2ー17 「僅かな疑念」
翌朝、慎二が訓練ルームを訪れると、いつものようにアリアが弓の練習をしていた。
アリアもこちらに気づき弓をおろす。
「アリア先輩、おはようございます!」
「……おはよう…………。」
1時間が経った頃、2人は慎二が持って来たパンを食べながら休憩する事した。
「なんか昨日の夜から桜がずっと上機嫌だったんですけど、アリアさん何か心当たりあります?」
「………さあ?」
慎二の問いに、アリアは目線を逸らしてそっぽを向いた。彼の目からは彼女は何も知らない様に見えた。
この世界に来て以来、異様に桜のテンションが上がった事は分かっている。しかし、昨日は今まで以上だった。料理を作っている時、ずっと隣で鼻歌を歌っていた。彼女の鼻歌を聞いたのはこの世界に来てからはおろか、知り合って以来の事かもしれない。つまり、ただの空元気ではなく素で喜んでいるという事だろう。
「ところでジャミル。昨日はどうだったの?」
「昨日とは?」
「ほら、あの人の個別レッスン。」
「ああ、それが………一生懸命教えてくださるんですけど、まだ魔法は使えないみたいです………。」
「………そう。でもまぁあの人、やり方は周りくどい所はあるけど教え方は悪くないと思うから。」
「そうなんですか?」
「ええ。あの人は昔からね。」
慎二はアリアの言い回しに首を傾げる。
「あれ、昔って、ロマリア先生は今年度入った新任の先生なんですよね?それにしてはやけに詳しいような……」
それを聞いたアリアは「ああ。」と言って話し出す。
「そう言えば言ってなかったわね。あの人、ロマリア・エルサルベルトは、私の兄の婚約者で、以前から面識があるのよ。」
「なるほど。だから…………………えっ!?」
ん、今なんて言った!?
慎二はその意外な事実に驚いた。
「い、いつ結婚するんですか!?」
「さあ、確か結婚は延期になったって聞いてるけど、詳細な日程は知らないわ。」
「延期?何か問題でも?」
「彼女、特殊部隊時代にあった事故による心の整理が追いついてないみたいよ。…………って、しまった……!」
アリアは話の途中で、慌てて口を押さえた。
「アリアさん?」
「……この話、秘密なんだった……………。」
「………へ?」
慎二はアリアに念入りな口止めを受けてから数時間経ってもなお、慎二は婚約の話………いや、事故の話が気になっていた。
剣の打ち合い中、ロマリアは構えていた剣をおろした。
「ふぅ………!少し休憩にしましょうか?」
「………………。」
「……ジャミル?」
「………え……………あ、すみません!」
慎二は先程のアリアの話が気になり、上の空になっていた。
「先程から上の空の様な気がするのですが、どこか体調でも悪いのですか?」
「いえ、すみません!別にそういう訳ではないんですけど………。」
「もしかして、何か悩み事でも?私で良ければ………」
「あの………?」
「ん?」
「その、1つ聞いていいですか?」
「はい、何でしょう?」
慎二は好奇心に抗えず、ついに"例"の事に触れる。
「先生って、教官になる前は何をやっていたんですか?」
ロマリアは手を顎に添えて数秒考え込むと、いつもの様に話し始めた。
「私ですか?去年までは【フィンストール】基地の特殊部隊に所属していました。」
「フィンストールって、ザンクトブルクの領土最北部の基地ですよね?」
「はい。あそこは国土東北部の中でも格別で、こことは比べ物にならない程、それはそれは寒い所でしたね〜。」
ロマリアはそこの寒さを思い出したのか、両腕をさすり始めた。
…………なんだろう?
話を聞く限り、昔の話をしても特に落ち込んでいる風には見えない。本当に事故なんてあったのだろうか。
その後もまた何事もなく、彼女はその地域で食べた物や特産品など、色々な事を楽しそうに話すだけだったため、慎二は事故の話について触れる気にはなれなかった。
午前と午後の訓練が終わり、慎二とロマリアは分隊室に行くため校内の廊下を歩いていた。
今日は昨日よりも上手く戦えていたような気がした。相変わらず魔法は使えなかったが………。
「お、ジャミルとロマリア先生じゃん!」
すると、後ろから知っている声が聞こえたため振り返る。そこには、ガイア・カリト・桜の3人がいた。
「こんにちは、ガイア先輩、カリト先輩!」
「こんにちは3人とも。」
「おう、ジャミル!先生もこんにちはっす!」
「ジャミル、先生、忙しそうなところすみません。」
「いえ、全然問題ないですよ?」
「それと………桜?」
「はい!」
慎二の声に、桜は元気に返事をした。
「なんか、桜と先輩達が一緒にいるのって珍しくないですか?」
「ん、そうか………?まあ確かに、いつも分隊室でしか会わなかったしな?」
「確かに。今日はSランクとAランクの合同訓練があって、たまたまその成り行きだ。」
「そういえばそうでしたね。それで、アリアは一緒ではないのですか?」
ロマリアは辺りを見回すが、彼女の姿はどこにもなかった。
「ああ、さっき会ったんですけどね。書物室に寄ってから行くって言ってました。」
「なるほど。では、私達は一足先に行きましょう!」
そうして、5人は彼女よりも先に分隊室へと行き、中に入った。
そして………
「「「「「え!?」」」」」
5人はそう同時に声を漏らす。
「やっと来た………。」
当然のように椅子に座っていたアリアは本を閉じ、テーブルの上にある、書物室から借りて来たであろう本の山に重ねた。
「ほら、せっかく揃ったのだから早く始めるわよ?」
「「「「「あ、はい………。」」」」」
アリアの足の早さに驚かされた5人は、それぞれ所定の位置に大人しく腰を下ろし、分隊のミーティングを始めた。




