2ー8 「想定外なメニュー達」
全ての授業を終えた慎二は、生徒服から動きやすい服装に着替えて、分隊室へと向かっていた。
士官学校での授業は教官の紹介などがほとんどであまり大した事はしなかったため、最後の方の授業では、殆どの生徒が退屈していた。慎二もその中の1人である。
「あ、北野………ジャミル君………!」
後ろから聞き慣れた声が聞こえる。桜がこちらへ向かって小走りで追いかけて来ていた。
慎二は立ち止まって後ろを振り返ると、丁度、桜は慎二に追いついた。
「ふう。追いつきました。」
「あ、桜。そういえば朝、会ってなかったね?」
「はい。朝起きたら部屋にサンドイッチが置いてあって………。あれってやっぱりジャミル君が?」
「うん。早く起きすぎちゃったから作ったんだ。」
「あ、ありがとうございました!その………、美味しかったです…………っ!」
桜はお礼と共に、慎二に木箱を手渡した。
「どういたしまして。」
慎二はその木箱を鞄の中にしまうと同時に、再び2人は歩き出す。
「桜のところの授業はどうだった?」
「自己紹介の他に剣の実技を少し。それと、勉強もしました。」
「へぇー。僕の所は自己紹介が殆どだったかなー?意外と疲れた………。」
慎二と桜はランクの関係もあり、2人はそれぞれ別のクラスに入る事になったのである。
「それにしても、今日から分隊練習が始まりますが、一体何をするんでしょう………?」
「さあ。物騒な物じゃないなら大歓迎だけど………。」
そうこう話すうちに分隊室へと着いた2人は、肩を並べながら部屋へと入ると、分隊室には既にロマリアとガイア、カリトの姿があった。
「おっす、ジャミル、桜!」
「こんにちは、ガイア先輩、カリト先輩!」
「こんにちは。」
「ぅ、う〜………ん……。」
慎二と桜が丁寧に頭を下げると、ガイア戸惑い気味に、低い唸り声をあげた。
「相変わらず2人とも硬いな〜!もうちょっと気楽に行こうぜ?」
「き、気楽に………?」
「お前はもう少し後輩を見習った方が良いぞ、ガイア。」
「うっせえカリト。ほっとけ!」
「はいはい。」
カリトはガイアを軽く受け流すと、すぐに自身の作業を再開する。
「あはは……………」
そんなガイアとカリトのやり取りに苦笑いの2人。
「………………。」
ロマリアは会話中の慎二をじっと見つめ、今朝の夢の事を思い出す。
「分からないなら分からせてあげますよ?ロ・マ・リ・ア………………っ!」
「…………っ!」
ロマリアは咄嗟に首を振る。
(あれはただの夢。ただの夢です………っ!)
「……ふぅ………………。」
ロマリアは気持ちを落ち着かせると、ゆっくりと慎二に近づく。
「あの、ジャミル…………?」
「………?どうしたんですか、ロマリアさん?」
「け、今朝の…………」
ロマリアが何かを言いかけた時、部屋のドアが開き、アリアが入ってきた。
「あ、アリア先輩!」
「アリアさん!こんにちわっす!」
「どうも。」
「こんにちわ。」
「……………。」
仲間達の挨拶を聞いたアリアは、それからすぐに慎二の前に立つと、無言で木箱を差し出した。
「これ………」
「え…………あ、朝の!わざわざありがとうございます!」
「……悪く無かったわ……………。」
「………っ!そう言ってもらえると嬉しいです!また作りますね!」
慎二は満足そうに、笑顔で2人の木箱を受け取った。
「慎二、それ何だ?」
ガイアが木箱を指さして慎二に問う。
「これは今朝、僕が桜とロマリアさん、アリア先輩にサンドイッチを作ったんです。」
「へー!………で、俺には?」
「それが………お渡ししたかったんですけど、先輩達の寮の場所が分からなくて渡しそびれてしまったんです。次は持っていきます!」
「そっかー!そう言えばそうだったな。じゃああとで教えるわ!」
「はい、もちろん!」
「お前、朝飯目当てだろ………?」
「カリトさんにも持っていきますね!」
「………ん?あ、ああ。ありがとう……。」
カリトは照れくさそうに礼を言った。
(さすが北野君。もうみんなと打ち解け始めてるんですね………!?)
桜はガイア達と楽しそうに話している慎二に圧倒される。
「…………。」
そんな中、慎二に木箱を返すタイミングを無くしてしまったロマリアは、棚に木箱を隠して、パチンと手を叩いた。
「そ、それじゃあ、みんなも揃ったことですし、訓練を始めましょう!皆さん、訓練ルームにいきますよ!」
数分後。訓練ルームにて。
「ガイアとカリトは、動きの無駄を少なくする為に、2人で打ち合いを多く行ってください。後の細かいメニューは後ほど伝えます。」
「はい!」
「うぇ。よりによってカリトとかよ………。」
「文句言うな。俺だって好きでやるわけじゃない。」
2人は言い争いながら、打ち合いの準備を始める。
「アリアと桜。貴女達2人は外での活動です。
「……と言うと…………?」
「特に決まっていないので、何をしても構いません。」
「「………………?」」
アリアと桜は意味が分からず首を傾げる。
「お2人には毎日、学校内、もしくは街周辺に出て、気になった事をそれぞれレポートに書いて私に提出してください。」
「レポートですか?」
「待ってください。訓練はしないんですか………?」
「それが訓練ですよアリア。戦ってばかりでは強くなれませんから。」
「……は、はい………。」
アリアはロマリアから目を逸らして返事をすると、訓練ルームを出ていった。
「待ってくださいアリアさん!では私も行きますね?頑張ってくださいジャミル君!」
桜もアリアに続いて訓練ルームを出て行く。
「そしてジャミル。」
「はい!」
「貴方もまずは訓練ルーム外で活動します。私について来て下さい。」
「分かりました。」
慎二とロマリアは、学校内の廊下に出る。
「それでは訓練を始めます。」
「どこでやるんです?」
「ん?ここです。」
「ここ?」
慎二の問い掛けに頷いたロマリアは、布を数枚、慎二に差し出した。
「ん、えー………っと?」
「このフロアの掃除をお願いします。」
「そ、掃除ですか…………!?」
「はい。どうするかはお任せしますので、終わり次第教えて下さい。」
「あ、ちょっと!ロマリアさん!?
戸惑う慎二に対し、ロマリアは、何も言わずに去って行く。
「…………しょうがない、やるか………っ!」
慎二は言われるままに、3階の清掃を開始した。




