表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ギャラリーランコントル  作者: 津村
16/42

純喫茶


「はい、これが榛名くんの名前です」

「ありがとう。俺も書いていい?」

「どうぞ」


 高城さんからペンを借りると、ルカは難しそうな顔をしながら次のページに書き写す。榛と湊の微妙な違いが分からず、高城さんに何度も教えてもらう姿に、俺は少しだけつまらない気持ちになった。


「タカギさんの漢字は?」

「私のはね」


 ノートが半ページ真っ黒になり、何とか漢字が形になってきたところで、高城さんが俺の名前のすぐ下に自分の名前を書く。


「はい、これで高城 雫です」

「難しいな」

「ごめんね、田中花子とかが良かったよね」

「ハナコ?」

「えっと、フラワーチャイルド……?」

「フラワー!グッドだよ!」

「やだよ!雫の方が全然いいって!」


 つい口走ってしまった後に気づく。失言とも言える高城さんへの呼び捨てに、罪悪感でまともに視線を上げられない。しかも二人の会話が盛り上がってる時に割って入って、だ。もしかしたら高城さんを嫌な気分にさせてしまったかも……。


「そうだね、ハルの言うとおり雫の方がいい」

「ありがとう」

「このページ貰ってもいい?」

「はい、どうぞ」


 ルカは切り取ってもらった紙を丁寧に折ると、ジーンズのポケットから財布を取り出して仕舞い込む。


「榛名くんたちは今から出掛けるの?」

「うん、ルカに駅と商店街を案内して、行けたらヨーカドーの方まで」

「学校に藤間くんたちいたよ?」

「ルカのことはまた今度紹介するよ」

「そっか」


「忙しいのにありがとう」とその場を離れると、駐車場の端からルカに「バーイ!」と手を振られ、高城さんが恥ずかしそうに手を振り返した。


 本当に得だな、アメリカ人って。


 ルカの自由奔放のせいで、高城さんがなぜ制服姿であんな所にいたのか、聞きそびれてしまったじゃないか。いや、ルカがいなきゃ余計に話せなかったか。


「可愛い子だったな」

「まぁね」

「スイートか?」

「意味が広すぎて分からないよ。それに何でカタコト?普通に話せるだろ?」

「日本人って弱い人には優しいなーって」

「はぁ?」


 しばらく歩いて駅前まで来ると、休憩がてら駅前の喫茶店に入ってみることにした。


 毎日通学で前を通っているのに、入ってみるのは今日が初めて。


 入り口を開けると感じのいいマスターが笑顔で迎えてくれて、ルカがスマホを取り出しながら「きっさてん、きっさてん」と覚えたての日本語を繰り返しつつ奥へ入っていく。


「いらっしゃいませ、お好きな所へどうぞ」


 薄暗い店内はブリティッシュ風のクラシカルな内装で、ルカが興味深そうに装飾品を写真に収めていく。俺が適当に一番奥のテーブルに座ると、マスターがカウンターにいるルカに何か話し掛けながら、メニューを持ってきてくれた。


「じゃあ、これと、これをひとつずつ」

「かしこまりました」


注文を終えると、ルカはまたテーブルを離れて遊びだし、店内を一通りスマホに収めると、とうとうマスターまで撮りだしてしまう始末。


「おい、ルカ!」

「ああ、大丈夫だよ。僕からお願いしたからね」


 マスターが席を立とうとする俺を、笑顔で止める。


「そうだよハル!かっこよく撮るよ!」


 やれやれ、高城さんもマスターもルカに甘過ぎないか?って、俺も人のことは言えないが。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