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第6話 満州馬賊の正体

「うん、これはモ式大型拳銃弾の弾頭だね」

 一発で見破ったのは、例の二水の恩師だった。武下(たけした)さん、と言うその方は、県内で高校の社会科教師をされている方だと聞いていたが、郷土史家の方の名前が有名で、自著をいくつもものにされているそうな。(おもむき)としては大学教授の方が相応しい。見たところ四十前後、男性にしては色白で黒縁眼鏡に直髪を軽く刈り上げて、すらりとした長身の男性だった。

「二水くんこれをどこで?」

 僕は二水に代わって、経過を説明した。参加の挨拶に来て早々、とんだ話を振ってしまったが、武下さんはとても熱心に聞いてくれた。

「モ式と言うのは、『モーゼル式』の略称です。ワルサーと並ぶドイツの世界的ガンメーカー『マウザー社』その日本語読みがモーゼルです。一八九五年に発売されたC九六は当時の自動拳銃の倍の値段がしたそうですが、世界各国で流行し、あのワルサーP三八と並んで二十世紀を代表する拳銃のモデルになりました」

 二水が、スマホで実物の画像を見せてくれる。引き金の先に大きな四角い箱のようなものがぶら下がっている特徴的なデザインの拳銃だ。

「マガジンハウジング(弾倉(だんそう)のこと)がグリップの前に設計されているのが、現代の拳銃にない大きな特徴ですね。これは現代の主流である、グリップそのものに弾丸が内蔵できる設計にすでに特許が取られていたため、と言われています。

 が、その分グリップを細くして手の小さなアジア人はじめ様々な人種でも使えるようにし、大きな弾倉に威力のある弾薬を装備できたことが、当時のベストセラーを呼んだ大きな要因と言っていいでしょう。コピー品も大量に生産され、その主な製造国はスペインと中国でした。日本でも准正式拳銃として制定され、昭和十八年(一九四三年)からは、国産の実包も生産されるほどになったんです」

「え、外国の拳銃が、戦争中の日本でも作られていたんですか?」

 思わず目を丸くした僕に、武下さんは首を振った。

「作られたのは、弾薬だけです。それと言うのも、官給品と言うよりは、私物として、このモーゼルが広く普及していたことが大きな原因でしょう。鹵獲(ろかく)、つまり戦利品として戦場から引き揚げてきたものが多かったのです。当時、世界で最もモーゼルを装備していたのは中国兵だったと言っていいでしょう。あるいは、二水くんの言う、当時の満州馬賊」

 武下さんは僕から預かった曽祖父の写真と僕とを見較べてくすくす笑った。

「こう言ってはなんですが、とても面影がありますね。二水くんが、気になるわけだ」

「せっ、先生っ!よっ、余計なことは、言わないでくださいよう!」

 武下さんの一言で二水は、見る間に真っ赤になった。聞けば、二水の曽祖父は若い頃、大陸に渡り、戦後は馬賊の研究にその身を捧げた人らしい。まあ、二水本人を知っていると意外でもなく、なるほどなあ、と言う感じだ。

「馬賊と言うのは、いわゆる草莽崛起(そうもうくっき)の士、清王朝崩壊後に各地に出没した民間義勇軍(みんかんぎゆうぐん)を総称したものです。例えば教科書などで教える歴史ではまず正式に登場することはありませんが、大陸史のダイナミズムを語る上で、とても重要な存在なんです」


 王朝時代の中国はまさに絶対権力者として、皇帝が君臨したイメージがあるが、その実、糾合(きゅうごう)した民族たちの事情は雑多で、危ういバランスの上に成立していた。

 例えば清王朝は女真(にょしん)と言われる満州民族が樹立した国家だったが、漢民族が樹立した王朝である明国(みんこく)を凌駕して台頭した政権であった。これに蒙古民族が加わる。明の前代は(げん)、であったように、モンゴルも、匈奴(きょうど)と言われた昔から、大陸の覇権を争う存在だった。


 そのモンゴルを版図のうちに含む清王朝の倒壊は、中国全土に多大な混乱を引き起こした。民主政権を望んだ孫文(そんぶん)の辛亥革命は、これらを統治するまでには至らなかったのだ。

 各地は軍閥と言われる武力政権が乱立し、治安の維持が難しくなった巷には、匪賊(ひぞく)、と言われる強盗団が放火、殺人、強姦、と好き放題荒らしまわるようになった。そこで登場したのが、自衛軍であり、義勇軍でもあった馬賊と言う人たちだったと言う。


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