2ー5 「1位と2位のSランカー」
あれからすぐ、慎二達は第3分隊専用の訓練ルームに来ていた。何をするか伝えられなかった慎二達は、辺りをきょろきょろと見回す。
ロマリアは台車に大きな木箱を乗せて、5人の後ろから訓練ルームに入った。
「ロマリア先生、ここで何を?」
「ふふっ。それはですね………」
アリアがロマリアに尋ねると、ロマリアは愉快そうに笑顔を浮かべる。
「早速ですが、私は皆さん1人1人の実力が知りたいので、ここで1人ずつ、私と戦っていただきます。」
「「「「「っ!?」」」」」
先程とは違って、5人は妙な緊張に包まれた。
「順番はランクの上順に行きます。武器はいつもの訓練用………ではなく…………」
ロマリアは言葉を止め、木箱の蓋を開ける。中には、数多くの武器が入っていた。
「…………本物で。」
「ほ、本物!?」
4人が驚く中、桜は1人表情を曇らせた。
「もちろん殺し合いではなく、寸止めですよ。ですが手加減はしないで下さい。」
ロマリアが腰に下げていた細剣、俗に言うレイピアを鞘から抜いた。
「さあ、まずはアリア。貴女からです。」
「………………。」
ロマリアはアリアの方を向くが、アリアは黙り込んでいる。そこにカリトが耳打ちをする。
「(アリアさん、危ないです。俺が今から先生に訓練用でやる様に…………)」
「必要ない。」
「え?」
アリアは一寸の迷いも無く、木箱から弓矢と矢筒、短剣を取り出した。
「やりましょう、ロマリア先生。」
「そうですね。やはりそうこなくては。」
2人の間から只ならぬオーラが滲み出る。
「桜、カリト先輩、ガイア先輩。下がりましょう…………!」
それに感づいた慎二は、3人を後ろに下がらせる。
アリアが背中に背負う矢筒の矢に指をかけると、ロマリアはレイピアを構えた。
「それではいつでもどうぞ。」
「それでは行きます。」
アリアが矢を弓につがえ、弓を引いて矢を放つ。
するとその矢は赤々と火をあげ、ロマリアへと向かう。
ロマリアは咄嗟にレイピアの剣先で、その矢を叩き割った。
「「「「ん!?」」」」
4人は矢を構える速度に驚き、4人共同じ声をあげた。
「矢が!矢が燃えてますよ!?」
桜が2つに割れながら燃え続ける矢を指差しながら叫んだ。
「属性技だよ………。」
慎二が口をぽかりと開けながら呟く。
「属性技?」
「そう。あの時の戦闘で、桜達がやった技の上位互換………。」
「上位互換!?あれだけでも凄かったのに………!」
「そうだね………。」
「危ない危ない。」
ロマリアはふうっと、ひと安心した。
「不意をついたつもりでしたが………余裕みたいですね。」
「いえいえ。今のは本当に危なかったですよ。まさか、15歳で属性技をそこまで器用に扱えるとは………。流石は1位の実力。」
ロマリアが笑顔で言った。
「まだまだこれからです。」
アリアは褒められても顔色1つ変えずに、矢を3本つがえる。すると、またもや矢に火が灯る。
「……………?」
「あれは…………!?」
「どうしたんですかジャミル君?」
しかし、その矢が先程は様子が違う事に、ロマリアと慎二が気付いた。
「これはどうですか?」
アリアがその3本の矢を放つ。だが、その矢は先程よりも速度は遅い。
ロマリアは矢を躱そうと屈む。
そのロマリアの様子を見て、アリアの顔の口角が上がる。
「おっと…………!」
ロマリアは前の矢に、大きく目を見開いた。
ゴォッ!!
