48.「帰還」、「夢中」(エッセイ)
「帰還」
愛している
あなたは弱い国の孤独な女王の気持ちを汲んでいると思っていた
愛している
あなたは私の心と体を一番近くで守っていた人
あなたの言葉を胸にひめ私は政略結婚で隣の強国へ嫁いだ
愛している
離れ離れになっても小さなメダイユに何度もキスをした
愛している
あなたが誰かと結婚したという噂は信じなかった
やがて強国同士の戦争が終わり不要とされた私は離縁された
国の者はみな落胆した
強国に依存しなくては生きられない弱い国に生まれた不幸を嘆いた
私のことを役立たずとみた
自由のない私は
愛していた
あなたを呼び出し左手の薬指の指輪を確かめた
愛していた
女王の皮を生涯かぶり続けると即位したときに決めていた
愛されることのない私はこれからも愛する者たちを守り続ける
命が果てても
この命が果てても
ーーー
「夢中」(エッセイ)
「どんな音楽を聴いているの?」
と、聞かれ、アーチストの名前を言ったところで誰もが首をかしげる。
言葉のない音楽が好きだ。
YMOでも喜多郎でもバンゲリスでもない。
それは、私がたまたまエアチェックして見つけたドイツ人のグループ。
波音をBGMにして、優しいシンセサイザーの曲が、夜明けや夕焼けや星座、荒野や草原、雪原を見せてくれた。
喜びや慰めや励ましをくれた。
華やぐ気持ちと穏やかな気持ちをくれた。
孤独と仲間をくれた。
未熟な心と挑戦する心をくれた。
郷愁と未来へのあこがれをくれた。
言葉がない代わりに私自身にすべての言葉を委ねてくれた。
私は出会ってから数十年が過ぎても、この音楽に夢中になっている。
今、詩を書くに当たって、言葉のない世界から言葉を引き出すのに役立っており、私の人生に大きな幸福を与えてくれていることに感謝しつつ、今日もまた言葉のない音楽に身をゆだねている。




