1ー6 「ジャミル」
景色は草原から森に移っていた。
「よし、みんないるな?」
「うん。」
「もち!」
「はい!」
健二は4人いる事を確認すると、茂みの中を進みだした。
「ちょっと、健二。どこ行くの?」
慎二が呼び止めた。
「え?早く森を出ようと思って……」
「駄目ですよ?勝手に動いたら。」
「まずは荷物確認だってさ、健二。」
健二は3人の所に戻った。
「悪い悪い。」
「大丈夫。僕も早く出たいけど、最初は落ち着いた方が良いかもね。」
「そうだな………。じゃ、もらった荷物の中身を見てみるか。」
桜と真琴はリュックの中身を漁っていた。
「えっとー……、私は薬ですかね。医薬品らしきものが入ってます。真琴さんはどうでしたか?」
「私は〜……、缶詰沢山、水の入った水筒4本、缶切りっぽいのと、缶詰、缶詰・・・って感じで、とりあえず缶詰沢山。」
「きっと食料だな。というか、俺と慎二はリュックの大きさが異常だぞ?」
「うん、さっきから重くて死にそう………。」
慎二と健二は荷物を降ろして、中身を見た。
「俺はと………、ピック……って言うのかこれ?それであと、コンパス4つ、小型の双眼鏡4つ、ロープも4本、後はフード付きコート4着かな。慎二、お前は?」
「僕は剣が4本…………」
「「「剣!?」」」
3人は目を見開いた。
「な、なんでそんな物が入ってんだよ!?」
「そ、そんなの僕に言われても……。それで後は、リボルバー……拳銃も4丁・・・」
「はい!?け、拳銃っ!?」
「うん。後はホルスターとか、武器や道具をしまうやつかな?」
「お前の荷物、おっかない物ばっかだな………。」
「確かにね。気づいたら服装も変わってるし……。」
「あっ。本当ですね」
4人は寝間着から、薄茶色のシャツと、紺色のヨレヨレズボンに服装が変わっていた。
「ねえねえ、武器とかがあるって事はさー、ここら辺、なんか出るんじゃなーい?」
真琴が森をきょろきょろしながら言った。
「確かにな。さっきからこの森、空気が重いな……?」
「あ、あの。とりあえず、それぞれ持ち物を4人分に分けませんか?」
「そうだね。みんな、とりあえずリュックの中身を全部出そう。」
慎二の提案に、「ラジャー」と、3人は賛成した。
4人は、それぞれ自分用の道具をリュックに閉まった。剣を背負うか、腰に掛けるかで言い争いが起こったが、真琴が「腰が良い。腰の方がかっこいい!」と聞かなかった為、剣は左腰で全員統一となった。
拳銃をホルスターに仕舞って右腰に、水筒を後ろに下げ、他の物はリュックに仕舞った。
数分後、4人はコートを羽織り、移動の準備が整った。
「よし、みんな終わったね?」
「おう!」
「なんか、昔の冒険家みたいだね!わくわくして来た〜っ!」
「意外とすぐに終わりましたね。では…………どっちに行きます?」
慎二はコンパスを取り出した。3人はそれを覗き込んだ。東西南北がどっちなのかは把握出来たが、
「分からない。どっちが街なんだろう………。」
慎二は肩を落とした。
「え…!?ちょっと、どうするんですか!?」
「どうすると言われても、この森、道らしき物が1つもないからね……。」
「あいつ………。最初どっちが街かくらい教えてくれたって良いのによ〜!」
「最初何するかくらい教えてくれても良いのにね!?」
健二と真琴は近くの小石を蹴飛ばし始めた。
「近くに標識みたいなのがあれば良いけど……」
《西だ。西に行け……。》
「っ!?」
「どうしました、北野君?」
「今、何か聞こえなかった?」
「いいえ、私は特に。」
今、確かに慎二の耳には声が聞こえた。
「桜、西だ。」
「え?」
「みんな、西に行こう!」
「へ?慎ちゃんどうしたの、いきなり東って・・・」
「真琴、西だよ……。どうして西なんだ?」
「いや、なんとなく……。とりあえず行こう。」
3人は意味が分からなかったが、迷いなく進む慎二について行く事にした。
しばらく歩くと数人、前を歩く人影が見えた。
「誰かいた。」
慎二は立ち止まり、後ろを歩く3人を手で制止した。
「あ、本当です。」
「ちょっと待ってて、道を聞いてくる。」
「お、おい。待てよ慎二。」
健二は止めようとしたが、慎二はずんずん前に進んで行ってしまった。
「新谷君、ここは任せましょう。危なくなったら私がすぐに行きます。」
桜が剣の柄に手をかけた。ちなみに桜は剣道3段の腕前で、全国大会準優勝の実力である。
「わ、分かった。その時は俺も行く。」
「私も私も。」
3人は慎二を見守る事にした。
「ちょっとすみませーん!」
慎二は言葉が通じるか分からないが、前の集団に声をかけた。
「ん…………?」
1番の後ろにいた少年が立ち止まって振り返った。それは、慎二達と同じくらいの歳の子だった。
「あっ!」
「あ、あの。ここから1番近い村はどこで・・・」
慎二が道を尋ねようとすると、
「ジャミル!?お前、無事だったか!?ちょっと先頭止まってくれ!」
予想外の反応だった。
「ジャ、ジャミル?」
「途中足場が崩れて、崖から落ちたろ?……もしかして、覚えてないのか?」
「そんなの知らな………っ?」
グラッ!
『うわっ!!』
『ジャミル!ジャミルーーっ!!』
「……………!」
そんなの知らないよ、と言おうと思った慎二は、突然フラッシュバックに襲われた。
「どうした、ジャミル。頭でも打ったか?」
「いや大丈夫だよ、ダク。あの時、近くにあった木の根に掴まることが出来てね。ゆっくり下に降りれたんだ。」
「そうか。相変わらずお前は悪運の強い奴だな〜!」
他の人も彼の無事な姿を見て、嬉しそうに笑った。
「……てか、どうしたんだよその装備?」
「ああこれ?あの後、森で迷ってる旅人と会ってさ。僕達の村まで案内するって言ったらお礼にくれたんだ。紹介するよ。」
ジャミル(慎二)は手招きして、桜達を呼んだ。
残された3人は会話までは聞き取れなかったが、慎二は1番後ろにいた少年や、他の人とも仲良く話している様子だった。
「なんか打ち解けている風だよな?」
「ですね。……さすが北野君です。」
慎二がこちらを向き、手招きしてるのが見えた。
「あ、合図が出ました。」
「よっしゃ、行こうぜ。………て、真琴………!」
健二は頭を抱えた。
「(もぐもぐ)………ん?」
真琴は慎二を待っている最中、大量の缶詰を食べ比べていた。
「な、何してるんですか真琴さん!?」
「だって〜、お腹空いちゃったんだもーん!」
「ほら、行くぞ真琴!」
「ちょっと待って。………っほれ!」
真琴は缶詰を顔の上に向けて、流し込むように平らげた。
「………っ!?」
その豪快な食べっぷりに、2人は唖然とした。
「(もぐもぐもぐ…………ゴクン。)よ〜し、じゃあ行こっか?」
「「はあ………。(なんて食欲なんだ……っ!?)」
3人は茂みから出て、慎二の所へ移動した。
筆者です。ちなみに缶詰の中身はスパゲッティではありません。
これからもよろしくお願いします!