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プロローグ2(スタート)


 今日は土曜日なので、会社はお休み。

 目覚ましは、いらなかったな、と小さな後悔をしながら着替えをしている。

 お休みの日にスーツなのは、緊張感の現われかも知れないけど雰囲気的になんか着ちゃった。

 実は、お母さんには、まだ教えていません。当選金の使い方についての否定はされないだろうけど、もう少し慎重に考えてみては?と時間を置く様に説得されそうだから。

 もし、時間を置いたら、たぶん、わたしは変えてしまう、それが怖いのです。



「いってきま~す」

 そう言って玄関を出た。

 無意味に辺りを見回してから駅を目指して歩き出す。

 土曜日の午前中だからか、あまり人とすれ違わずに着いた。皆さん、変に疑って申し訳無し。


 そして、電車に乗って当選金を受け取れる銀行へ向かい、手続きをすませた。

 なんだか、よくわからないまま、全額預けて来ただけ。その方が安心だし。


 さらに電車に乗って、新宿駅で降りる。


 そして今、復活コーポレーションという会社の中に居ます。 会社名がストレート過ぎて、ちょっと恥ずかしい。


「大木様、ようこそお越しくださいました。 担当の山田と申します。 よろしくお願いいたします」

 担当の人が、挨拶しながら名刺をくれた。 普通のおじさんって感じで印象は悪くない。


「こちらこそ、よろしくお願いします」

 いちおう、愛想笑いは忘れない。


「弊社へお越しと言う事は、目的はどなたかを生き返らせたいということでよろしでしょうか?

 もちろん、生き返らせると申しますと語弊があるのですが、便宜上その言葉を使わせていただきます」


「はい」


「先ほどお書きいただきました相談書によりますと、ご親族では無い様ですが、法律上、本人のご親族の同意が必要となります。 ですが、こちらで代行させていただくことも可能です」


 相談書は、担当の方を待っている間に書いていたのだ。いきなり申し込みとかにはならないので、少し安心した。


「出来れば、代行いただけると助かります」

 道徳上、自分で責任を持ってやる方が良いと思うけど、面と向かってうまく説明できる自信が無いし、きっとノウハウがあるのだろうと思った。


「費用は、おおよそ百億ほどかかりますが、現在キャンペーン中のため二十億弱になります。大丈夫でしょうか?」


「ええと、値引きってできます?」

 費用については、調べた時に、ちょっと気持ちが引いたけど、タイミングの良いキャンペーン期間も、その金額も、逆に運命的に思えた。 だけど、せこいかもだけど、やっぱり、お金も惜しい。

 ちなみに、費用の大半は、人としての存在の許可を取るために必要らしい。特に日本は高額な方だとも教えてくれた。

 一度、居なくなった人間だけど、地位なども含め基本的には全ての個人的財産を引き継げるらしいです。 ただ、物理的に手続きが終わっちゃったのは無理だそうです。

 なので、あらかじめ復活予定の場合は、死後のもろもろの手続きをしないらしいです。 今回は、仕方が無いのです。


「そうですねぇ。

 モニター的な事をお願いできるのでしたら、十パーセントほどであればなんとか」


「ありがとうございます。

 わたしにもできることですよね? モニター的って」

 思ったより引いてくれた。 こだわって無い振りをしようとしても、変なにやけ顔してたかも? だって、二億もあればマイホームとかの夢も合わせてかなえられるもの。


「ええ。 逆にサービスが増える様な感じです。 後ほどご説明いたします」


「そうなんですか」

 いまいち、ピンと来ないけど後で聞けばいいか。


「では、申込書をご記入願います。 あと、記憶はお持ちのメモリカードで大丈夫ですが、クローンのためのDNAは、お持ちで無いとのことですので、こちらでご親族に相談させていただきます」


 DNAは、採取できれば何でも良いらしいけど、絶対の確証が無い物は避けた方がいいとのことで念のためお願いすることにしました。

 メモリカードの記憶データは、それに写真を足せばVR空間で本人っぽいキャラを作れるサービスもあったけど、AIがそういう挙動をするだけって聞いたから全く興味無くて、使い道が無かった。もちろん、それで構わなかったんだけど。


「いろいろすいません」


「いえいえ、高額のお取引ですので弊社も全力でサポートさせていただくのは当然でございます」

 その後も、真摯な対応で説明を進めていただけた。


 彼が戻ってくるのは、十二月二十五日予定。 なんとクリスマスじゃん、そこに合わせなくてもいいのにな。

 ただ、その前に、いろいろとすることがある。

 それがモニターとして追加されるサービスのことで、五人のサンプルを作って、その中から一番合う人を選ぶ事になるそうだ。

 通常は、作るのは一人だけなので、その人が意に沿わないとクレームになったことがあるらしい。 その辺の免責は、同意書の注意書きにもちろん書いてある。

 クローンと言っても全く同じ形にはならないということ、DNA情報だけで無く写真などの外見情報と問診された性格などからAIが逆算したパラメータを作って成長時に補正をかけるのだそうだ。よくわからない。

