71.「さよなら、夏」、「心」、「二重」
「さよなら、夏」
夏の終わりに鳴くセミは
夏に死ぬ運命を知っており
少しでも長く生きるため
あえて遅く地上に出るのだと信じていた
だが、最近になって
彼には「遅生まれのセミの一族」のような
宿命があり
夏の終わりを告げる
使命があるのではないかと
考えるようになった
晩夏に一匹で鳴き続けるのは
彼の使命であり、宿命であり、運命なのだ
私は椅子から立ち上がり
ガラス窓に額を押しつけ
どこかで鳴く
これが最後かもしれない
その声に耳を澄ませた
震えていた空気が静まりかえる
さよなら、夏
ーーー
「心」
重い病にかかってからは
あきらめることが
生きることになった
心の下半身はただの棒になり
歩こうとすれば何度でも折れた
弱い心の持ち主がどうかは関係ない
ただ心の下半身がくじけてしまい
自力で歩くことが
難しくなってしまったのだ
歩けないあまり
実際に寝込んでしまう場合もある
心と体は繋がっているからだ
けれど そのような状態にあっても
その状態を他者に理解されなくとも
歯を食いしばって
生きている
出口の見えない闇の中で
一日一日を生きている
生き残っている
とてつもなく強い心の持ち主にしか
できない事だ
我々 心の怪我人は
真の勇者だと
私は思っている
ーーー
「二重」
生まれも育ちも違うのに
気づけば ふたり
二枚重ねのティッシュのように
心がぴったり合わさって
柔らかな気持ちで
穏やかに暮らす
幸せ




