2ー13 「天才の拳」
翌週、慎二達5人はロマリアからランク戦の結果報告を受けていた。
「おめでとうございます、ジャミル。Fランク1500位からDランク1028位に昇格です!」
「っ!はい!ありがとうございます!」
慎二はロマリアから通知書と緑のバッジを受け取る。
「やった〜、最下位脱出〜!」
「やりましたね、ジャミル君!」
「良かったなっ!」
「良くやった。」
「まあ当然ですが………おめでとう………。」
「みんな………!ありがとうございますっ!」
「……………」
「ロマリアさん?どうかしましたか?」
新しいバッジを付けて喜ぶ慎二に対し、ロマリアは目を細めてそわそわしていた。
「いえ。………貴方は下位ランク試験の得点が1番高いのですから、もう少し上がっても良かったのではと…………。」
「まあ…………でも、僕は上がった事だけでとりあえずは満足です。」
「……そうですか?」
「心配しないでください。これからもっと昇格しますので!」
「………そうですね!皆さん。この調子で明日からも訓練に励む様に!………それでは解散!」
5人はロマリアに挨拶すると、分隊室を出て、それぞれの行き先に分かれた。
「おし、やっとAランクになれたぜー!」
「Aランク最下位だけどな?」
「分かってますよ〜「Aランクトップ」様!」
「その言い方………なんかムカつくな………?」
ガイアとカリトはAランク。
「ふぅ………。なんとかキープね。」
アリアは通知書を見ると、額の汗を拭って深呼吸した。
5人が分隊室を出て行った後、
「ふぅ…………。……ぅぐ………………っ!?」
ロマリアは胸を押さえながら床に膝をつく。
「しまった………発作が……………っ!?」
そして、懐からいくつかの薬を取り出すと、急いで口に押し込んだ。
その頃、慎二と桜は自室に戻る為、並んで廊下を歩いていた。ランク発表時は講義も訓練も無く、これから何をするかを考えなければならない。
「へぇー。Sランクはトーナメント制だったんだ!」
「はい。」
「そっか……。………今回は、残念だったね………。」
慎二は桜を見て、気まずそうに俯く。今回、桜はSランク2位から7位に落ちていたのである。
「そ、そんな!北野君はそんな顔せずに自分の結果を見て喜んで下さい。私はただ実力不足なだけですから…………っ!」
「桜…………僕は…………」
そうしていると、慎二は前から歩いて来た少年と偶然目が合い、お互いに足を止めた。
すると、少年の方から慎二の元へと近づいて来た。
「よう。数週間ぶりだな、ジャミル?」
「君は……「ゴメス」…………?」
「ゴーシュだっ!」
「あれ?ごめん………。」
「……お前、順位は?」
「えーっと、Dランク1028位になった。」
「……そうか…………。」
「君は?」
「ああ、俺は35位だ。」
「あ、3つ上がったんだ?良かったじゃん!」
「なんでそこは覚えてるんだよ…………?」
お前と話していると調子狂う、と言って頭を掻くゴーシュ。
それから少し間が開いた後、ゴーシュは再び慎二の方を見る。
「お前、これから時間あるか………?」
「え、うん…………?」
「そうか。なら…………」
「なら?」
「………俺と手合わせしてくれないか?」
「え?君と………?」
「ああ。」
突然の事に慎二は驚いた。
「俺は、試験で見た時からずっと、お前と戦ってみたいと思っていたんだ。普段忙しくて、今日くらいしか無いだろ?」
「い、良いけど……僕なんかで良いの?」
「ああ。場所はお前の好きな所を選んでくれて構わん。」
「分かった。」
そうして、慎二は手合わせの場に自身の分隊の訓練ルームを選んだ。
入ってすぐに2人は装備を整え、部屋の中央で向かい合う。
慎二は訓練用の剣と小盾を握る力を強め、じっと相手を見つめているのに対して、ゴーシュは両手に金属製の訓練用籠手ををはめ、ピョンピョンと飛び跳ねたりなど、軽く体を動かしていた。終わると、彼は顔の前に腕を構える。
「勝敗はどっちかが気絶するか、参ったっていうまで続ける。準備はいいか?」
「うん………!」
「よし、じゃあ行くぞ?」
パァン!!
