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第15話 曾祖父の名誉のために

「祖父はほどなく、亡くなりました。わたしは無理やり実家に戻されたんですが、またあの男につきまとわれて」

 そんなとき、僕の家に隠された拳銃がいつも頭に浮かんだと言う。しかし僕の家の場所がどうにも思い出せなかったと言う。海神町と言うのは分かっているのだが、自分が外出恐怖症を患っていたうえ、祖父に言われるまま運転した。パニック状態のさなか、僕の家がどこにあるか、ついに思い出せなかった。被災地のボランティア活動に参加したのも手がかりを探すためと、被災地をうろつきまわるためだったと言う。

 そんな中、今年の春に海神町が警報解除となった。

「あの家の人が片付けに戻ったら、あの拳銃が見つかってしまうかも知れない」

 そうなる前にと、最後の手掛かりを求めて里香さんは参加してきたそうな。

 僕は里香さんを、それ以上責められなかった。この話が事実なら、曾祖父は黒崎さんの祖父を殺そうとしたのだ。八十年越しの復讐だ。気が遠くなるほど昔の話だが、曾祖父はその機会を、被災地に居残ってまでじっと待ち続けていたことになる。


 例えば僕がその場にいたとしたら。黒崎さんみたいに、曾祖父の立場に立ったろうか。そして八十年越しの復讐に賛成しただろうか。

「どうかな二水」

 僕が聞くと、心配そうに見つめていた二水は小さくかぶりを振った。

「せっ、先輩はそんな人じゃないですよう。だって…こう言ってはなんですけど、お二人とも、老い先短い身だったですから」

「そうだよな」

 それより何より、いくら僕たちのあずかり知らぬ曰く因縁があったとは言え、肉親が殺人を犯そうとしているのを、黙って見過ごすことなんか出来ようはずがない。里香さんの話ではないがもし、逆の立場だったら、曾祖父も全力で僕を諌めたし、庇ってくれたはずだ。

 それにだとしたら、僕には疑問がある。

 どうしても、と被災地に残った曽祖父のこの地に留まる理由は、果たして本当に殺人だったのか?僕はあの朗らかに生きていた曽祖父が、八十年以上殺意を抱いて生きていたなどと、やっぱり思えない。黒崎仁悟との一件が、全くでたらめだとは言わないが、曾祖父にだって何か言い分があったはずだ。それにしても、何で拳銃なんか。どうして僕たちに何も話してくれなかったんだ?


「里香さんも、少し落ち着かれたようです」

 夜になって、武下さんが戻ってきた。あれから主治医だと言う精神科医に連絡を取り、里香さんの様子を相談した上で、彼女に持参していた向精神薬を飲ませ宿泊所に連れて行ったと言う。

「このまま、警察に被害届は出さないことにするんですね?」

「はい、拳銃も無事でしたし、その件で大叔父とも相談しなくてはならないので」

 表向きのことは、里香さんの話を出さない方が拳銃の処理がスムーズに進むだろう。この辺りは武下さんと話して決めたことだった。

「それにしてもあのモーゼルは、本当は黒崎仁悟さんのものだったんですね」

 里香さんの話が本当なら、あの銃は元々、曾祖父のものではなかった。義郎さんを誤って射殺してしまった現場から回収されたものだ。

「やはり、それも天馬さんが?」

 僕は黙ってかぶりを振った。曽祖父の手もとにある、と言うことはそう言うことだろうが今となっては真相は、分かりようがない。

「先輩、あの、じゃあもう一回、いちから捜しませんですか?」

 二水が言ったのは、そのときだ。

「だってひいおじいさまは、お元気とは言え百歳だったのですよねえ」

「そうです。お相手の黒崎さんも老齢です。いざと言うときに、何か用意してあったかも知れません。可能性はありうるかも知れませんね」

 武下さんもまた、満更でない様子だ。僕はまだ戸惑いがあったが、二水は、親身になって訴えかけてくれた。

「調べましょうですよ。このままだと、先輩のひいおじさまがかわいそうです」


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