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誰よりも才能がある彼は、それでも屍を謳歌する  作者: 赤茄子 秋
江戸川区編
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1話 生きた屍

しばらくは朝7:00に投稿したいと思います。

人の生きる意味とは何だろうか。何を考え、何を志し、何を糧に生きる必要があるのか。よく言われるのは人は他の生物と違い理知があり、秩序がある事だろうか。だが、それが生きる意味とは違う。


では、日常を過ごしていく事に幸せを感じるのが良いのだろうか。確かに世の中には毎日の食事を生きる糧にする者も居れば、愛を糧に生きるものも、欲望に満ちた野望で生きる者と様々なはずだ。しかし、これも私の中ではピンと来なかった。


これは生きるのを楽しむ意味だった。生きている意味とは違った。


そんな漠然とした誰に問いかけてもハッキリとしない答えを見つけてしまったのは、私が12歳の時だった。この世で1番優しい人の死を目の当たりにしてしまった時であった。


私の中での生きる意味とは、その個人が世に成すべき使命を成すことだと知ってしまった時だ。


今でも思い出す。私の両親は現代でも未だに残る、所謂政略結婚をした夫婦だ。仲は赤の他人レベルで、夫婦間の会話は無い。そして私とも会話も無い。あったのは執事であった横溝のみで、私の親とは表面上は見えても赤の他人と言っえも差し支えないレベルだった。


私は男であるが、次男だ。これも影響したのだろう、両親の愛に一見して見える不快なモノは兄に注がれ兄もそれに応えた。


執事の横溝は後に正直に言ってくれた。この家は普通では無いこと、私が壊れてしまわないか心配な事、外に逃げて欲しい事、このままでは私の居場所はここに存在しなくなる事を教えてくれた。


私もそれは幼いながら察してはいた。私を愛する親はなく、虚像を追い求める兄へ侮蔑を感じていたし、親へはもはや何も感じていなかった。


そんな最中であった、邸宅に何かが来た。私はいつも自分の牢獄のような部屋で本を読み、執事はその様子を監視員のように見守らせられている時だった。いつもの日常だった、酷く嫌悪感を湧かせる日常だった。


そんな日常をの壊した救世主は、キリストのような聖人君子ではなかった。俗物とエゴに塗れた世界から切り離されたような存在、醜悪と理不尽の化身の化け物だった。


☆→→→→


いつも通りの日常、憂鬱だ。何度読んだのかも忘れそうになる本棚の本をまた読み始める。私へ本が届く時は横溝が古本を届ける時か、兄からの駄作を押し付けられる時だけだ。だから私の知識が偏っているのは理解しているし、このままロクな大人にもなれないんだろうと考え始めている。


「どうかしたの、横溝さん」


そんないつもの時間で、遠くから何かが割れる鋭い音が聞こえた。横溝さんはいつも親への報告に使う無線を使うが、どうやら返信が無いらしい。何が起こっているのか、分かっていないのだろう。


「強盗でございます、でも心配は御座いません。坊ちゃまはここに隠れていれば安心です、爺が様子を見て参りますのでここで待っているのですぞ」


しかし、幼いながらもその言葉が励ましの言葉であったのは分かっていた。横溝さんは60歳の老体で、強盗を斥ける力なぞ無いのはよく分かっていた。


「……わかった」


だけど、親代わりとも言える彼の言葉を信じたいと思ってしまった。それに縋りつかないといけないと思った、子供だから。所詮は与えられる物を享受するしか私には出来なかったのだ。


そこからだいたい30分程度だろうか、いくつかの悲鳴を聞きながらも本を読んだ。部屋の鍵は閉めて、閉じこもった。地下へ反響する異音を感じながらも、無視をしていた。


そんな時、外から獣用な息遣いが聞こえてきた。


「……横溝さん?」


最初は走り回って疲れ切った横溝さんかと思った。だけど違った、私の声が聞こえた瞬間に扉が吹き飛んだので直ぐに分かった。


「グルルル……」


現れたのは1.5m程の身長を持つ猫背の人型の何かだった。口周りには血がベッタリと付き、何を切り裂いたのか左手の異様に伸びた爪は血を滴らしていた。ワイシャツにスーツのズボンと、見るに会社員が怪物化したような風貌だった。


その怪物の目が私を捉えた。異様に細長い舌を舐めずりながら、私へと近づいて来た。怖かった、初めて本当の恐怖を知った。歪んだ捕食者の双眸は、2秒後に私を喰い殺すことを分からせていた。