ゴーシュの合図とともに、桜は空砲のピストルを上に上げ、手合わせ開始と引き金を引いた。
先に動いたのはゴーシュである。
籠手を赤く光らすと、彼は超スピードで間合いを詰めた。
「速い…………っ!」
「おらぁっ!!」
繰り出された拳に対し、慎二は素早く剣を盾にして、何とか初撃を防いだ。
そのまま慎二は後退し、再び剣を構え直す。
「危ない危ない………!」
たかが1発のはずだが、慎二は剣を握る手をビリビリと痺れさせた。
「(これがAランク上位………っ!)」
「よく防いだ。」
そう言うと、ゴーシュは両拳を合わせる。すると、さっきまで光るだけだった籠手が、今度は火を放ち始める。
「なっ!?」
「んじゃあ、どんどん行くぞ!」
驚く慎二を休ませまいと、ゴーシュは連続で攻撃を仕掛ける中、またも慎二は守りに徹する。
「はぁ…はぁ………っ!!」
早くも息を切らす慎二に対し、ゴーシュは攻撃中でも全く息を切らしている様子は無い。
「どうした!?守ってるだけかっ!?」
「く………っ!(速すぎる………!どうすれば良い………!?)」
相手の攻撃を必死に防ぎつつ、どうにかして隙を作りたい慎二は色々模索するが、中々良いアイデアが思いつかない。
その時、ふと慎二は前のゴーシュの目を見る。その時、彼は何かに気づいた。
(そうだ………!)
(こいつ………よく防ぐな……………っ!)
ゴーシュは何度も拳を繰り出すが、その度に剣で完璧に防いで全く態勢を崩さないため、押しの一撃を放つ事が出来ずにいた。
奴の手から剣さえ離れれば決められるのだが………
すると、ゴーシュの押しに負けたのか、やっと慎二の手から剣が弾き飛び、態勢を崩す。ゴーシュは情けなく地面に落ちる剣を見届けた後、目の前の敵に向かって、魔力を最大に溜めた右ストレートを突き出した。
(勝った………っ!)
勝利を確信したゴーシュはニヤリと笑いながらジャミルの顔を見る。
「あ………っ?」
しかし、慎二はまったくもって冷静な顔だった。
そんなジャミルの顔を見たゴーシュは何かを悟ったのか、表情を強張らせた。
(やっぱり………っ!)
予想通り、と、剣が飛ばされた後、目の前から来る右ストレートを見て慎二は思った。
すぐさま慎二はわざと崩した態勢を立て直し、すぐさま屈んで攻撃を躱す。それから、慎二は姉から教えてもらった最強の一撃を放つ事にした。
これは、慎二が静江とアクション映画を見ている時の事だった。
「わっ!パンチ一撃で倒しちゃった………!」
「おーっ!なかなか…………」
「ねぇ、これって本当に効くの………?」
「ん?まっさか〜っ!」
「だよねー。」
「でもねー…………ある事にはあるよ?」
「え?」
静江は人差し指を立てて慎二の方に顔を向ける。
「……教えて欲しいー?」
「いいや………。」
「まーまーそう言わず…………。それはね………?」
今こそその技を見せる時。慎二はゴーシュの鳩尾に手の指先を立てる。
「はっ!!」
それから指を畳む手の勢いを使い、一撃の拳を放った。
「がは…………っ!?」
上手くツボに入ったのか、ゴーシュは眼の焦点を狂わせて慎二の隣で前のめりに倒れた。
「やった…………やった……………っ!」
慎二は、キメ技が成功した事と戦いに勝利した事の嬉しさで、ガッツポーズをきめる。
「やった………ジャミル君が勝ちましたー!」
遠くから見守る桜も笑顔で両手を握り合う。
だが、本気で決まった時は明日まで起きない事があると姉が言っていた様な気がするが…………
「一応声かけないと…………。」
慎二は倒れているゴーシュに近づいて、肩を数回叩く。
「ゴーシュ、ゴーシュ?大丈夫?」
すると、気がついたのか、ゴーシュの体がピクリと動いた。
「ふぅ、良かった。明日まで起きなかったらどうしようかと…………」
「………………っ!?」
その時だった。
ゴーシュの腕が上がって膝を曲げたかと思うと、拳に力を込め、慎二に向かって殴りかかったのだった。
