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夢道の世界  作者: ジニー
第2章 別れ道
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2ー16 「桜vsアリア」

特訓1日目。慎二とロマリアは森にいた。

「じゃあ、早速特訓といきましょうか?」

「お願いします!」

慎二の声にロマリアは頷くと、引いてきた荷車の荷台から、1足の金属ブーツを取り出すと、それを慎二に履かせた。

「ロマリアさん、これは?」

「それは、魔力に反応する金属で作られた特殊ブーツです。」

「特殊ブーツ?」

「はい。」

ロマリアはもう1足取り出して自分で履くと、思いっきり上にジャンプした。

「うわっ!?」

慎二は驚いて上を見ると、木の上立つロマリアの姿があった。

「よし、僕も………!」

慎二は足に力を込めて、思いっきり跳ぼうとしたが、ブーツが重く、普段よりも低い高さしか跳べなかった。

それを見たロマリアは、木から飛び降りて、慎二の側で綺麗に着地した。

「これを履くと、自身の魔力を使う事で、身につけている部分の身体能力を底上げする事が出来るのです。こういうのは、普段特殊部隊の兵士しか身に付ける事が出来ない、とても貴重な物です。」

「はぁ……?でもそれを何故自分に?」

「貴方は属性が無いにしても、生きている限り、微量であっても魔力自体は身体に流れているはずです。これを履く事で、自身の内の魔力がブーツに反応して、貴方の魔力を引き出す事が出来るかもしれません。」

「あ、なるほど!」

慎二は手を打って納得した。

「それじゃあまずは手始めに、先程私がしたように、木の上までジャンプ出来るようになりましょう!」

「そうは言っても、一体どうすればいいんですか?」

「足に体中の全神経を集めるようにイメージしてみてください。そうすれば跳べるはずです。」

「分かりました!よーし………っ!」

慎二は大きく深呼吸をきて気持ちを落ち着かせると、ゆっくりと目を閉じた。

「(足に全神経を集中………と。)」

すると段々、足に力が入ってくるような感覚がした。

「(よし、跳べる………っ!)」

そう確信した慎二は、真上の木に向かって大きく跳躍………したつもりだったが…………

「え、うわぁっ!?」

慎二は先程と同じく鎧の重さでバランスを崩し、低空の跳躍後、後ろにすっ転んでしまった。

「あちゃ…………っ!これでも駄目ですか………。」

後頭部を押さえて痛がる慎二を見て、ロマリアは咄嗟に顔を手で覆った。



「…………さて!次は気を取り直して、剣術の訓練をしましょう!」

「は、はい……っ!」

ロマリアが腰から剣を抜くと同時に、慎二も剣を構えた。

「それではまず、私は全て防御に徹しますので、全力で攻撃を仕掛けてきてください。」

「分かりました。…………ではっ!」

慎二はそう言うと、ロマリアの元へと駆けた。

そこで、慎二は以前よりも、自身の足が軽くなっている事に気付く。

それからすぐに慎二は間合いに入ると、剣を横に払った。これも同様、以前と比べて振りが速くなっている、それに振ってから構え直すのも楽になっている。

これは普段の練習の成果なのだろうか?

