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39.「すれ違い」、「灰皿」
「すれ違い」
あなたと私は
同じ世界にいてもすれ違うばかり
あなたを想っても追いつけなくて
悲しんだり気を取り直したり
そのくせあなたが現れると
恥ずかしくて逃げてしまう
「お姫さま、いつか恋が叶いますよ」
と 明星はいつも味方でいてくれる
ーーー
「灰皿」
岩山の中腹にあるアジトの洞窟から顔を出す
連なった峰の頂きを月明かりが照らしていた
おれは仲間たちが囲む炎から離れて
外へ出ると岩陰に腰を下ろす
懐から煙草を一本取り出し咥えて火をつけた
吐き出した紫煙の中にお前の面影が浮かぶ
おれの後悔がお前を生かし続けている
なぜ あのとき側を離れたのか
なぜ お前の病気に気づいてやれなかったのか
お前は足を洗わずにいたおれを
責めることはなかった
左手の薬指に残った金の指輪
今夜もまたほとんど吸わぬまま
燃やした煙草を黒い土に押しつけて消す
お前が用意したいびつな灰皿を使った
平和な日々は二度と戻らない




