2ー20 「共闘」
観客席では、慎二の弱腰の姿勢に対して非難が起こった。
「逃げてんじゃねえぞ!」
「この腰抜けがっ!」
「臆病者はさっさと引っ込んでろ!!」
中には、誹謗中傷に近い様な声も聞こえて来ていた。
「……………。」
桜はそんな声など気にせず、慎二を目で追う事だけに集中していた。
「よ、桜!」
そんな中、聞き慣れた声の者が彼女の左隣の席に座った。
「ガイアさん!それに、カリトさん!」
「すまんな桜。そこのアホの昼過ぎにも及ぶ寝坊のせいで、少し来るのが遅くなってしまった。」
「いえ、私は別に………!」
「そうか。」
「カリト、そんな事いちいち気にすんなって〜!」
「お前は気にしろ。」
「ぐぅ………!」
ガイアが気まずそうに桜達から目を逸らそうと左を見る。そして仰天した。
「うぁっ!?ビックリした!!」
「アリアさん!」
いつの間にか、ガイアの隣にアリアが座っていた。
「……邪魔だったかしら?」
「いやいやいや!邪魔じゃないっすよ!?全然!」
「アリアさんも、ジャミル君の応援に来てくれたんですね?」
「私は………た、ただ予定が空いていただけよ……っ!」
アリアは3人から顔を逸らす。
「…………それよりもジャミル、苦戦しそうね。」
「そうですね。」
「だな。」
3人が真剣な顔をして呟く中、1人桜は首を傾げた。
「ど、どうしてですか?」
3人が桜に顔を向けると、カリトが口を開いた。
「これはバトルロイヤルだ。その意味が分かるか?」
「敵は自分以外の全員………という事ですよね?」
「そう。個人戦やチーム戦とは違うからな。だがな………?1つだけ、このゲームで手っ取り早く有利になれる方法がある。」
「え、それはどういう…………?………あっ!」
桜は何かに気づいた様に手を叩く。
「もしかして………!」
「そう。"共闘"だ。他者と手を組んではいけない、なんてルールはないからな。」
カリトの言葉に同調し、アリアは頷く。
「Cランクは450人いるから、4ブロックに分けたとはいえ、同じブロック内に分隊仲間がいる人も少なくないわ。」
「そんで、仲間がいねえジャミルは相当キツいってこったな………。」
ガイアがため息混じりにそう言うと、桜は不安な表情で慎二を見下ろした。
「よしっ!」
一方ロマリアは、職員席から慎二の様子を眺めていた。すると試験開始直後、慎二が相手1人をカウンターで倒しているのが見え、思わず立ち上がってガッツポーズを決める。
「………エヘンっ!」
しかし、後ろの席に座っていた副校長にじっと睨まれ、すぐに座って体を縮こませた。
それからすぐに、隣に座る1人の同僚に肩を叩かれ、彼の方に顔を向けた。
「あら、どうしました?ルナール。」
「ロマリア先輩。副校長がCランク戦を観に来るなんて、珍しいっすね?」
ルナールがチラッと後ろを見るのと同時に、ロマリアは静かに頷く。
「ええ。きっと、ジャミルの件でしょう。」
「マリスタ先輩が連れて来た子の1人………。まさかあの少年、魔法が使えないなんてな………。」
「前代未聞です。魔法が苦手なだけならまだしも………」
するとまた新しい声が、ロマリアの声を遮った。
「流石。貴方の生徒にピッタリな子じゃない?」
その声の主は、ルナールやロマリアと同年代の、若い女教官だった。
「【ハリエ】先輩、それはどういう………?」
「そっか。ルナールは中途入学だったから知らないのね?ロマリアが1年の頃、相当な落ちこぼれだったって事。」
「え!?俺の知ってるロマリア先輩からは想像できないんだけど………!?」
ハリエの言葉にルナールは驚愕した。学生時代、ロマリアはSランクに属しており、当時在籍中だったマリスタに次ぐ実力者であった。当時その強さが由縁で、首都『アストラ』にある士官学校に通っていた、アリアの兄との婚約の話が始まったのである。
