1ー4 「運命の日」
今回は長いので、誤字・脱字が目立つと思いますが、ご了承ください!
朝
慎二が起きると、静江はもう家にいなかった。
「ん、これは………?」
居間のテーブルには1枚の紙が置いてあった。
《昨日はらしくない事言っちゃってごめんね〜。姉さん、仕事で1週間以上家には戻れません。なので、私の分の夕食は要りません。》
と、書かれてある。
「1週間以上か……。姉さんも大変だね。」
流石に姉に同情する慎二なのであった。
ジリリリリリリリ…………
朝食の時、1本の電話が入り、慎二は居間にある受話器を手に取った。
「もしもし、北野ですけど。」
『あ、出た!おーい、健二〜!【慎ちゃん】電話に出たよ!』
姉に次ぐ、この朝からハイテンションな喋り方は彼女しかいない。
「おはよう、真琴。朝から元気いっぱいだね。……というか、「電話に出たよ〜」って、いつも僕が電話に出ないみたいな言い方じゃないか。」
『あ、ごめんごめん!別にそういう意味じゃないから〜!』
「で、今どこにいるの?そこ、真琴ん家じゃないよね?」
慎二は声以外に聴こえる、変な雑音が気になって仕方ない。
『受話器に電話番号出てないの〜?』
「あいにく、まだうちはデジタルでもなく、ダイヤル式なので!」
『え!?今時まだそれ!?……一応聞くけど、ここ、東京だよね?』
「うんそうだよ!……それで、どこにいるの?」
『健二ん家!朝ご飯頂いてまーす!』
「ふーん。」
『相変わらずの冷めた反応〜……。あ、健二に代わるね!』
慎二の友達である椎名 真琴と新谷 健二の家は昔から交流が深く、もう親戚と言って良いほどらしい。
『よっ!おはよう、慎二!』
健二が電話を代わった。
「おはよう。」
『えっと〜……今、静江さんいる?』
「姉さんはもう仕事で家を出たよ。もしかしてまた柔道の事?」
『ああ。ちょっとまた教えて欲しい事があったから、今日の夕方話せないかと思ってさ。』
静江は死んだ父に多くの武術を習い、柔道、剣道、空手、弓道……ほとんどが全国レベルの実力だった。そのため、柔道部に入った健二は度々静江に教わりに来ているのだ。
『お前の姉さんはすごいよなぁ!……慎二、お前も昔、静江さんから教わったんだろ?教えてくれよ。』
「僕はどれもてんで駄目だったよ。だから今はもう教わってない。」
『そうか……。まあ確かに出来なそうだけどな。』
「む?そう言われると少し傷つく……。」
『悪い悪い。いや、でもお前、確か弓は静江さんよりうまかったんじゃなかったか?なんで学校の弓道部に入らなかったんだ?』
「あ……。」
『ん?どうした?』
慎二は弓道という言葉を聞いて、受話器を手から落としそうになった。すぐにその手を握り直し、会話を再開した。
「……う、うん。確かに弓道はできたね。」
『だよな?』
「けど、今はもう……いいんだ。」
『そうか?まあいいや。……じゃあご飯食べ終わったらお前ん家の前に行くぞ?一緒に学校行こうぜ。』
「うん、分かった。それじゃあ後で。」
『おう。』
慎二は受話器を置いた。
慎二は自分の両方の手の平を見る。以前、弓に矢を番えた手の平を。
「私を射抜け!!」
そして、夢で聞いた言葉を思い出し、ひどく汗の滲んだ手を視界から外した。
「僕には無理だ………。」
それからしばらくすると、玄関のインターホンがなった。
ピンポーン
「健二と真琴にしては早すぎる。誰だろう?」
慎二は玄関に向かい、ドアを開ける。
「あれ?」
「あ……あの!」
ドアを開けると、桜が俯いて立っていた。
「おはよう、桜。」
「お、おはようございます!一緒に行きませんか!?」
桜が上ずった声で言った。
なんかみんな、今日は元気が良すぎる気がしない?と、慎二は思った。
「学校?いつも7時半に出るんだけど……、今7時だよ?」
「そ、そうなんですか。早すぎましたね!あははは…………。」
慎二はいつもと違う桜のテンションに戸惑っていた。
「よ、良かったら、家で待つ?」
「良いんですか!?で、ではお言葉に甘えて、そうさせて頂きます!」
「どうぞ。」
居間で、慎二は桜にお茶を差し出した。
「あ、ありがとう…ございます。」
「なんでそんなに緊張してるの?家には度々来てるじゃないか?」
「は、はい……!」
桜はさっきから下ばっかり向いて、モジモジしていた。
「トイレ行きたいの?行ってくれば。まだ時間もあるし……」
「い、いえ!違いますっ!!」
「っ!?」
「あ!すみません………。」
「い、いや大丈夫……。」
いつもの桜にしては大きな声だったので、少しドキっとする慎二だった。
「それか、何か話したい事でもあるの?」
「……。」
「もしかして、姉さんに何か言われた?」
「あ……」
「ごめん。姉さんが変な事を……」
「………あのっ!」
「はい!?」
突然の大声に対し、慎二も反射的に大きな声を出してしまった。
「わ、私は、別に不純な気持ちとか一切無くてですね?そ、それで逆に、あまり真剣に聞かれても困るんですけど……。」
「う、うん……?」
慎二の返事を聞くと、桜は1度深呼吸をして、やっと前を向いた。
「わ、私はですね!ず、ずずずっと前から北野君の事が…………す……すす…っ!」
「す?」
「す……」
桜が次の言葉を発しようとしたその時、
ドンドンドン!