その瞬間、訓練ルームに爆風と爆音が響き渡った。
「うわっ!?」
「きゃあっ!」
「何だよ〜!?」
「知るか!」
4人は耳を塞いで身を伏せた。
爆音が終わったと同時に、4人はゆっくりと立ち上がった。
「どうなった!?」
「決着はついたのか!?」
「煙でよく見えないです!」
4人は煙が収まるのを待つと、薄っすらと見えて来た。
「あ、あれは………?」
慎二が目を凝らして見ていると、完全に煙が消え、目の前の光景がはっきりと見えた。
「相打ち…………?」
時間を少し前に戻す。
アリアが放った矢の軌道から、屈む事によって外れたロマリア。
しかし彼女は躱したと思い、前を向いた瞬間、驚きと疑問の念が頭に走った。
矢が完全にこちらを捉えていたのだった。
確かに彼女は矢を完璧に躱しきった筈である。
(矢の軌道が変わった。……まさか、誘導式の矢って事?)
そんな事を考えているうちに、矢が迫る。
(獲った!)
アリアはそう確信したのか、属性技を解こうと右手を前に出す。しかし、
(っ!?)
ロマリアが視界から消えた。
(後ろ………っ!?)
そして、背後に気配を感じたアリアは弓を捨て、腰から短剣を取り出すと、素早く後ろに振り返り、短剣を振り上げようとする。しかしそれよりも早く、自分の首元にレイピアの刃先が置かれた。
それと同時に、標的を見失った矢が地面に落下し、爆発が起こったのだった。
「流石ですね。ロマリア''さん"は…………。」
「貴女もね、アリア…………。」
アリアは右手に持つ短剣が間に合わないと分かり、左手に持っていた矢の先をロマリアの後頭部スレスレで止めていたのだった。
「お見事です。」
「こんなの、只の苦し紛れです…………。」
2人は同時にゆっくりと武器を下ろして、茫然と立つ4人の所に歩いていった。
「お疲れ様です。アリアさん、ロマリア先生。」
「ありがとう、カリトさん。」
カリトが律儀に頭を下げると、ロマリアは静かに微笑んだ。
「では、次は桜さんの番です。」
「は、はい…………。」
「あそこで待っているので、準備が出来たら来てくださいね?」
ロマリアは5人から離れ、また戦闘の準備をしていた。
「次は貴女の番よ。」
アリアが木箱に武器をしまうと、桜に行くように促した。しかし、桜は動かない。
「私………。」
不思議に思ったアリアは、桜に近づいた。
「どうかしたの?」
「アリアさん……私……無理です…………。」
「なぜ?」
「私、戦うの、駄目なんです……………。」
桜の手がプルプルと震える。
それを見たアリアは、桜に冷たい眼差しを向けた。
「……そう?ならやめなさい。」
「え……?」
「やりたくないならやらなくていい。」
「いや、でも…………」
「そうしなさい。そうでもないと…………」
「桜、ロマリア先生が呼んでるよ〜!」
アリアが何か言葉を発しているのは分かったが、その声は慎二の桜を呼ぶ声で聞き取ることは出来なかった。
「…………………。」
「アリアさん?今なんて…………」
「……なんでもない……………。」
アリアは無理やり話を切り、桜から離れていく。
それと行き違いに、慎二が桜に駆け寄った。
「桜、どうしたの?」
「あ、すみません!すぐ行きます…………!」
桜は木箱から剣を1本取り出し、ロマリアの前に立つと、慎重に剣を引き抜いた。
「お、お願いします……………!」
「ええ。でも、もう少し肩の力を抜いた方が方が良いかと…………」
「は、はい……っ?」
ロマリアは心配そうに、手元の震える桜を見た。
「だ、大丈夫です…………。い、行きます!」
桜は様々な想いを心の内に閉じ込め、ロマリアに向かって剣を振り下ろした。
ロマリアはそれを軽々と躱す。
「く…………っ!」
桜は態勢を崩す事なく、再び剣を構え直して距離を取る。
「なるほど。試験で見せた連続攻撃はやらないのですね?」
「……………。」
「慎重なのは良い事ですが………それだけでは……………」
