91.140字小説・その七(「暁」★、「人影」)
「暁」★
空が白んできた。逃げなくては正体がバレてしまう。可愛らしい見た目をしたお姫様の私は、引き止める王子様を城に置き去りにして深い森の中に駆け込んだ。これから様々な薬品や道具を使い、あちこちのお姫様に呪いをかけなくてはならない。私は夜明けと共に醜い魔女になる呪いをかけられていた。
★……「君色の詩」の10選に選ばれました。
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「人影」
時々、濃霧を彷徨う私の前に誰かが現れる。口元しか見えないその人は、戦争は終わったと私に告げる。君は勇者なんだと称える。私は彼を疑うけれど枕を切り裂いた包丁はどこかへ逃げてしまった。多分大丈夫だよ、と涙を流さずに泣くぬいぐるみたちに微笑んでみせる。そして消し炭で地面に人影を描いた。
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久しぶりに色のついた夢を見た。激しい銃撃戦の末、勝利した私と誰かは“最後の部屋”に入ったところで、扉を閉められていまう。
部屋の奥にある柱に「赤い水を飲め」とある。その下にシンクがあり蛇口をひねると当初は青インクの水が、そして透明な水が、やがて赤インクの水が出てくる。
これは睡眠薬が水に溶けると青くなるからで、赤は夜明け。なんのことはない、「薬が切れました。朝なので起きましょう」という深層からの呼びかけなのだ。記憶の中の戦いに勝利した暁に。
私は誰かの言うとおり、潜在意識において確かに勝者だった。