後でいつも教えてもらっているアリア先輩にお礼を言わなくては。


「……………。」

しかし、それをロマリアは一切顔色を変える事なく打ち流す。やはりロマリアには未だ手も足も出ない。

「…………はぁーーっ!!」

その様に分かってはいながらも、慎二は果敢に攻め続ける事をやめなかった。






時を同じくして、桜はロマリアから言われた訓練の一環として近所の花屋を見学していた。

桜は店員から話を聞いてメモを取り終えて席を立つ。

「本日はお忙しい中ありがとうございました!」

「また来てくださいね、学生さん。」

桜は店員と挨拶を交わして店を出た。

それから街を少し歩いていると、前にアリアが歩いているのを見つけた。

「あ、アリアさーん!」

桜の声に気付いたのか、アリアはこちらに振り返った。



2人は近くの公園に立ち寄り、ベンチに腰を下ろした。

「アリアさんもレポートですか?」

「ええ。一応あの人からの課題だから………。」

アリアは先程買ったお茶を口に運ぶのを見て、桜も同様に飲み物を飲んだ。

しかしそれからというもの、全くもって会話が続かない。実際のところ、初めて会った時や、慎二と2人きりでいた例の出来事などから、桜にとって彼女は少し気まずかった。

桜がどうしたものかと頭を悩ませていた時、先に話しかけたのはアリアだった。

「貴女、どうしていつも本気で戦わないの?」

「え?」

「私には分かる。貴女が本気を出したらすぐに私を抜いて1位になる事が出来るって。」

「いや、その………私なんか全然………」

「そうじゃなかったら入学当初にSランク2位になんてなれっこないもの。何か理由があるんでしょう?」

「それは………」



「………なるほど、その剣術大会で相手が貴女に恐怖している事に気付いて、戦う自分そのものが怖くなってしまったと?」

「……はい…………。」

桜は自身の素性を伏せつつ、自身のトラウマについてアリアに話した。

それを聞いたアリアは飲み物を1口飲むと、静かにため息を吐いた。

「………貴女、そんな事で悩んでいたの?」

「え?」

俯いていた桜は頭を上げた。すると、隣にいたアリアはベンチから腰を上げていた。

「アリアさん?」

「少しついて来て。」



桜とアリアがついたのは、第3分隊の訓練室だった。

既に2人は互いの得物を持ち、向かい合っていた。

「ルールは簡単。勝敗はどちらかが得物を失うなど、相手を戦闘不能にさせた方が勝ち。分かった?」

「あ、あの………?」

桜は戸惑いがちアリアに尋ねた。

「どうしてこんな事を?」

アリアは桜の言葉を無視して矢筒から矢を1本取り出して弓にかけ、準備万端のようだった。

「貴女が動いてスタートよ。さあ、来なさい。」

「は、はい………!」

桜は訳が分からない中、言われるがままに地面を蹴り、剣に魔法をかける。

それを見たアリアは矢を矢筒にしまうと、楽な姿勢で桜が来るのを待った。

桜は不思議に思いながらも、彼女に剣先を突き出す。

「………………っ!」

アリアはそれを待っていたとばかりに一瞬で弓を構えて魔法をかけると、彼女の剣を軽々と躱し、腹部に弓の芯を叩きつけた。

「ぐぁ…………っ!?」

桜はアリアの攻撃をまともに受け、剣を落として膝をついた。

「まずは1本。」

「けほっ!けほっ……っ!」

アリアは痛みで蹲る桜を見下ろす。

「目を閉じながら攻撃なんて当たるとおもっているの?そんなの誰だって躱せるに決まってるじゃない?ほら、早く立ちなさい。」

「うっ………く……っ!」

桜はアリアに促されて立ち上がる。まだ腹部はズキズキと痛みが走っている。アリアは本気だ。

(やらないと、やられる………っ!!)

