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59.「あなたに」、「人は心」、「幻想」
「あなたに」
ふと気づけば
月は涙を流さずに泣いている
まるで貴女のようで
背中をさらして見つめた
薬指のリングを拒んでいるのは
ふたりのためなのか
離れていることで守りたい
貴女に咎を負わせないために
寄り添った日々さえ忘れ去る
生涯この心をささげたままで
“さよなら”
ーーー
「人は心」
あなたは千人の兵士たちを引き連れつつ
そのうちのひとりを思い
万人の兵士たちを引き連れつつ
そのうちのひとりを思う
人は数字ではない
心だ と あなたは言う
だから無限大の人々が
あなたに忠誠を誓う
思いやる心を持った
人間のあなたに
ーーー
「幻想」
きみにとってもぼくにとっても
幸せな選択だと思った
噛み合わない心を重ねても
痛みが増すだけだから
いっそ巡り逢ったその前に戻るといい
光と影の間で揺れ続けた思い
その不安定さを愛して
遠くに鐘の音を聞きながら求めあった
愛はただの幻想にすぎない




