一人目(逸る心)
面会日程:十二月十日
面会可能時間:午前十一時から午後五時
今日は、晴れ、降水確率十パーセント。
週間天気予報は、先週から何度も見て来た。 テレビとネットで違ったりとか、思ってたよりもころころと変わるのには慣れっこだけど、確認する頻度とメディアが確実に増えた。
今日は、どれも晴れ予想だったけど、本当に晴れて良かった。
昨日の夜は、中々眠れなかったのは言うまでも無いですが、今朝早起きしたのも言うまでもないですね。
でも、全く眠くない。緊張しすぎ……不安な気持ちの方が大きいからかもしれない、大きすぎる金額が頭に浮かぶたびに後悔に似た感情がよぎる。
でも、会いたい。いや、会いたいんじゃなくて、一緒に生きていきたいの。
だから、今日という日を実現した事、それほどの偉業に対して、初めて自分を誉めます。
ああ、意識が覚醒して治まらない。
というわけで、家に居ても落ち着かないので早めに家を出ました。
予定より一時間も早い午前十時くらいに着いて、面会室の前の椅子に掛けて、その時を待っているのが現在。
もう十一時かな、と、スマホの時計を睨みながら、既に一時間近く緊張マックスが続いている。
「お入りください」と担当者さんが扉を開けて誘導してくれた。
え? まだ、五分前くらいですよ、あれ、心の準備が……早く来ていた意味って……。
あたふたと部屋に入ると、まず涙が溢れて来た。
「当子」
わたしの名前を呼んだ目の前に居る男性は、紛れも無く、わたしの会いたかった人物だ。
何日ぶりなのだろう、そんなことを考えながらも体は勝手に動く。
「和希……」
名前を呼んで抱き付いていた。 科学万歳。
「当子、どうした?」
「やっと目覚めたのよ」
そう、そういう設定だ。
「ああ、そうらしいが、なんとも、よくわからなくてな」
「良かった」
「ああ、よかった。 そして、ごめんな。 たくさん心配かけただろうし、それに……結婚式」
「いいのよ。 今、こうしていられる事がどれだけ……」
なんか、今実感が沸いて来た。 そう、この人を失ってたんだ、わたし……。
なんで、あんなに普通にしていられたのだろう。
こんなにも、こんなにも、幸せな時間を失っていたと言うのに……。
「なんか、照れるな。 人、見てるし」
「ごめんなさい、あまりに嬉しくて」
「いいさ、悪い気分じゃ無いしな」
「ふふ」
なんかにやける。
「この後、六時間くらい外出していいらしい。 どこか一緒に行ってくれる?」
「もちろん」
彼は、先日わたしが準備した服を既に着ている。五着分づつ用意したうちの一着だ。
だから、すぐに出発できる。
「まず、腹が減ったかな」
「了解、行きましょう。おごっちゃうよ」
六時間しか無いのに、食事での時間は惜しい気がしなくもない。
でも、一緒に居られるなら関係無い。
いや、逆にゆっくりと話をするなら食事の方がいいか、その後はお茶。
気にしなきゃいけないのは、この会社のある場所からの移動時間を考慮する必要があること。
幸いなことに、新宿駅まで徒歩十分くらいだ。
二人ではあんまり来て無い街だけど、その分いろいろ調べて来た。
「では、ふんぱつして、ちょっと高級目のホテルのレストランにしよう」
値引きしてもらった二億円があるんだし。
行き先が決まったので、彼を引きずる様に手を引いて歩き出す。
「いってらっしゃいませ」と担当者さんが送り出してくれた。
わたしは、適当に手を振って応じたけど、彼は、丁寧に会釈していた。
「いいやつ」
良い人だなぁと、思った事が口から出てしまった。
「そう?」
「ええ、お世話になってるしね。 わたしも明日は会釈しよう」
「明日?」
「あ、迎えに来る時か、次に面会に来た時かな」
「手を振るしぐさも可愛かったから、いいんじゃないの」
「へへ」
にやける。
あれ、でも、なんかちょっとだけ顔がかっこ良くなってない? もともと、それなりにかっこよかったけど。
いい感じだから、気にしなくてもいいか。
そして、にやける。
でも、六時間なんてあっと言う間だ。
食事とお茶と公園での散歩くらいしかできなかった。
「じゃあ、また来るね」
そう言って、わたしは部屋を出た。
そして、にやける。今日の事を思い出して。
「明日が早く来ないかな」
そうつぶやいて、少し速足で駅に向かい、途中でタクシーを拾っていた。
今急いでも明日が早く来るわけでも無い……いや、早く寝ればいいじゃん。