桜はそれを本能的に察していた。しかし、相手ひとと向き合っていると、どうしても腕に力が入らない。

「なら、次は私からいくわ。」

アリアは矢を番えると、力一杯に引いて射た。

矢は炎を纏い、桜に向かって真っ直ぐに飛んでいく。

「……はあ………っ!」

危険を察知した桜は咄嗟に矢を剣で叩き落とす。

「……………っ!?」

しかし、それだけでは終わらなかった。アリアはもう既に弓を構えて狙いを定め、次の矢を飛ばしてきた。その一連の動作の手際と精度は、学園一の名にふさわしいものだった。

桜は次々と飛んで来る矢を弾き返すのに手一杯で、攻撃に踏み込む事が出来ない。


しかしそれは何本目だっただろうか。

桜が先程からのように矢を叩き落とそうとした時、矢は剣とぶつかる直前に2つに別れたのだった。

「(あれ、手応えが………?」」

すると不思議な事に、その矢はそのまま剣とすれ違い、桜の顔に飛んで来た。

「……………っ!」

しかし桜にはそれがしっかりと見えていた。咄嗟に頭を下げ、横に転がる。

なんとか避け切った。

と、安心するのも束の間、桜はアリアを見て気を引き締め直す。

アリアはこれまでとは比べ物にならないくらい魔力を放出して、それを矢に纏わせていた。

「まずい………!!」

桜は慌てて剣にありったけの魔力を集中させる。すると剣はたちまちに水色の光に包まれた。


「飛翔しろ………私の不死鳥フェニックス………っ!!」


アリアは自分に言い聞かせるようにそう呟くと、弓を引いていた右手を矢から離した。

彼女の手から離れた矢は大きな炎を上げ、宣言通り鳥の形となって飛んで行った。


「はぁぁぁ〜っ!!」


桜はアリアの矢が飛び出すのとほぼ同時に腕を振り上げると、矢目掛けて力の限り振り下ろした。

2つの魔法が衝突し、訓練室は大きな衝撃に包まれる。



次第に霧が晴れ、視界が見えるようになった時には、もう既に勝負はついていた。

アリアは桜を蹴り倒すと取り押さえ、彼女の顔を床に押し付ける。

「………隙だらけね?」

「……ぅ…………っ!」

桜は拘束を振りほどこうともがいてみたが、完璧に固定されていた。

しばらくしてから、アリアは静かに口を開いた。

「貴女、一体なんのためにここにいるの?家のため?自分のため?」

「……………っ!?」

「理由は誰にだってあると思っていたけれど、ひょっとして貴女には何もないんじゃないかしら?」

「(違う…………。)」

「何か目的があるなら、自分が周りにどう思われているかなんて関係ないわ。貴女はただ単に戦闘自体を怖がっているだけ。そんな臆病者はここにはいらない。」

「(…………違う、違う違う違う………!私は健二君と真琴さんと………何より「彼」のために……………っ!!)」

桜は無意識にアリアを睨む。心の底から感情が込み上げて来て、体全体が熱くなっていくような気がした。

それに気付いたのか。アリアはさらに言葉を続ける。

「そんな事をずっと続けていれば、いずれ貴女は何も出来ずに破滅して、全てを失う事になるわ。大切な物、そして『自分が大切に思っている人』も全てね………っ!!」


「………………っ!!」


アリアのその言葉で、桜の中で何かが燃え上がる。

桜は感情任せに体を動かし、自由になった右足でアリアを蹴り飛ばすと、低い姿勢で剣を構え直した。

アリアもすぐに体制を立て直し、桜と対峙する。

「ようやくやる気になったのね?」

「………私は何も失わない!失いたくないっ!」

桜がアリアを睨んで叫んだ時、彼女の体が青色に激しく輝き出す。

それから、1秒も立たない内に、アリアの視界から桜の姿が消えた。


「…………後ろ……………っ!?」

背筋に悪寒が走ったアリアは急いで振り返る。そこには、異常な殺気を放った桜が剣を振るっているのが目に入った。

アリアは咄嗟に弓を横にして突き出し、迫り来る豪剣を防いだ。

「ぐ………っ!!」

果たしてそれは防御になったのだろうか。

アリアはその攻撃に耐えきれずに体もろとも吹き飛び、地面に全身を打ちつけて転がった。

「う…………あ……………!」

桜の一撃で一瞬意識を失いかけたアリアは、立ち上がろうと膝を立てる。その時、彼女は自身の身体の異常に気がついた。

「(腕が………動かない……………?)」

何度も腕を動かそうとしても、小刻みに震えるばかりで全く反応がない。

それからすぐに、動かなくなったアリアの手から、ヒビが入って弦の切れた弓が滑り落ちた。


この感じ………あの時もそうだった。

自分は久し振りに家に帰って来た兄と手合わせした時も体が震えて動かなかった。

そんな私を冷ややかに見つめる軍人である兄の目…………。あれを思い出すだけで、今でもはらわたが煮えくりかえりそうになる。

「……………ち……っ。」

アリアは目を閉じながら思わず舌打ちする。こんな無様にしゃがみ込む自分を、彼女も兄と同じく見下している違いない。

兄と彼女は似ていた。生まれもった才能に恵まれ、必死に努力を重ねた者を簡単に蹴落としていく。アリアはそんな人種が大嫌いだった。

しかし、


「ごめんなさい……ごめんなさい…………っ!」


桜から発せられた予想外の言葉に、アリアは驚いて目を開けた。



「はぁ……はぁ………っ!」

それを見た桜は肩の力を抜いて魔法を解き、剣を鞘に納めた。そして、乱れた息を整えながら、しゃがみ込んだままでいるアリアの所へ歩いた。

「……アリアさん…………。」

呼びかけても反応がない。アリアは変わらずに俯いたままだった。

桜はもう1度名前を呼ぼうとした時、ある事に気が付いた。

「……………っ!?」

アリアの体は小刻みに震えていた。その瞬間、桜は全てを悟ってしまった。

「……あ……………あ………っ!!」

またやってしまった。私はまた誰かの心を傷つけてしまった。

桜は息苦しくなり、反射的に胸を押さえる。

「ごめんなさい……ごめんなさい…………っ!」

桜はそう言いながら無意識のうちに後退りする。整えたばかりの呼吸が荒くなっていくのが分かった。

「……………っ!」

桜はそこにいる事が耐えられなくなり、出口に向かって走り、扉に手をかけようとした時だった。



「待って…………!!」


後ろから声が聞こえて振り返ると、立ち上がって服についた汚れを払うアリアの姿があった。

「……あの…………?」

「貴女がそこまで出来るとは思っていなかったから、少し驚いていたの。」

アリアは、未だ微かに震える両手を後ろに組みながら、平然を装った。

「だから、別に貴女が謝る必要なんてないわ。むしろ謝るのは私の方。………「桜」、先程は心無い事を言ってしまってごめんなさい。」

「え…………?」

桜は彼女に初めて名前で呼ばれた気がした。

その言葉を聞いた桜の呼吸は落ち着き、動悸もなくなった。

「も、もしかして、私のために………?」

桜の問いにアリアは頷くと、ゆっくりと桜に近づいた。

「それでどう、答えは出たの?」

桜は彼女にそうはっきりと告げて見つめた。

「はい。私、分かりました。自分は何の為に戦い、何を守りたいのか。」

「そう、それはなにより。」

アリアはそれだけ言うと、壊れた訓練用の弓を処分用の箱に入れ、訓練ルームのドアを開ける。その時、桜はアリアを呼び止めた。

「あ、あの…………っ!」

「なに?」

「今日は、本当にありがとうございましたっ!!」

アリアは首を後ろに回して、丁寧にお辞儀をする桜を見て口元を緩ませると、何も返さずにルームをあとにした。


それからアリアは自身の部屋に戻る最中、今日、自身を打ち負かした彼女への対策の思案に心を躍らせていた事は、彼女自身でも気付かなかった。

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