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70.「上辺」、「雨におぼれるわけにはいかない」、「朔」
「上辺」
彼女は何度も命を脅かされたが
徹底的にあらがった
鋼のように強い女なのだと思っていた
その下にあった涙は
弱いとされるもののためにあった
弱かった彼女のために
涙を流した者はいたのだろうか
ーーー
「雨におぼれるわけにはいかない」
雨はたちまち激しくなり、ふたりはびしょ濡れになった。
あなたは失笑し、
「すごい雨だな。せっかくバルコニーからふたりで外を眺めていたのに。2階にあるここまで浸水しそうだ。雨におぼれるわけにはいかないから中へ戻ろう」
と冗談を言って私の肩を強く抱いた。
私の涙がまたあふれる。
離れていた間に別の恋人がいたことをなぜ責めないの?
寂しさに耐えられなかった弱さがあなたを傷つけた。
私にはあなたに抱かれる資格はない。
別れを口に出そうとすると、あなたは私の唇を指でそっと押えた。
ーーー
「朔」
朔の夜に流す涙は
星の砂と海を作る




