6話 近況報告
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「なん……だと?」
明仁から話があると急に連絡があったのは2時間前、内容は今回の事件における報告だった。内心、終わらせてくれたのか?と浮かれた気分になっていた。だが、その気分はドン底にまではたき落とされた。
「敵の総数は18人、自称Aレートが纏め上げるグループ。しかも貴族を目指してレアな青い血を探してるそうだ」
聞き慣れない単語が羅列している。この江戸川区で聞くはずがないレベルの単語が並び過ぎている。
「私が対応したレートCから聞いた情報だ。全てでなくても、一部は信用できると思う」
一部?どれの事だ?数か、レートか、青い血か、貴族か、どれをだ?
どれを信用してもこの江戸川区が壊滅的な被害を受けるのは間違いないのだ。18人も同時に吸血鬼が動けば被害は計り知れないが、それならまだ良い。この江戸川区内の総力をもってすれば殲滅はできる。
青い血というのは吸血鬼達の目で青く見える血らしい。吸血鬼達は光学迷彩を見破れるのは常識だが、この血の色を見分けられる事は意外に知らない者が多い。これはどうしようもないから仕方ないと割り切るしかないが、無差別に人が襲われる可能性は高い。
だが、Aレートはダメだ。江戸川支部が対応できる許容量を遥かに超えている。
「最低でも上等以上のまとまった数の応援が必要だぞ、どうする」
その通りだ、基本的にAレートを対応できる上等以上は必須だ。そして他の吸血鬼もBやCレートが何体かいる可能性もある、このグループを倒せるだけの兵力を集めるには本部からの応援は必須だ。
……しかし、来ない。何故か、来ない。理由も明かされない。
「応援は来ないそうだ、仮に来れるとしても……今の情報を君がどうやって聞いてきたか問い詰められるだろう」
「無論、言う気はない」
「ならば絶望的だ、Aレートなぞ来るとは……」
Aは珍しいのか?と問われたらその通りだ、しかし激戦区と呼ばれる渋谷、新宿、品川の3区では月に一度出る程度の吸血鬼だ。しかし過去に3区から逃れた1匹が目黒区で暴れまわった時があった、その時の被害は100を優に超える。
「私もAレートは初めてだ、どの程度強いのか参考に聞いても?確か支部長はAレートと相対した事があったと聞いた事がありますね」
そのAレートが来たと聞いても、なぜこいつはここまで飄々としているのだ。
「Aレート以上の吸血鬼は基本的な戦闘力はBとは比べ物にならない、私の過去に出会ったやつは橋を支える石柱を片手で振り回していた」
その目黒区の事件で、何を隠そう……生き残りは私のみだ。私はAレートと遭遇し、奇跡的に生き残ったのだ。
「そして本当に恐ろしいのは……Aの中でも稀にいる魔術を使う奴だ。好き勝手色々とできるわけでは無いが、私の出会ったフェザーと呼ばれる吸血鬼は純白の羽を手足のように自由に動かせた」
なぜ奇跡か、それは吸血鬼の使う摩訶不思議な攻撃から逃れ切れたからだ。ひたすら走り続け、躱し続け、隠れ、応援が来るまで粘った。この後から前線を退いた、もう前線に立つ勇気は湧かなかった。
「遠隔操作された羽は致命傷にならずとも気を散らされ、石柱に捻り潰されて私以外は全員死んだ……未だにそいつの討伐ができていないからこそ、私は江戸川区に逃げたのだがな」
今では所在が掴めず、Sレートにまで格上げされている。このような怪物と出会って、生き残れる人間なぞいるはずが無い。それこそ私のように奇跡的に運の良いもの以外でだ。
「学校で聞いたのと変わらないな」
これを聞いた上で、彼の返事は淡白だった。思わず「ふざけてるのか!?」と大声を上げてしまう。今の話をしっかりと聞いた上でのその返事なのかと、だが聞いた上での返事だからこそ苛立ちが抑えられない。
「君でもわかる!Aレート以上は次元が違う、君も殺されるぞ!」
たかだかCレートを何体か倒している程度の若造が想像してるほど、世界は甘くないのだ。君の今まで見てきた世界とは比べ物にならない化け物が跋扈するのがこの世界なのだ、と伝えるが彼の心には何も響いている様子はない。終いには「なら、頑張って応援頼んで下さい。それまで私は適当に吸血鬼退治をしときますので」と投げやりにすらなっている……むしろこのAレートに立ち向かって殺されてしまえば良いのに、そう思わずにはいられなかった。
レート
吸血鬼に対する脅威度の指標。F,E,D,C,B,A,Sの基本7段階であるが、その上にはD・S,T・Sがあり、過去最高のレートは伯爵級のT・Sである。