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夢道の世界  作者: ジニー
第2章 別れ道
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2ー21 「慎二の成長」

 共闘を組んだ2人は握手を終えると、そのまま障害物の陰に身を潜め、周りの様子を伺った。

 「あれ?なんだかさっきよりも戦いの音が静かになった様な……。」

 「うーん、開幕の乱戦で大分人数減ったみたいねー。私達も含めて、残りはざっと65人って所かな?」

 「え、どうして分かるんですか!?」

 「試合開始直後の人の密度のままだと考えれば、この付近に敵が複数いてもおかしくないはずなのに今は私達しかいないでしょ?ここはコロシアムの隅にあって、広さは全体の2割弱。それから中央付近にいる敵の数と合わせて大まかに見積もってみた結果よ。」

 「………!」

 彼女の洞察力に慎二は感心した。

 「これがCランク………。」

 「Cランクって、あんただって………」

 マイムはハッと口に手を当てた。

 「…もしかして、あんたが噂のFランク君!?魔法が使えないっていう、あの!?」

 「あ、はい、そうですけど……?」

 「そうだったんだ〜!ごめん。私つい先日まで休学中で半年間学校にいなかったから、学校(ここ)の最近の状況をあんまり知らなくて………。」

 「こちらこそごめんなさい、共闘相手がこんな頼りない男で………。」

 手を合わせて謝るマイムに対し、慎二は申し訳なさそうに告げる。

 「ん、いやいや!そういう意味で言ったんじゃないから気にしないで!」

 「でも………」

 「でもじゃない、大丈夫!それにあんた、今日は何の為にCランク戦なんか受けてるのさ?」

 「………勝つ為です………っ!」

 「ならそんな弱音を吐く必要なんてないでしょ?」

 「はい!」

 「よきよき!」

 マイムは慎二の肩を数回叩くと、敵の方角に顔の向きを戻した。

 「じゃあ、ジャミル?今から作戦言うからちゃんと聞いててよ〜?」



 2つのグループが交戦している中、慎二は横から割り込むと、倒れている敵の腕に巻かれたスカーフを回収し始める。

 この試験の加点要素は敵を倒す事ではなく、敵からスカーフを奪う事である。その為、戦いに何も関与していない人間がスカーフをとった時、それは倒した者ではなく、奪った者の点数となるのだ。

 「こいつ、人が倒した相手のスカーフを!」

 集団の数人が、慎二の存在に気付くと同時に睨みつける。

 「やばい、バレた!」

 慎二は慌ててバンダナの束を手に握り締め、障害物エリアの方に後退する。

 「待て!」

 彼らは慎二の跡を追いかけ、壁の隅に慎二を追い詰めた。

 「どうだ、もうこれで逃げられないだろう!?」

 「観念してバンダナを返しなさい!」

 「…………っ!」

 彼らが責め立てるも慎二は首を横に振り、バンダナを持つ手を後ろに回す。

 「こいつ………っ!」

 怒った彼らは慎二に飛びかかろうとする。しかし、彼らはその場を動く事はなかった。

 「な、これは………!?」

 否。正確には動く事が出来なかった。地面の土が彼らの足下で盛り上がり、彼らの足は完全に固定されていたのだった。

 「こいつは、上級魔法……っ!?」

 「ご名答。」

 彼らが背後に潜んでいたマイムの存在に気づいたのも束の間、巧みな短剣術で流れる様に気絶させられていった。

 「ま、悪く思わないでね〜。」

 マイムは倒れた彼らのバンダナを取り外しながらそう言った。

 「………わお………っ!」

 慎二はマイムの戦闘技術に思わず感嘆の声を漏らした。ただ、それと同時に思った事が一つ。

 「(彼女は本当にCランクなのだろうか?)」

 と言う疑問である。敵の足を止めていたとは言え、7人の敵を僅か数秒足らずで気絶させる事は、並大抵の人間が出来る事ではない。そもそも複数の敵をまとめて拘束させる魔法制御術は、素人の目から見てもそれが上級者の域である事は理解出来た。


 それからというもの、慎二は彼女による的確な指示の下、囮として、時には2人で挟撃し、敵を打ち倒しバンダナを奪っていく。気付けば残りの人数は30人と、退学処分免除のボーダーにまで迫っていた。

