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76.140字小説・その五(「手頃」、「アイシテイル」、「黄昏時」)
「手頃」
私は彼にとって都合のいい存在。彼が困ったときだけ利用される。けれど彼と一緒のときは皆が道を開けてくれるので、なんとなく気持ちが良かった。彼の手に馴染むほど嬉しかった。私について誰かに褒められると彼は照れる。「なに、手頃だったんだよ」。私は杖。とても大事にされている。
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「アイシテル!」
彼女は二人きりで彼と会うはずの場所に俺を同伴させた。彼は彼女と親しげに話す俺に驚きつつも、目の前で彼女をしっかりと抱いた。俺はなんだか不機嫌になる。彼よりも長く一緒にいて、世話もさせているのに。もう一度叫んでみる「アイシテイル!」。彼は苦笑する。「インコに告らせなくてもいいのに」
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「黄昏時」
夕方になるとおばあさんは花に囲まれた庭の小さなテーブルにティースプーンを並べる。戻ってきた妖精たちがティースプーンのくぼみで横になると、順番に花びらを載せていく。すぐにウトウトする妖精たちにおばあさんは優しく声をかける。「おやすみなさい」。




