ギャラリーランコントル【前】
俺の住む街のはずれには新興住宅地があって、何処も彼処も小洒落た洋館みたいな家が所狭しと並んでいる。
その住宅地の気取った並木道を抜けると、丘へ延びる一本道へと続き、その坂道の頂上に小さな画廊がある。
『ギャラリー ランコントル』
戦前からそこにあると言われているこの小さな画廊には、一人の淑女が住んでいて、世界中を旅しながら気に入った絵画を見つけては、ギャラリーの真っ白な壁に宝物を飾り足していっていた。
日に来る客の数は、せいぜい五人程度。
しかし企画展ともなれば、遠方から多くの馴染客が訪れ、あっと言う間に作品たちは捌けていく。キャリーにトムにマサにジム。一見して純日本人に見える彼らを俺はぎこちない英語でもてなし、彼らから受け取った大金で淑女のメアリーはまた旅に出かけていく。
メアリーの素性はあまりよく知らない。アメリカ人の母と日系人の父を持ち、彼女自身にもアメリカ人の夫との間に成人した二人の娘がいるという。
なぜメアリーは母国に家族を残し、この画廊のオーナーをしているのか。高一の春、ここでバイトを始めた頃に母から聞いたような気もするけど、あまり真剣に聞いていなかったので忘れてしまった。