65.「罠」、「トンネル」、「マルシェまで」
「罠」
初めての恋にすり減ったことで
用心深くなっていた
自分を好ましく思わない者と
好んでつきあい
自分から離れていく者と
暇を潰しあった
恋を人生の脇に置いていた
置けるのだと信じていた
だが好ましくなく離れていく者に
苦しい思いを抱いてしまった
軸がぶれた
動転した
自分は自分の人生の
主役ではなくなってしまった
愛されることでしか自分を取り戻せない
罠を作ったのは自分
ーーー
「トンネル」
10代の真夏を生贄にして
山へ向かう強制的な旅行
誰かはただの運転手で
私は乗客のひとりを必死に演じた
林の木々の緑が優しく光って
私を慰めると同時に
森は妖気を放って
逃れたがる私を
奥へ奥へと強烈に誘ってきた
その誘惑をねじ伏せつつ
虜囚の感覚をぼんやりとさせる
そのコントロールこそが
ハッピーエンドに続くトンネルを
走り続ける力になると本能が教えた
例え
生涯抜け出せないトンネルだとしても
森にあらがった記憶とともに
ハッピーエンドを信じる気持ちは
変わらない
ーーー
「マルシェまで」
きみと暮らすメゾンを出る頃には
秋雨も上がっていたから
マルシェまでひとつの傘でいく
チャンスはお預けになる
好きな料理も味の好みも違うから
ケンカするんじゃないかと
心配していたけれど逆だったね
一緒なら何を食べても美味いんだ
見上げる空に虹がかかる
夕飯はマルシェで決めよう
その前にいつものカフェに寄って
ショコラを飲まないか
甘いキスの合間に