「やば…………っ!」
それにいち早く気付いた慎二は、咄嗟に盾を構えてガードすると、数歩後退した。
ゴーシュは鳩尾を押さえながらゆっくりと立ち上がる。
「やって…………やってくれるじゃねえか………っ!?」
「確かに決まった筈なのに………!なんで立てるの…………!?」
「お前に良いもん見せてやるよ…………?」
「………良いもの……………?」
慎二は彼の言った事が分からずに首を傾げる。しかし、目の前にいるゴーシュを見て、大きく目を見開いた。ゴーシュのナックルから放たれている魔法の光が、左右で違っている事に気付いたからである。右は先程と同じ赤色だが、左は茶色になっている。
「え………まさか……………?」
「ああ…………。そのまさかだっ!!」
慎二の呟きに答えたゴーシュは、最後、両拳にかかる魔力を爆発させるように光らせた。
「……………っ!?」
慎二は数秒目を閉じた後、ゆっくりと開ける。すると、彼は思わず我が目を疑った。
右手には赤々と燃え上がる炎が。
左手にはゴツゴツとした岩を纏わせたゴーシュがいた。
「覚悟は出来たかゴラァ……………っ!?」
「嘘でしょ…………!?」
ゴーシュの技は慎二も知っていた。
あれは俗に「二連魔法」と呼ばれる派生魔法の1つである。あれには高度な技術が問われ、使用出来る者が限られているため、まさか士官学校の生徒の中で出来る者がいるとは慎二は思ってもいなかった。
「行くぞっ!!」
ゴーシュが掛け声をあげた瞬間、慎二の視界から彼の姿が消える。
「あれ?どこに………まさか……………っ!?」
姿が見えないながらもとてつもない気配を感じ取った慎二は、咄嗟に跳んで後退する。
すると、先程慎二がいた所に上空からゴーシュの拳が振り下ろされる。その瞬間、ゴーシュの拳を受けた床の反発で、半径数メートルで爆炎が起こった。
「あっつ………!今の喰らったら気絶どころじゃないって!」
慎二は慌てて辺りの火の粉を手で払う。すると………
「ジャミル君っ!!」
ふと遠くから桜の声が聞こえた。
「桜っ!?」
「早くそこから離れてくださいっ!!」
何事かと慎二は煙がかった前方を見るが、未だにゴーシュの姿は見えない。
「ん…………っ!?」
そんな中、慎二はある音を聞いて下を向く。すると、自分の周りの床にヒビが入っていた。異変を感じてその場を離れようとする慎二だが、あと数秒遅かった。
突然床のヒビが割れたかと思うと、その割れた狭間の中から歪な形の岩が地上へと盛り上がると、その全方向から出て来た岩が慎二の下半身を挟んで固定した。
「が…………っ!?」
慎二は突如現れた岩に体を拘束され、全く身動きが取れなくてなってしまった。
「こ、この…………!駄目だ、壊れない!」
慎二は逃げ出そうと素手で岩を叩くが、ビクともしない。
「そこで大人しくしてろ……………。」
「え?」
前を見ると、左手を地面に叩きつけ、地中の岩を操作しながら、右手に火を溜めているゴーシュの姿があった。
「歯ぁ食い縛れ…………っ!」
「ちょ、ちょっと待って!?ま、参った!参ったからもう終わりにしよう!!」
しかし聞こえていないのか、ゴーシュは力を溜め終え、右手をグッと握りしめる。
「駄目だ。あれ、完璧頭に血が上ってるわ………っ!」
慎二は身体を動かすも、拘束が緩まる気配すらない。
「ジャミル君っ!!」
またもや桜の声が聞こえて横を向くと、先程落とした慎二の剣を握ってこちらへと走る桜の姿が見えた。しかし、距離的に見て流石の桜でも間に合わないだろう。
「これでくたばれ〜っ!!」
「……終わった………っ!」
ゴーシュが右手を前に繰り出したのを見た慎二は、じっと目をつぶり、自身の死を覚悟した。
最近、投稿遅くなり気味ですいません!作品の手直しや、この作品が終わった後の作品の構想練りをしていました。
これから遅くなる事が増えますが、どうか気長に待っていただけると嬉しいです!