 「さぁ、あともうちょいだ!」

 「はい!」

 もはや2人は潜伏せず、コロシアムの中央で敵を迎え撃っていた。

 「ジャミル、右の3人は任せたよ?」

 「え、マイムさんは?」

 「私は左の2つの集団を叩くから。……あ、そう!危なくなったら私の所に寄ってきな。無理しちゃ駄目だからねー?」

 「え、そんな無茶な………っ!」

 「じゃ、後はよろしくー!」

 マイムが慎二の意見を聞かずに側から離れると、あっという間に彼女に任された3人に周りを包囲されてしまった。

 「げ、いつの間に……っ!?」

 慎二は慌てて辺りを見渡す。

 そこには、剣・槍・弓を手にした男達がこちらに睨みを利かせていた。

 「卑怯とは言わせないぞ!?能無しが!」

 「勝つのは俺らだ!」

 3人はそれぞれの属性魔法を駆使して慎二に攻撃を繰り出そうと、武器に力を込め始めた。対して魔法が使えない慎二は、彼らと同様に魔法で対抗する事が出来ない。そもそも魔法が使えたとしても3対1で押し切る事は困難だろう。また、勝てないからと回避しようにも包囲されている為にそれはほぼ不可能に近かった。

 「……この場合は………っ!」

 絶対絶命の状況の中、慎二は思考を巡らせた。



 「ロマリア先生?」

 ロマリアとのマンツーマン授業の最中、ふと慎二は手を挙げた。

 「はい、何でしょうか?」

 「集団を相手にする時はどうすればいいですか?」

 慎二の質問にロマリアは顎に手を添える。

 「そうですねー………極力1人で、ましてや貴方の場合は複数を相手にする事は避けるべきですが、今回のCランク戦はバトルロイヤル形式なのでそうはいかないでしょう。うーん……。それでは、各武器による必要最低限の対策法を教えるとしましょうか。」



 慎二はそれらの会話を思い出すと、ふぅと息を吐いて気持ちを落ち着かせる。そして剣を構えると、勢いよく弓使いの方向へ駆け出した。


 「まず初めに、弓使いが自身から近接武器使い達と同じ程度の距離にいた場合には、真っ先に弓使いを狙うのが得策です。丁度うちの分隊には弓使いのアリアがいますから、弓の対策は彼女から聞いてください。」


 「馬鹿が、血迷ったか!」

 弓使いは迫り来る慎二に対して魔法の矢を放つ。しかし、風を纏った矢は徐々にスピードが弱まっていき、慎二は剣を振り、遅くなったその矢を難なく叩き落とした。

 「くそ、まだ溜めが完璧ではなかったか!?」

 

 「(アリア先輩の言う通りだ。弓使いは他の武器よりも魔法の行使に多くの時間がかかる。だから、練度の低い弓使いに対しては間合いを詰める事が大切なんだ!)」


 慎二は勢いよく踏み込んで射手の懐に入ると、下から上へと剣で斬り上げる。初弾を撃ち落とされて動揺したのか、相手は防御や回避を行う事なく慎二の攻撃をもろに受け、その場に崩れ落ちた。

 「な!?貴様……っ!」

 「おい、待て!」

 仲間が倒れたのを見て頭に血が上った槍使いは、剣使いの制止を聞かず、力任せに慎二へと攻撃を繰り出す。しかし、慎二はそんな彼の焦りの隙を見逃さなかった。敵の突き出した槍は慎二の正確な回避によって空を切った。


 「槍はリーチが長い分、剣に対して絶対的な有利を得る事が出来ると考えられています。勿論槍にも弱点はありますが………」


 慎二は相手の足の動きに注目する。

 「(両足のかかとが地面についている。なら次の攻撃はきっと………!)」

 慎二は予想通り飛んできた相手の横払いを屈んで躱すと、そのまま相手の腹部を斬り払った。

 「が………っ!?」

 相手は槍を地面に落とし、斬られた腹部を押さえながら前のめりに倒れた。

 「……そんな、魔法の使えない奴にこいつらが負けるなんて………!?有り得ない!!」

 「………さあ、貴方で最後です!」

 「くそ!あいつら、油断しやがってっ!!……俺は本気でいかせてもらうぞ!?」

 剣使いは自身の得物に力を込め、それに赤々とした火を纏わせた。

 「属性技……!」

 「どうだ?これが出来ない貴様には勝ち目はない!大人しく負けるんだな!」

 こちらを焼き尽くさん程の火を放つ彼の剣を見て、慎二は額から汗が流れた。



 一方観客席に座る人々は、慎二のものではない別の戦いに視線が集まり、先程からどよめきが続いていた。それは、慎二の共闘相手であるマイムの無双劇である。


「あいつ、帰って来てたのかよ……!」

 ガイアは彼女の姿を見て思わず呟いた。

「…………。」

 カリトは彼に合わせる様に無言で頷いて、ちらりとアリアの方を見る。それは一種の気まずさからだった。彼はアリアとマイムには底知れぬ因縁が存在する事を知っていたのだ。

 が、そんな彼の思惑は外れ、アリアはいつも通りの様子だった。理由はすぐに分かった。アリアはマイムの事を見てはいなかった。彼女の視線の先にあったのは、不利な状況をなんとか打開しようと奮闘する分隊仲間の姿だけだったのだ。

