エピローグ2
今日は、十二月二十五日、
そして、クリスマス、
そして、納品の日。 納品というのは語弊を感じるけど、山田さんの立場的には、そういうことになるらしいので、念のため。
ピンポーン
来訪者を知らせる音だ。
夕方の予定のはずだけど、
山田さん、サービス大好きなのは分かるけど、こんなに早くしなくても……焦るじゃ無いですか。
準備は、とっくに済んでるから問題無いんですけどね。
宅配便だった。
わたし宛だ。
軽い。
差出人は、復活コーポレーション。
なんで宅配便? 今日手渡しでいいのに。
そう思いながら、雑にテープを引っぺがして開ける。
緩衝材か隙間埋めとして入れてある丸めた新聞紙をがさごそと取り出す。
中には、茶封筒が一封入っていた。
それと、折り鶴。 でも折り紙では無くコピー用紙かな。
「何?」
不審過ぎるけど、とにかく茶封筒を開けて見る。
入っていたコピー用紙に手書きで字が書いてある、見覚えのある字だ。
これは彼からの手紙なんだ。
焦る様に読んでみる。
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当子さまへ
今日まで、ありがとう。
僕への手紙を渡して、とお願いしたとき、
君も手紙が欲しそうだったので書いてみることにしました。
個人的アピールはやっぱりして置きたかったからかもしれない。
覚えていて欲しいから。
君に出会えてよかった。
本人では無いけど、僕にはその記憶がある事が嬉しかった。
君の選ぶ僕は、きっと君を幸せにするだろう。
だから、その一人に全力してください。
がんばって。
君たちの未来に幸あれ
君を好きになった者より
追伸
折り鶴は、クリスマスプレゼントだよ。 なんてね。
山田さんに日時指定の宅配便でお願いしたので、たぶん、今日はクリスマス。
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手紙なんて、はじめてもらった……作文苦手って言ってたのに……偽物め。
それでも、いろいろ思い出して涙は出て来る。
そして、吹き出す。 この手紙、ネタになるよね。
ピンポーン
今度こそ……そう思って玄関の扉を開けた。それでも、やっぱり早いんだけどね。
山田さんが立っている。 その横に彼、五人目の彼が立っている。
「こんにちは」
山田さんが挨拶をくれた。
「いらっしゃい、ちょっと待っててくださいね」
わたしも答えたけど、視線は彼の方に向いていた。
「はい、ごゆっくり」
わたしの視線など気にもしない山田さん。
「じゃ、お母さん、行ってくるね」
少しだけ涙が出てきた。
「はい、がんばりなさい。 和希くん、娘をよろしくお願いします」
お母さんは、普通の朝のいってらっしゃいの時と同じ感じだ。 今生の別れでもないし、泣かないか。
「はい、全力を尽くします」
五人目の彼が力強く答える。
「山田さんも、いろいろお世話になりました」
お母さんも、もう何度も打ち合わせで会ってるので、そんな感じですよね。
「こちらこそ、お嬢様には、ご迷惑をおかけしてばかりで恐縮でございます」
山田さんも定型文の様に会話をこなす。
外には、大きめのワゴン車が止まっていた。
彼が、荷物を後部の荷台に運んでくれた。
わたしは、自動で開いたスライドドアから中に飛び込む。
「当子」
の声が四つ聞こえた。
---- 一年後 ----
わたしは、瀬戸内海の孤島に居る。
和希一号から五号と一緒に……。
無人島を買って、そこに家とか畑とかいろいろ作った。
五人も若い男手があるとなんでもできた。
今は、四号が近くの港で漁師をして稼いでくれています。自らに課す罰ということらしい。あの日の事はみんな知っていて不問とされたけど、本人の気持ちだそうです。
他の四人もいろいろ勉強して、ほぼ何かしらの専門家……の見習いを自負する。
そして、彼らは、順番に本土にわたって献血することを欠かさない。
自分たちの運命では、誰かの命を救えていたかもしれない、と、ずっと気にしてるのです。
ちなみに、”号”呼びは、彼らの決めたことで五人居るし戦隊的な雰囲気を出してるらしい。 私的にはちょっと恥ずかしいんだけど。
実は、山田さんに希望を聞かれた時に、
五人全員を選びますと答えたのだ。
山田さんも、本心として、その選択は、とても嬉しかったらしいのです。
記憶を勝手に操作するほどの人ですから、協力者も居たようですし、頑張ってくれました。
人の命を本当に大事に思ってる人だったのです。
選択されなかった者は生きられないという事実が許せなかったのです。
その後も、彼らの人権を得るために、わたしと一緒に訴訟を起こしてくれています。
そして、クローン廃止についても動いている様でした。
これまでに犠牲になった命に報いるために。
ちなみに、今日までには、山田さんと何度か話す機会があり、その際にいろいろ聞いた話によると…………
国が他国より先んじたい理由が、少しでも多くの特許を押さえるためでした。
他国では、軍事転用されるでしょう。 すごく強い人間をたくさん作れるから……これは、一般人が戦争するよりいいと言う考えかもしれないですが?
重労働なんかも全部やらせる?
影武者とかも?
とにかく、人間なのに人権の無い扱いが予想される。
法律とかどうなるのかも検討が付かない。
だから、特許使用料とかを増やしたり条件付けたりで少しでも妨害したいらしい。
山田さんは、そんな国でなら、今回の件、訴訟に勝てるんじゃないかって言ってました。
事例の一つにするために裏で誰かが動いてくれるんじゃなかって。
その誰かについてはヒントも教えてもらえませんでしたけど。
…………と言っても、わたしの頭では、わけわからないのですけどね。そもそも何かがおかしいと感じるし。
さて、今のわたしは、とても幸せ。 名前通りの当りの人生ってところかな。
いつか一人を選ぶことになると思うけど、今は、たとえ我がままであっても五人と一緒にいたい。
五人とも、彼の代わりとしてでは無く、個人として愛しているから。
今は髪形が皆違うから、そこだけ好みで優劣があるかもだけど……。
そう、皆、違う人間、記憶を電子化してコピーしても、見た目が同じでも、魂が違うのだ。
だから、天国の彼への気持ちが消えることも無いのです。
わたしは思うの、この五人は、あのクリスマスの日に届いた彼からのプレゼントだったのだと…………ありゃ、これって物扱い?
Fin
読んでいただいてありがとうございます。
ほんとに、ありがたいです。