しかし、ロマリアは気にせずに自分の話を始める。
「そんな事よりルナール?貴方、今はどこの分隊も受け持っていなかったですよね?」
「え?……まあそうですけど……………。」
「ちょ、ちょっと!?無視しないでよ!」
ハリエは怒って隣に座るルナールの前に身を乗り出し、二つ隣に座るロマリアは睨む。
「別に、無視はしていませんよ?」
ロマリアは無邪気に首を傾げる。
「だったら、なんか言ってみなさいよ!」
ハリエの言葉に、ロマリアは表情を変えずに答える。
「私はどうあれ、彼は落ちこぼれではありません。」
「は?あれのどこを見たら落ちこぼれじゃないって………」
「相変わらず、貴女は人を見た目で判断しがちですね、ハリエ。」
「な、何ですって〜!?」
ハリエはロマリアの言葉に触発され、席から立ち上がろうとする。
「エヘン!」
副校長が再び咳払いをしてこちらを睨み付けていたため、ハリエはそのまま何も言わずに口を閉じた。
ロマリアはその様子を横目で見つめ、そのまま視線を試合に戻した。
フィールドでは、慎二は障害物の角から飛び出して来た敵とぶつかっていた。
「うわっ!?」
「きゃあ!」
衝突した衝撃で、慎二は地面に尻餅を着いた。
「いてて………!」
慎二はぶつけた腰を押さえる。
「ごめんごめん!あんた大丈夫?」
ぶつかった相手は転んでいないらしく、上から慎二に手を差し伸べる。慎二はその手を取って立ち上がると、お尻についた砂埃を払った。
「うん。大丈夫大丈夫………。」
「そう?なら良かった良かった!」
笑顔でそう答える少女に、慎二も笑顔で答える。
「ん………?」
「あれ…………?」
2人は向かい合ったまま、頭を捻る。
「何か忘れている様な気が………あっ!」
「やばっ!」
そして、お互いはある事を思い出した。自分達は敵同士であるという事に。
2人は数歩後ろにさがり、お互いの得物を構える。
「(しまった、油断してた!)」
「(敵の前なのに、私何やってんのっ!?)」
2人は、額に汗を浮かべながら、ジリジリと歩み寄る。両者の間に緊張が走る。
「……………っ!?」
しかし、慎二はある事に気づき、目の前の相手から視線を外す。
「……隙あり!」
少女はそれを見て、素早く慎二に短刀を振り下ろす。
「な………!?」
しかし、相手は回避行動を取ることなくまっすぐ向かって来たため、少女は思わず手を止めた。
その瞬間、少女は不意をつかれたと思い敗北を確信する。しかし、
「危ないっ!」
目の前の少年は少女の前を通り過ぎ、少女の背後で、武器同士のぶつかる音が鳴った。
「な…………!?」
彼女が慌てて振り返ると、そこには彼女に向けられた攻撃を必死に受け止めている慎二の姿があった。
少女は驚いて振り返ると、不意打ちを仕掛けた敵の背中にまわり、短剣の柄で頭を殴って気絶させた。
慎二は剣を収めると額の汗を拭う。
「ふぅ………。良かった〜………!」
「良かった〜………じゃなくて!なんで今私の事を助けたのよ!?」
助けられた少女は訳が分からず困惑していると、慎二はそれに真顔で答えた。
「だって、ぶつかって倒れた時に助けてくれたじゃないですか?」
「え、それだけで!?………あはは!あんた、とんだお人好しね。」
そして数秒後、彼女はクスッと笑って慎二に顔を向けた。
「分かった。ねえあんた?良かったら私と組まない?」
「それは………共闘って事ですか?」
「そう。貴方が良ければね。」
「うーん………。分かりました!」
慎二は数秒黙った後、笑顔で答える。
「よし、決まりね!私は【マイム】。あんたは?」
「ジャミルです!」
「ジャミル、よろしくね!」
「はい!」
2人はもう一度、お互いの手を握り合った。




