1ー3 「日々の生活」
両親が死んでから、2人暮らしにしてはあまりに大きな和風の屋敷(家)に帰ると、慎二は早速夕食の準備を始めた。静江はその間に洗濯物を畳んだり、風呂掃除などをしてくれた。
そして、2人とも仕事が終わると、いつも通りにテレビを見たり、2人でくだらない話などをしながら夕食を終える。これがいつもの習慣である。
「ねえ、慎二?」
「ん、何?」
食後のお茶でくつろいでいた静江が、すぐ側の台所で食器洗いをしていた慎二に話しかけた。
「………今の生活は楽しい?」
ちょうど食器が片付いたので、らしくない質問をする姉の所に行った。
「どうしたの?いきなり。」
「いやぁ、私はほとんど帰りが遅いから、こうして毎日ゆっくり出来ない訳でしょ?いつも家の事はほとんどあんたに任せているわけで……、大変じゃないかなーって思ってね。……やっぱり今の生活は嫌でしょ?」
「え?」
いつもあんな能天気で自己中気味(少し言い過ぎだが)な姉が珍しく誰かの事を気にかけている。慎二は最初、その事に驚きを感じた。
そんな質問の答えなんて考えるまでもない。慎二はそう思った。
「………いや、それは違うよ。確かに1日1日は大変だけど、全然いやなんかじゃないよ。むしろ楽しいくらい。」
「楽しい……?」
「朝早く起きて掃除して、朝ご飯の支度をして、学校に行って、友達と話したりしてはしゃいで、家に帰って洗濯や夕食の支度をして、姉さんが元気に帰って来る。毎日の1秒1秒が充実していて………うん。やっぱり今の生活が僕には楽しく感じる。それに……僕、この生活以外知らないし……っ!」
「……そっか。なら良かった。」
静江がほっと胸を撫で下ろす。何故そんなに姉さんが安心するのか、慎二には良く分からなかった。
「逆にだけど、姉さんはどうなの?」
「え、私?ん〜……まぁ楽しいかな。……ご、ごめんね〜らしくない事聞いちゃって……!」
静江は慎二から顔を背けた。そして、目の辺りを擦るような仕草をして、立ち上がった。
「やっぱりあんたは優しい子だね。……よし、私もう風呂入ったら寝るわ。そいじゃ……お休み、慎二。」
静江は部屋を出る前に慎二の方を見る。彼を見る彼女の目は、赤く潤んでいた。
「う、うん。……お休みなさい。」
静江は居間を後にした。
「何か泣かせるような事でも言っただろうか……。」
風呂場が空くまで、慎二はそれについて自問自答を繰り返した。
そしてすぐに今日もまた、いつもの1日が終わった。
筆者です。これからもよろしくお願いします!