 右を見ると、それは桜も同じだった。彼女は先程から、まるで祈る様に慎二をじっと見つめ続けていた。

 そうだ、今見るべきものは"彼女"ではない。

 「(全く、何やってるんだか俺は……。)」

 カリトは自分の薄情さを反省する様に自身の頭を数回こついた後、隣に座る同族の頭を強めに叩いた。



 「ねえ、ほら!あれが本当のエリートってものでしょうロマリア。」

 ハリエは隣にいるロマリアの肩を人差しで数回つつく。

 「ん、なんですかハリエ?」

 ロマリアはコロシアムを見つめたまま言葉を返す。その為、いつの間にかハリエがルナールと席が変わっている事にも気付いていない様子だった。

 「ちょっと、本当に聞いてるの!?」

 「……ん、何がですか?」

 「はあ、もう何でもないわよ………。」

 教え子に夢中でこちらに全く興味を示さない彼女を見て、ハリエは大きくため息をついた。

 すると突然、

 「やったーっ!!」とロマリアが喜びの声を漏らし、1人で拍手を始めた。一体何が起こったのかとハリエは彼女の見ている方向を覗いて見る。するとそこには、先程まで包囲していた3人の生徒が地面に倒れ、剣を地面に突き刺しながらも辛うじて立ち続ける1人の男子生徒の姿があった。

 



 慎二は次々と繰り出される剣技に対し、防戦一方だった。

 「見たか、これが力の差だ!お前にこれを打ち返せる術ない!俺の勝ちだ!!」

 「く………っ!」

 悔しいが、彼の言う通りだった。相手が魔法を使って来るのならば、こちらも魔法で対抗するのが通常の戦法である。ただ、慎二にはそれが出来ない。相手の剣を受け続ける事だけでも精一杯である。

 「はぁ……はぁ………。」

 攻撃を剣で受ける度に、腕が少しずつ悲鳴をあげ始めている事が分かった。それに加え、そろそろ体力が底を尽きそうになっていた。

 もう限界だ。

 そう感じていた時、敵がある事を口にした。

 「あのロマリア教官の担当生徒とは言え、魔法が使えないのなら拍子抜けだな。ちょっとこっちが本気になったらこのザマとは!」

 「………!」

 その言葉で慎二は気づいた。このまま自分が負けてしまえば、笑われるのは自分だけではない。自分に剣や戦い方を教えてくれたロマリアや、分隊仲間達にも迷惑がかかってしまう。

 「…駄目だ………っ!」

 そう、それは許されない。その為にも勝たなくてはいけないのだ。

 「(……このままじゃマリスタさん、そして桜と健二、真琴の隣になんていつまで経っても並べない………!)」

 「終わりだ!!」

 「まだだ……っ!」

 慎二は力強く叫んで心を奮い立たせると、弱りきった足腰に再び喝を入れる。そして、どうにか攻撃を躱そうと、相手の剣の動きを注視した。


 その瞬間、

 「あれ………?」

 慎二は不思議に思った。相手の攻撃が自身で考えていたよりもスローであった為である。魔法の使いすぎでバテたのだろうか。心身共に疲弊している彼ですら簡単に避ける事が出来たのだった。

 「何……!?」

 相手はそれを意外に思ったのか動揺している様子であった。慎二は落ち着いて相手の攻撃を受け流し、足をひっかけて相手のバランスを崩した。相手が前のめりに倒れかけて軸足がブレている内に背後に回った慎二は、相手の背中目掛けて剣を上から下へと力一杯振り下ろした。

 体が訓練用の剣に擦れる鈍い音と共に、斬られた剣使いは地に伏した。慎二の勝利であった。

 ボロボロになった体を支える様に地面に剣を突き刺し、他に敵がいないか辺りを見渡した。すると不意に、観客席からこちらに向かって手を振る者が数人見え、慎二は顔を綻ばせる。

 「や、やった………!」

 だが、それからすぐにこちらへと向かって来る足音が聞こえて来たため、その方向に慌てて振り返った。

 「ふう、やったね〜!」

 ただ、その声と立ち姿を見た慎二はほっと胸を撫で下ろす。それは自身の共闘相手であるマイムだった。

 「あんた、魔法も無いのによくやるじゃんっ!」

 「あ、ありがとうございま……す………」

 彼女のハイタッチに応えようと慎二が腕を上げた瞬間、彼の意識は遠のいた。

 「おっと………!大丈夫!?」

 倒れかけた彼の体をマイムは腕で支え、心配そうに顔を覗く。だが、慎二は安心して眠りに着いているだけであったため、彼女はふうっと安堵の息を吐いた。

 「まったく、安心した顔しちゃって。共闘ってだけで、私も一応敵なんだけどな〜………。」

 慎二の寝顔を見ながら苦笑いをするマイム。


 そうしてCランク戦は幕を下ろした。

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