「あ。」
「あ……。」
《慎ちゃーん!!きたよ〜〜!!》
2人の来訪者がそれを阻んだ。
「………ごめん。で、何?」
「へ?あ、あの……!」
桜は緊張した顔から無理に笑顔を作った。
「す、すごいと思ってました!いやー、家の事を何でも1人こなしてしまうんですもんね!私、いつも失敗ばっかりだから、尊敬してるんですよ!」
「あー……そうなんだ!ありがとう、桜。」
慎二は微笑んだ。
「それじゃあ、健二と真琴も来た事だし、行こっか、学校。」
「そ、そうですね!い、行きましょう……!!」
桜は元気良く玄関を開けて、健二と真琴に挨拶した。
「(本当は何が言いたかったのかな?桜は。)」
慎二は、あれが本当に桜が言いたかったことではない事だと、なんとなく分かった。
下り坂を男女4人の高校生が歩く。この4人一緒に遊ぶようになったのは小学校の頃からである。
「なんかみんな、やっと高校生活に慣れてきたって感じだね?」
真琴が言った。
「本当だな。後1週間で夏休みか〜。」
「…………そうだ、4人でどこか行きませんか?」
「良いね桜!どこ行くどこ行く??」
「そうですね〜……北野君はどこか行きたい所とかありますか?」
「え?僕?えーっと……」
慎二は、みんなが楽しめるような場所を考える。
「……そうだ!鍾乳洞とかは!?」
「「「は?」」」
「え……?駄目……か……。」
慎二は3人に、「それは無いな」というような目で見られた。
すぐに3人は他の候補地を模索し始めた。
「行くならさ、やっぱ、山とか川、海だろ?」
「違います!みんなで行くなら美術館や博物館、……そうだ、劇場とか!」
「2人共!せっかく都会にいるんだからさ!映画館とか遊園地とかそういうのでしょ!?」
「それなら寺社巡り……」
「「「(お前・慎ちゃん・北野君)は黙って(ろ・て・てください)!!」」」
「ひっ!!」
慎二は一瞬後退したが、さらなるアイデアが浮かんだ為、駄目元で言った。
「な、夏祭りとかは……っ!?」
「「「!?」」」
逸らしかけていた3人の目が、再び慎二をとらえ、揃って詰め寄った。
慎二が目をつぶり、怒鳴られる覚悟を決めた時、
「「「それだ!!!」」」
3人の喜びの喝采が坂に響いた。
1日が終わり、慎二は家に帰っていた。が…………
「で、なんで僕ん家でその計画を考える事になったの……?」
振り返ると、居間のテーブルで律儀に座る桜、健二、真琴の3人がいた。
「だって、お前今日家1人だろ?」
健二がニカニカして言った。
「だからってね、夕食も一緒に食べる事になったのはなんで!?」
「慎ちゃん!ゴチになります!!」
「と言っても、私もお手伝いするので大丈夫です。」
「桜、梅君はどうするの!?」
「それについてはご安心を。明日は土曜日で小学校がお休みなので、友達の家へお泊まり会に行っています!」
「あ、あの。それをそんな嬉しそうに言われても……。」
「お泊まり会かぁ……良いな〜。」
「真琴!?なんか嫌な予感がするのは僕だけ?」
「慎二。明日俺らも休みなんだし、着替えもみんな持って来たし、1泊……」
「駄目!」
「えーっ!?ケチ!!」
「はいはい。僕はケチです!」
「ふふ……っ……では北野君。布団敷いてきますね?」
桜が笑いをこらえて部屋を出て行こうとする。
「桜!?ちょっとまだOK出してないんだけど!?」
「慎二……、頼む!」
「慎ちゃん?駄目〜?」
「わ、私はどっちでも良いですよ(お願いします)!」
みんなの視線が注がれる。慎二は朝とは別の意味で後退する。しかし、3人は希望の眼差しを止めなかった。
ここで、近所の夏祭りに行くくらいで計画を練る必要があるのかどうかと尋ねた所で、3人は決して引かないだろう。
「これはもう、腹を括るしかない。」と、慎二はやや不満気に頷いた。
すると、今夜静寂になる予定だった北野邸が、大喝采に包まれた。
夜中
慎二は目を覚ました。隣では、健二がいびきをかいて爆睡している。さすがに男女同室はと、桜と真琴は2つ隣の部屋で寝ている。
「トイレ、トイレ。」
慎二は部屋を出た。
用を済ませた慎二が部屋に戻ろうとした時、
ガタガタガタ………
天井から物音がした。
「ん?なんの音だろう。」
ガタガタガタ………
また音がする。
「屋根裏かな?」
異様に気になった慎二は、屋根裏へと繋がる階段を上がった。
北野邸は住居スペースが1階で、屋根裏部屋は不要な物をしまっておく物置部屋になっている。意外な事に、慎二も入るのは初めてだった。
上がると、いつも鍵がかかっているはずの扉が開いていて、中に入る事が出来た。
「姉さんが鍵閉めるの忘れたのかな?」
ガタガタガタ……
慎二は物音のする方へと歩いて行った。
そこには、1つのアタッシュケースが置かれていた。
「おかしいな…?ここは比較的古い物を置いているはずなのに……」
ガタガタガタ……
箱が小刻みに揺れている。
気になった慎二は、アタッシュケースを開けて中を見た。
すると中には、1つの透明な赤い宝石が入っていた。
「何だろう、これ?」
慎二は愚かな事に、それに触れてしまった。
「…………っ!?」
その瞬間、北野邸は大きな光に包まれた。
これが事の始まりである。
ついに始まります。長らくお待たせしてすみませんでした。
これからもよろしくお願いします!