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誰よりも才能がある彼は、それでも屍を謳歌する  作者: 赤茄子 秋
江戸川区編
8/20

8話 2人の意識

「今日は私達だけね」


江戸川区の支部全体が、もう終わった雰囲気を醸し出している。また敵の首領を討ち取ってないのにだ。推定Aレートの吸血鬼は騒動から2週間が経っても現れていない。既にその配下らしき吸血鬼は私だけでも10体片したが、まだ戦力の底は見えない。


それとあまり関係ないかもしれないが、以前に比べて川村の私に対しての当たりが柔らかくなった。以前なら絶対に「今日は私達だけね」などとは言わず「……貴方が来たのね」と心底嫌がった後に罵倒してくるのが日常だった。


「嫌なら支部長に交代を頼んでこようか?」

「そんな事は言ってないわよ、例え皆から嫌われてても私もそうとは限らないわ」

「……知ってたし、避けられてるってのはわかってたし」

「……ごめんなさい」

「謝るな、私が知らなかったみたいだろ」


罵倒される心のダメージは全く、これっぽっちも、ミリ単位でも無かったが、何か勘繰ってしまう。最悪の場合は私を囮にする作戦で殺す気か私の実力を疑っているなどだろうか。


警戒が必要だ。それと私は有象無象に嫌われてても構わない、どうせ有象無象の殆どは吸血鬼に殺されてしまうのだから。10年鬼殺官で働いて行ける人が2割無い事実があるのだから、ましてや最弱の区の一つである江戸川区だ。


問題無い。

☆→→→→


学生時代から知っている彼は、成長が無かった。常に一匹狼、常に孤独、他の子と同じ様に傷の舐め合いをする学生達とは違った。


私も孤独だった、だがそれは意図してだ。ここで傷の舐め合いをしていては、戦場でも同じ事をしてしまうのではと怖かったからだ。


彼は勉学に関しては良く出来ていたし、座学で何度か一桁代の順位も撮るほどに秀才だった。しかし実技がダメ、気孔法が必修である見習いの私達の中で、彼は全く気孔法が身に付いていなかった。


そしてそれは今でもだ。成長らしきものが感じられない、あるのは精々身長と剣技程度だろう。それは低レートの吸血鬼を倒す程度の実力であるが遅かれ早かれ強敵に殺され、死んでしまう程度の腕だ。


気にも留めない存在だった。卒業するまでも、卒業してからも。


同じ江戸川区で何年も吸血鬼を殺していてもだ。


きっかけは同期が3年で半分に減ったというのを聞いてからだろう。前線で戦う鬼殺官になる者が多かったのだから仕方ない事でもあるのだが、そういえば同期が江戸川区にいた事を思い出したのだ。


私が話しかければ吸血鬼やグールを週に数匹倒した程度で堂々と言うのだ、それが江戸川区では当たり前の数なのだが……それでも、彼がなぜ死んでいないのかわからなかった。江戸川区ではBレートは無くてもCレートは出没する事もあるのだ、それに遭遇しないで生き残れているのが不思議なのだ。


彼の事は何も知らなかった、それは会うたびに話しかけても変わらなかった。ただ一つ、分かったのは彼が数人の鬼殺官の命日に墓参りをしている事だけだった。


何故か聞いた時もあった、その時は「私以外に、参りに来る人が居ないからだ」や「小さいかもしれないが、江戸川区の英雄だから」と彼なりの理由はあるのだと知った。惰性で通っているわけではなかった、彼は心の中に何かしらの芯があるのがわかったのだ。


その基準は分からないが、全て彼に関係した命という事だろうか。彼が何故、未だに8等なのか聞いた事もある。その時は「実力が無いから」や「自由だから」などと言っていたが、7等に上がる度に『無断逃亡』や『敵前逃亡』を行ったからだそうだ。


命を惜しがっているのかと聞けば、彼はそうだと答えるだろう。


だが聞くに、彼は傷を負った仲間を運んだ事で降格した事が分かった。それでも命令の無視と、市民の命を危険に晒したのには変わりない。彼は降格されたのにも気にもせずに、また新人にバカにされながら7等になるのだ。


何が彼を突き動かしているのか、結局私には分からないのだ。


何も知らない、吸血鬼なんて化け物と戦える勇気が何故あるのか……わからないのだ。


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