追う。
「ここはエビ団子が最高に美味いから、揚げたてが売ってたら必ず買うこと!狙い目は夕方の五時~六時頃かな。少し混むけど」
「へぇ、この店は魚屋さんか」
ルカはまたスマホで写真を撮って、魚の絵文字と共にメモ画面に添付する。
「焼き魚も売ってるから、一人の時に食事で困ったらここへ来るといいよ。それにきっと、世話焼きのおじさんたちが色々と助けてくれる」
「分かった。よく覚えておくよ」
「じゃあ次の店は」
やっぱりあそこだよな、と目指す場所へ視線を移した矢先、恐れていた事が起きて思わず足が竦んだ。
「やぁハル!昨日は大活躍だったんだって?」
通りがけ、接客を終えた魚屋の店主が目敏く俺の姿を見つけ、大声を上げてこちらに手を振ってくる。しまった……と思った時には、店から去ろうとしていたお客さんが俺に向かって頭を下げたから、俺も慌てて頭を下げ返した。
はぁ。やっぱりルカを連れてると目立つよな。
「大活躍はトウマの方です。あいつリレーで五人抜きしたから」
「でも次の奴で三人に抜かされて、結局ハルが一番でゴールしたんだろ?ハルがアンカーなんて、つまらないリレーだな」
ガハハハ!と盛大に笑う坂崎のおじさんから逃げるように足を進めると、「もしかしてハルって有名人なの?」とルカが俺の顔を覗く。
「違うよ。あの人、クラスメイトの親父さんなんだ。つまりあの店は友達の家」
「へぇ。友達には会わなくていいのか?」
「どうせ部活で学校だよ。また今度紹介するから」
「ふーん」
あー焦った。いつものように店番をしていることは分かりきっていたのに、こうやって派手に声をかけられるのはやっぱり苦手だ。跳ね上がった心臓がまだ苦しい。
「次はこっち、駄菓子屋のヤナギさん。ここら辺じゃ一番大きい駄菓子屋で、おじさんがいたらラッキー、大抵はオマケをつけてくれるんだ。駄菓子っていうのは、小さな子供向けのお菓子のことね」
「ダガシね!知ってるよ、メアリーに貰ったことがある。スダコサンだろ?」
「そうそう。俺のオススメはビッグカツとくるくるぼーゼリー。安いからって沢山買うと、メアリーに怒られるから注意だ」
店先に並ぶ色とりどりの駄菓子を見て、ルカがしゃがみこむ。
「ああ、ほんとにどれも安いな」
「だろ?でも今日は寄らないよ」
「ビッグカツは?」
「この後もスケジュールがびっしりなんだ。残念だけど寄り道をしてる時間はない」
「そうなの。残念」
「さ、次は文具店だ。で、その後は本屋と八百屋、肉屋、靴屋。そうだ、和菓子屋のツル屋も外せないな」
「分かった分かった。ゆっくり行こう」
全長約四百メートルほどの商店街には、その他にもゲーセンやラーメン屋が並び、平日の昼時にも関わらず、店先で話し込む主婦の姿や、自転車で疾走する人の姿がよく目につく。
祖母の話によれば比較的新しい商店街らしいけど、こうしてしっかり地域に根づいていて、ここからバスで十分の場所にある大型スーパーになんか負けない活気で溢れている。
俺はなるべく知り合いに会わないようにそそくさと商店街を進み、外観と、そこが何の店かだけしっかりルカに教え込んだ。