4話 平和の瓦解
平和とは何か 。争いの無い事か、それとも死が周りに無い事か、平和の条件は様々だろう。しかし、私にとっての平和とは日常を健やかに過ごせる事だ。外国でドンパチしていても、私の生活に影響を及ばさなければ平和だ。例えそこでどれだけ悲惨なことが起ころうと。
江戸川区には、いつも通りの平和が続くはずだった。
ただ我々の築いている平和というのは薄氷の上に成り立つものであり、それを理解していなかったのだ。ここにいる、誰もが。
「なんだと……!?」
あまりに聞いた事が思いもよらないことで聞き返してしまった。支部長でありながら取り乱してしまったが、それは仕方ない事と報告する事務担当も副所長も、本部から来た視察官ですら思っているだろう。
「行方不明者の数は昨日に43名、鬼殺官は……7名と音信不通です」
江戸川区で過去最悪なのは間違いないだろう。こんな情報は吸血鬼の来ない辺境とまで揶揄される江戸川区では最悪の被害だ、この被害は東京都23区で今日一日にでる被害トップだろう。
「非常事態です。応援を呼びたい所ですが……」
視察官は日本の本部である新宿区から派遣されているが、思わぬ事態に絶句している。新宿区は被害の大きさで言えば区内では三本の指に入る。しかし、柱が常駐してる区故に打開策は簡単に見つかる場所でもある。
応援は厳しい、普段は問題ないが今だけは厳しい。それはとある事情からなのだが末端員は何も知ることは無い。故に本部からの作戦司令は、耐えろである。本日視察官が来た理由も、しばらく応援が送れないことを伝える為である。
「少なくともCかBレート以上が徒党を組んで居ます、これは……残念ながら、予想できた事態でもあります。江戸川区は吸血鬼が少ない。逆説的に、鬼殺官の練度も数も最底辺とも言えますし……事実です」
副所長の述べる事はあっている。幸いと言っては失礼だろうが、新米隊員しか被害は出ていない。被害の大きさは確かに問題だが、Cレートならば対応可能である。だがCレートでなければ……この区の鬼殺官は全滅する可能性がある。
「……被害の多いのは南です、そこへ兵を集めるのが得策かと」
副所長の言う策以上のモノは無さそうだった。今の表に現れている戦力では、それが精一杯だろう。
「生き残った隊員に、しばらく夜の間は寝る事は出来ないと伝えろ」
☆→→→→
江戸川区には死神が居る。
そのような噂話が吸血鬼達に広がるのも当然の事だった。誰も江戸川区へ逃げても、帰ってこないのだ。他の区で鬼殺官にボロボロにされたものが行き着く地獄とも言われるようになったのはいつからだろうか。
「なんですか先輩、ビビってるのですか?」
そう言うのは先日、吸血鬼になったばかりの新人。しかし、一番の寵愛を受けている吸血鬼でもある。青い瞳に青い髪、白い肌に白いワンピースを着た少女は華奢に見えるが主人を除いて最強だ。
だが所詮彼女も私も作り物だ、作られた化け物だ。
「どうした、娘達。姉妹ゲンカは良く無いぞ」
「申し訳ありません」
「あ、ごめんなさい。気をつけます」
するといつのまにか現れた私達を作った張本人がいた。
私達を作った吸血鬼の名はパイロン。2mの巨躯と不思議な術を使う吸血鬼であり、鬼狩りの者がいうに推定レートはかなり高いらしい。だが彼はそんじゃそこらの雑魚とはまるで違った、上等鬼殺官ですら殺した本物の怪物だ。
10年ほど前だろうか、人間だった時に目が綺麗だからと殺されて吸血鬼にされた私もCレートはくだらないらしい。他にも目が綺麗という理由で吸血鬼にされた10数人の吸血鬼達、最低でもDレートという実力だ。
パイロン曰く、柱でも倒せる戦力らしい。だが彼はどうやら、貴族というモノを目指しているらしくその下地を作るべく最弱の区である江戸川区に来ていた。
「我らの目的は1つ、最上級の血を持つ餌を見つける事だ」
そう言って私達17人の姉妹へと指令を出す。
「江戸川区での鬼殺官の数は25、最高でも3等鬼殺官と情報は示している。私が本格的に動くのは男爵へと私が昇華した時のみである、それまでは娘達よ……私を失望させないでくれよ」
ニタリと笑いながら話す彼への敬意は無い、ただあるのは恐怖による統制である。それが新米にはわかっていないようで、幸せに思えてしまう。
江戸川支部
実働部隊である鬼殺官は25人、その他のバックアップなどを含めると60人程度の規模の支部。年に10匹も吸血鬼の現れない地域として、東京の楽園として有名である。
江戸川支部長
秋仁に横領がバレ、弱みを握られた元は実働部隊の鬼殺官。秋仁のパートナー不在や事後処理、人事異動などを良いようにやらされている。