85.「創造」、「夜明け」、「噂」、「イタリア旅行」
「創造」
この手の中にある
ちょっとしなびたリンゴをかじるとき
神の偉大さなんて考えない
少しだらしないなと思うだけだ
ーーー
「夜明け」
その時だけ皆黙ってそちらを向いた
夜が明けていく
生まれたばかりの太陽が眩しくて
それぞれに手をかざした
朱鷺色の光が世界を照らす
言い争っていたのがバカみたいに思えた
誰かが握手を求めてきたので
それに応じた
ーーー
「噂」
噂を信じるのね
抱きしめる腕は疑念に満ちている
あの晩激しい吹雪に見舞われて
避難した山小屋から出られず
彼とふたりランタンを挟んで
一晩中話をしていただけ
噂を信じるのね
私の気持ちよりも彼の気持ちを
信じている
何事もなかったのに彼の思惑通りに
なっていく
ーーー
「イタリア旅行」
初めてのイタリア旅行。コロッセオの脇でアフリカ系のおじさんがフィルムを売っていた。私を見つけ、片言の日本語で「これはフジです。ニホンです。コダック違う」と話しかけてきた。フジフィルムは24枚撮りで1本800円もしたが、長旅だったこともあり、日本を懐かしく思って買った。どうやっておじさんのところまで来たのだろう。コロッセオは教えてくれなかった。




