80.「蝶々の娘」、「あきらめきれない」、「自然体」
「蝶々の娘」
僕はカマキリで、彼女は蝶々
すぐに別れるという皆の予想を裏切って
仲睦まじく暮らし
蝶々の娘とカマキリの息子まで生まれたんだ
蝶々の娘は今、反抗期真っ盛り
「お父さんみたいな昆虫と
付き合ったりしない」が口ぐせだ
その娘がひとりでひらひら飛んでいたとき
うっかりクモの網にかかってしまった
「だれか助けて」と暴れたが
クモが近づいてきた
その時、1匹の若いカマキリが現れて
鎌でクモの網を破り、娘を助けたんだ
「もう大丈夫だよ」
目があったその時、ふたりは恋に落ちた
今はベジタリアンになった彼と一緒に
お花畑でデートしている
常識とかけ離れたことでも
ときには起こるのさ
ーーー
「あきらめきれない」
思いを寄せる彼を車で家まで送った
外は大雨だ
「この傘を使って」
と、車内においたそれを渡そうとしたが
彼は
「すぐにシャワーを浴びるからいい」
と、雨の中に飛び出していった
振り返らないその後ろ姿を見送る
気づくと、彼が座っていたシートには
私のものではない
小さなボタンが落ちていた
そっと手を伸ばしてポケットにしまった
諦めきれない
ーーー
「自然体」
「コートはどうしたの?」
とあなたに聞かれ
さっきまでいたレストランに
忘れてきたことを思い出した
「寒いでしょ」
とあなたは自分のコートを脱いで
掛けてくれた
私は顔が熱くなったのを
その温もりのせいにする
あなたの前で自然体なんて無理