短過ぎる人生だったと諦めた、そう思った時だった。


「お逃げください!坊ちゃま!」


横溝さんが調度品の刀を片手に怪物を弾いた。その時に自身の硬直は解けた、横溝さんの声を聞けたからだろう。助けに来てくれたからだろう。


「横溝は大丈夫です、お逃げください!」


だけど、動けなかった。目の前で横溝さんが命を賭して戦っていたからだ。刀を片手に血塗れになりながら、人間とはかけ離れた動きをする怪物と戦いながら。昔は軍隊で士官にもなっていたと聞いていた、だから少しだけ相手が出来ているのだろう。


だけど、少しだけだった。鋭利な断爪は刀ごと体を袈裟斬りにした。


「あ……ぁぁ……!!」


飛び散る血肉と内臓、それに食いつく怪物、噎せ返る異臭、この部屋唯一の扉は化け物がいて逃げられない。


ここから先は思い出したくない。


ただ、自分が何故生まれ落ちたのか。そんな生きる意味を知って、生きる意味なんて無いと思い始めた時だった。


☆→→→→


ここに来るといつも緊張する。どれだけ階級が上がろうと、この国のトップである歴戦の勇士の部屋に来るのは。


「支部長、EU本部からの大使が参られました」


「直ぐに向おう」


重厚な和をイメージさせる調度品に囲まれた畳の敷かれた部屋、その中央の平机で短い返事をする隻腕の男、日本支部の支部長 織田信英だ。日本支部で歴代最強とも言われる世界に誇る英雄であり、12人しかいない伯爵クラスの化け物を殺した張本人でもある。


人には独特の威圧感がある。普段の事務仕事ですら滲み出る、その覇気はもはや同じ人かどうかすら疑うレベルだ。これが歴代最強の紋字(もじ)であり、長を12年務めた男なのだ。


その支部長の机を少しだけ覗くと、様々な資料がある。そこでふと、自分の見知るモノが1つだけ紛れ込んでいた。


「……その資料、もしや7年前の」


「まぁ、かなりニュースにもなったしね。そこそこ大きな会社の社長一家を含めて、6人も死んで……1人だけ生き残ったんだからね」


そこにあるのは7年前、とある邸宅で起こった悲惨な事件だ。執事やメイド、夫婦のその息子の1人は干からびた姿で発見された。その場所は東京都内であり、私の管轄内での事件だった。駆けつけたのは事件開始から1時間以上経っていた時だった。


化け物、吸血鬼のなり損ないであるグールは執事であった横溝正文が殺したと生き残った少年から事情は聞けた。しかし、その少年はもはや居場所は無くなっていた。家族を失い、会社も遺産も親戚に奪われる事はその三日後には決まっていたのだ。


「私は未だに……半ば強制的に軍へ招いた事が納得できていません。ニュースで隠しきれない闇というのはこうやって葬られて行くと思うと、今でもゾッとします」


だからこそ、そこでは7人全員が死んだ事になっている。新たな戸籍を作り、吸血鬼退治を目指す軍学校へと強制的に送られたのだ。


「その……彼は、今はどうしてるのでしょうか。良い噂話を卒業してからはまるで聞かないのですが」


「あー、君はこの事件の担当者だったね」


卒業時の成績は下の中と聞いていたが、どの部署を選んだのかも知らない。我が軍ではチームで動くのは現場の僅かな部隊のみであり、部署は属する仕事の報告場所のような所とも言える。


大きく分けて軍には4の仕事分けがある。


1つは諜報(ちょうほう)部門。これはどこで吸血鬼が現れ、活動しているのかの情報を集める仕事であり、これは各国の日本大使館にも在中している。


2つ目は証拠隠滅の隠密(おんみつ)部門。これは吸血鬼の後処理と警察などの各関係への虚偽の情報を流すのが仕事であり、成績の良くない、もしくは後述する現場へ向かう事に恐れている者が携わっている。


3つ目はサポートを行う統制(とうせい)部門。軍内での司令塔であり、頭だ。全ての情報を統合し、全ての指揮を決定する。全ての部門の中で、ここは所謂エリートと呼ばれる頭脳派の者が携わっている。


そして他にも幾つかあるが、最後に最前線で吸血鬼と直接戦う鬼殺(きさつ)部門だ。ここは4つの中で消耗率が1番高く、年に2割の隊員が除隊する。過酷な現場であり、常に死がまとわりつく。


この中で彼が請け負うなら隠密部門だろうか、そう予想しながら返ってきたのは


「彼なら今、江戸川区(えどがわく)にいるよ」


最も吸血鬼のいないと言われる、安全地帯で前線に立っている彼の写真だった。

主人公:沢村秋仁

職業:軍人

階級:8等鬼殺官

年齢:19歳

身長:178cm

体重:72kg

使用武器:対吸血鬼用74式軍刀

髪は茶髪の眼鏡男子、顔は普通なのも相まって誰からも鬼殺官としての覇気を感じないと言われている。本人は気にしていない。また、使用する軍刀は配備の優先度が低い故に30年前の旧式である。

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