まだましだから
両親が死んだ、姉ちゃんの結婚式がこの前の事で、姉ちゃんと俺からしたら義兄にあたる人がそれぞれの両親への感謝を込めてと贈った温泉旅行ツアー、そのバスが事故に遭い即死だったらしい。
普段から歳だからいつ死んでもおかしくないなんて笑っていた両親だが、本当に死ぬだなんて俺も本人たちも思っていなかっただろう。
せめて苦しまずに死んだ事を嬉しく思う、我ながら酷いと思うが俺の心は結構頑丈の様で涙も出ないようだ…姉ちゃんの結婚式の時みたいに酒が入れば泣くのだろうか。
それでも今はそんな事をしている場合ではない、というのも大して興味は無いが義兄側の両親も亡くなったからだ。
俺だって経験なんてなかったというのに社長を始めに周りの人に聞きながらなんとかやりきった喪主の仕事だが義兄の手際が悪くそちらの手伝いにも随分と手を焼かされた、その結果が今だ。
うちは姉と俺の2人姉弟で俺も高卒で社会人2年目の20歳、成人済みで問題ないと言える、いや…実家暮らしだったから家事に自信は無いんだけれども…
問題は相手側だ、4人兄弟で一番上の兄は新婚、2番目の弟は高校生だけど寮生、3、4番目の中学生と小学生の女の子たちが途方に暮れている状況だ、親戚にも引き取りを拒否されたらしい、理由は兄妹でなんとかすればいいとの事。
実際義兄は成人済みで働いている訳だし姉ちゃんと共働きだ、姉ちゃんも引き取ると言っている…それが妥当なんだろう、だけど気に入らないのは義兄が明らかに嫌がっているのが誰からみても分かること、本当に気に入らない。
そんでもって義兄と義弟が揃って俺に押し付けようとしているのも気に食わない、俺がやったこともない喪主を務めれたのは努力したからだ、それをさっきからしっかりしてる人に任せた方がなんて言いながらチラチラ見てきやがって、ああ、そういえば義弟の方は結婚式の受付の時の対応も酷かったのを思い出した。
「言いたい事があるならはっきり言ってください」
俺の言葉に義兄はおし黙る、歳上として言えるはずが無い、でも義弟は思い切った。
「兄貴は新婚だし俺はまだ高校生なんでこいつらの面倒見るとかまじ無理っす、お願いします!」
何よりも気に食わないのは小さな女の子2人を傷つけると分かっていても今後問題になった時、こちらが強く出れるように相手側にお願いさせるまで答えが出せなかった俺自身
「いいでしょう」
結婚式の受付は新郎側新婦側でそれぞれ男女2人が立った、その時俺と従姉妹が姉ちゃん側に義兄側には態度の悪い義弟を恐れるようにビクビクとした態度を取っている女の子、義妹が立っていた。
その時式場と提携しているカフェで買ったコーヒーについてきたクッキーを持っていた俺が緊張をほぐせればと渡した時に戸惑いながらもお礼を言ってくれた事も覚えている。
そんな事だけでほんの少しだけ縋るような視線を向けてきた少女がどんな思いで生きてきたのか、親戚中から見放され兄から捨てられた心境がどれほどの物か、残念ながら俺も決していい人間ではないが、放っておくのも気分が悪い、それだけだ、だから傷つけてでも保険をつけるのは正解のはずだ。
そうだ、これは全部自己満足だ、優しい人間でもない俺が引き取るのは完全に自己満足。
俺の友達が聞いたらありえないと爆笑するだろうレベルの奇跡、こいつらは運がいい。
「というわけで今日からお前たちの面倒を見ることになった癒月 幸人だ」
「日野 優花です、よろしくお願いします」
「愛花です、よろしくお願いします」
涙を見せながらもしっかりと自己紹介をする2人、中学生でショートカットの優花に小学生でロングヘアの愛花、この日、葬式で両親に別れを済ませた俺は同居人が2人できた。
「ここが今日からお前たちが住む家だ、俺はお前たちを気にしない、だからお前たちも俺に気を遣わずにくつろいでいい」
もともと父も母も物をほとんど持たない人達だったため処分は大体終わってしまっている、殺風景な家の中の案内を終えるとまだ夕方だが気疲れしたせいで眠気がくる。
「ちょっと寝てくる、俺の部屋に入らなければ好きにしていい」
「はい」
愛花の方は俺を恐れて何も言わない、歳上の優花は礼儀として返事をするのでそれで十分だ、とにかく疲れていた俺は自分の部屋に戻って眠った。
開けていた部屋の窓から焦げ臭い匂いがして目が覚める、火事かと思い外を覗くと煙はあまり酷くはないが立ち昇っているのはうちの一階から、駆け下りてみると煙を吐き出すフライパンとその前で慌てふためく優花の姿、諸々の処理を終えて煙臭くなった部屋を換気してからやっと優花に話しかける。
「なんでできもしないのに料理をしようとした?」
「あ…あの…お疲れのようだったのでご飯を作っておこうかと…迷惑をかけるので家事くらいはと…すいま…ずびばぜんでしだ…」
ああ…やっぱり俺がガキの面倒を見るなんて向いていない、それでも他に回すくらいなら俺がやった方がいいって思ったんだから仕方ない
「ひぃ…」
頭を撫でてやろうと手を伸ばすと怯えた声をもらす、本当に今までどんな生活してきたんだよ
「怒ってないから心配すんな、むしろ気がきくって褒めようとしたんだよ。
さらに言えばお前たちが将来どうなろうとしったこっちゃ無いから怒ってもやらん。
だけどな、忘れんなよお前はガキで俺は大人だ、迷惑なんざかけられて当然なんだよ、遠慮なんざせずにガキらしく笑ってろ」
ポカンと口を開けてからコクコクと優花が頷く
「聞いてんだろ、お前もだぞ」
隠れて様子を伺っていた愛花も同様に頷く
「んじゃ、飯食いに行くか、ファミレスでいいだろ」
家族もどきの俺たちはファミレスへと向かう、普段なら全く意識しないファミリーという単語がひどく喉に引っかかるように感じた。