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第10話 怪しいのは通報者

 翌朝、僕と二水は再び海神町に戻ってきた。大叔父には話せなかったが、その侵入者が拳銃をどこかに隠した可能性を検討しなくてはならない。ここから持ち去っている、と言うことなら、それこそ大ごとだ。

「ほぼ真下から上に、弾丸が入ってますねえ」

 行くなりすぐ、二水とあの弾痕を見た。やはりその(きず)はまだ生々しく、新しいものと言わざるを得ない。さらに弾丸が入った角度からすると、やはり発砲したのは、この仏間の大広間の中にいる人間だった、と言うことが、否定しがたい事実として浮かび上がってきた。

(警察が調べたときに、この弾痕が発見されてたら)

 ことはただの病気による事故死で、片付かなかったかも知れない。無人の被災地で曽祖父はやはり、誰かに襲われていたのだ。

「ところでこの仏間、とても見晴らしがいいですねえ」

 ふと二水が言う。僕は思わず、はっとした。

 そう言えばここは日当りのいい縁側があって、近所の親しい人などは、玄関でなくこちら側を回ってきた。このように田舎では、実際使用する通用口は、間取り上の勝手口ではないことが、ままある。

 対し曽祖父が倒れていたはずの勝手口の裏側は、ひどく見通しが悪い。建物の背後は生垣が覆い、隣地は田んぼの用水路だ。間違っても人が、たまたま通りかかるような立地ではない。

「通報した人はどうして、ひいじいちゃんが奥の勝手口で倒れてることが判ったんだろう…?」

 大叔父によると、通報してくれた人は、通りすがりに物音を聞いて曽祖父が、勝手口で倒れていることを察したと言う。だが勝手口の方面で倒れたなら、たまたま通りかかった人が、察知できるはずもない。

 もう一度、検証して確信した。外から見て、曽祖父に異変があったなどと察知出来るのは、仏間で何かが起こったことを知っている人間である。

 この人物は事件が発覚することを恐れ勝手口に遺体を移したが、非常事態がこの見晴らしのいい仏間で起こったことの印象の方が強く残っている。そこで家の外から、曽祖父に異常があったことを察知した、と言うような、よく考えてみれば抜きがたい矛盾を孕んだ証言を、遺しているのではないか。

「もしかしたら、通報者が、そのまま事件の当事者なのでは?」

 二水がぽつりと漏らした一言で僕は、背筋が凍りつきそうになった。考えるだに、そうとしか思えない。


 図らずもここで曽祖父とトラブルを起こしてしまった人間こそが、この事件の真相を知っている人間だ。その人物は拳銃が持ちだされたことに動転して、曽祖父を殴ってしまった。その拍子に発作が起こり、曽祖父は死んでしまった。

 驚いたなどと言うものではなかったろう。曽祖父が拳銃を持ちだしたこともそうだが、大抵の人間はパニックになる。

 だがその人物は結局はあわてずに遺体を勝手口まで引きずっていき、打撲傷に説明がつくようさりげない偽装工作を行った。現場を離れてから通報したのだろうが、あわてていたのか、よく検証すると矛盾した証言を遺してしまっている。綜合(そうごう)してみるとそれは、非常にちぐはぐな印象を受ける人物像だ。

 大叔父は曽祖父の遺体を引き取った時に、通報してくれた人にお礼が言いたいと申し出たのだが、ついに連絡がつかなかった。今思えば、納得出来る。

 それにしても気にかかるのは、曽祖父はつまるところ、会うべくしてその人物と遭遇したのか、と言うことだ。突発的な強盗や空巣に、こうした小知恵が回るとは思えない。また、全く無関係の人物ならば、その必要もないだろう。やはり会ったのは曽祖父とつながりがある人間で、ここで会うべくしてこの二人は会ったのだ。


「一体それは誰、だったんでしょうか…?」

 そこで気づいたのか二水の声も、思わず震えていた。

「そう言えばひいおじいさまは、残るべくしてここへ独り、残ったのでしたよね…」

「そう、その通りだ」

 と言うことは、その人物は曽祖父が被災地に残る危険をおしてまで、会いたかった人物である。だが曽祖父の年齢で、会いたい人間などいるのだろうか。同年代の人間は、ほとんど鬼籍に入っている。生きていたとしても、一人で出歩けるような体力のある人間などいるのだろうか。被災地を単身脱け出した曽祖父の体力は、まさに例外中の例外であるにしても。

(本当に、一体誰だったんだ…?)


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