 そして、記憶を戻す時にも百パーセントは不可能なこと、脳細胞の造りにわずかなずれがあり、復元時に失敗するデータがあるそうだ。

 それでも、気付くような大きな違いはほとんど無く違和感が少し出る様な感じらしい。

 その微妙な違いに文句を付けてくるそうだ。 ここだけの話として聞いたのは、会社側としては、おそらく最初から相性が悪かったのではと考えているという事だ。


 だから、

 今回、依頼人自身に選んでもらう方式を試して欲しいとのことなのだ。

 わたしも、二十憶も掛けるのだから……十八億だけど失敗はしたくないと思って喜んで受けた。

 その時は、あまり深く考えることも無く、そもそも、生き返る本人の気持ちなど、まったく考えてもいなかった。

 相性には自信があったし、業種として認可されているのだから、全てお任せを決め込んでいたのもある。 微妙な違いって言うのも、そういう思い人なのだから気になるよ絶対……それを覚悟の中に入れてあるだけ。


 契約が終わると、早速、十二月十日の土曜日にお店に来てくださいと言われた。

 モニターに要する期間は九日。できれば、土日二回含めて九日間連続の日程を勧められたのだ。

 都合が合わなければ、間を空けても良いが、その分、納期が先送りになるとのこと。

 うちの会社は、週休二日制だから五日分の休暇をもらえばいい。

 そして、休暇は、新婚旅行のための分を取り下げていたので余裕で取得することができるだろう。


 その日は、それで、終わりだった。



 十二月十日

「これから、一人目の方とお会いしていただきますが、注意事項がございます」

 担当者の方は、嬉しそうにわたしに告げた。


「はい」


「まず、今日から五人にお会いしていただきますが、基本的には同じ方です。

 その中から選ぶわけですから、順番で印象としての優劣が付いてしまうかもしれません。

 ですので、接触時間の長さを順番で変えさせていただきます」


「はい」


「一番目から順に、六時間、半日、一日、一日半、二日となります」


「はい」


「全て別の日に設定いたしますので、実質九日かかります」


「はい」


「一緒に過ごされる場所は特に指定いたしません。ご自由に行きたいところへお連れ下さい。話し合って決めてもよろしいかと。費用は、お客様負担となりますのであしからず。

 所在位置は、恐縮ですがGPSで把握させていただきます。

 あと、宿泊が伴う日ですが、彼は弊社でお預かりさせていただいてもかまいません。 ただし、その間も時間は進行とさせていただきます」


「はい」


「それと、時間は決めさせていただきましたが、そんなにきっちりで無くても大丈夫です。 そこまで厳しくする必要もありませんので」


「はい」


「もし、出先からの帰りに困ったら、スタッフもしくはわたくしが車でお迎えに上がることも可能ですので、遠慮なくご連絡下さい」


「はい」


「ああ、記憶について重要な説明を忘れるところでした。申し訳ございません。

 彼には、死ぬ前日までの記憶しかありません。メモリカードには、死ぬ瞬間までの記憶が入っておりますので、念のためその日の分を丸々削除してあります。

 また、こちらで他に削除した部分はございませんが、もし欠けている場合は、ほぼ一日分として抜けていると思ってください。

 お気づきの点があれば、後日ご指摘いただければ、選択された方については、可能な限り復元いたします」


「はい」


「記憶は、とても大事だと思います。 いろいろ試されて、多く欠けている方は選択からはずす判断材料となるかと思います」


「なるほど」


「五人へは、外出可能時間の事以外は、同じ説明しかいたしません。

 原因不明で突然倒れて病院に運ばれましたが、一向に目覚められ無かったため最新設備を持つ弊社で検査を受けていた。そして、今日突然目覚めた。 ご家族は、都合により後日の面会になるため、いつもお見舞いに来ていたあなたに連絡したところすぐに会いに来ていただけると。 その際に、様子を見るために外出してよろしいですが、経過観察と再検査のために決められた時間内に戻って欲しいと」


「なるほど。 あ、いつもお見舞いに来ていた事になるんですね」


「その方がよろしいですよね? 特に変更希望な部分があれば、おっしゃっていただければ対応させていただきますよ」


「はい。 あ、大丈夫です」


「では、以上です。 こちらへ」


「はい」

 わたしは、緊張しながらも、担当者さんに導かれるまま、病院の様な雰囲気の白い廊下を通り、彼の待つ部屋へ案内された。




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