ロマリアは片足を浮かせたと思うと、桜の前まで一気に間合いを詰め、桜の首元にレイピアの刃先を突きつけた。
「あ……………。」
桜はロマリアの動きに対して回避が間に合わず、諦めて剣を地面に落とした。
なんともあっけないロマリアの勝利である。
「それだけでは行けませんよ。攻められるときは攻めておかないと…………って、あれ…………?」
ロマリアが自信満々に話していると、桜は弱々しく、地面に座り込んだ。
「ちょっと、あの……桜…………?」
「あ………あ……………!」
桜は耳を塞いで、小刻みに震え出す。
「あれ、あいつどうしたんだ?」
「おそらく、本物の剣での戦いに恐怖を覚えたのだろう。よくある事だ。」
「桜……………!」
ガイアとカリトが話している中、慎二は真っ先に桜の元へと走った。
真木南 桜
彼女は剣に天賦の才を持ち、中学時代には剣道3段まで登り詰めていた。そのため、彼女に敵う相手など、誰1人としていなかった。
そんな彼女は中学2年の夏、全国大会へと初めて出場した。その剣の腕を見た者は、皆、彼女の優勝を確信していた。
しかし結果、彼女は準優勝だった。
2年前の事、桜は人生初の大舞台へと挑戦していた。
「桜、ファイトッ!!」
「ありがとうございます。静江さん。」
「お姉!頑張れよ!」
弟の梅が桜に拳を突き出す。
「うん、梅ちゃんもありがとね。」
桜は、そこに自分の拳を優しく合わせた。
「次勝てば優勝だよ!全国優勝だよ〜!?」
静江は桜の肩をがっしりと掴み上げ、いつ倒れてもおかしくない程に興奮していた。
「ちょ!姉さん、桜に変なプレッシャーかけないでよ!?」
静江を桜から無理矢理引き剥がす慎二。
「あ、ごめんごめん!」
「絶対ごめんって思ってないでしょ…………。」
目を細めながら手を合わせる静江に、慎二はため息をつく。その光景に、桜は笑った。
「フフ………っ!」
「ごめんね、桜。姉さんも悪気はないと思うんだけど、多分…………。」
「分かってます。………それでは、もう行きますね。」
「行ってらっしゃい。」
桜は笑顔で試合場所へと向かっていった。
決勝戦
試合開始の合図が聞こえる。
ここまで来たからには負ける訳にいかないと心に決め、気合いを込めて木刀を構える。
「やあああっ!!」
すると同時に桜の相手は、次々と連続で攻撃を仕掛けてきた。
「………………。」
それを桜は難なく全て防ぎきると、相手は少しばかり距離をとった。
桜はまだこれといって動いてはいないが、相手はもう疲弊しきっていた。
その時、ふと桜は相手の顔が目に入った。もしかすると、これが全ての始まりだったのかもしれない。それを桜は意外に思った。
これまで多くの相手と戦っていて気がつかなかったが、今の相手の顔には明らかに恐怖があった。これまでの戦いで、彼女が相手の顔を見たのはこれが初めてである。
「はあ……っ!はあ……………っ!」
相手は息を整えながら、こちらを見据えて動かない。
(チャンス!)
桜はこの好機を逃さまいと、相手に向かって瞬時に接近し、相手に木刀を振り下ろした。
その時、また桜は相手の顔………いや、目を見た。
ひどく怯えた目。その中にうつる自分を見た途端、全身が震えあがった。
そこにうつる自身の姿は、まるで禍々しいばかりの殺意に包まれているかの様だった。
「……あ…………っ!?」
桜は思わず声を出し、緊張がとけてしまい、木刀を振り下ろす手をピタリと止めた。
「……………く、やあああああっ!!」
それに気づいた相手は、桜の頭に木刀を叩きつけた。
終わりの合図が聞こえる。
観客は、何が起きたのか分からないでいた。慎二達も同様である。
「君、勝敗は決まりました。終わりの礼を…………」
審判が桜に声をかけられるも、その声は彼女には届いていない。
「あ………あ…………っ!」
桜は木刀を地面に落とし、握っていた手を顔に近づける。
その手は今と同じで小刻みに震えていた。
「桜!」
慎二は桜に駆け寄ると、肩に手を置いて声をかけた。
「北野……君……………?」
「大丈夫?」
慎二は優しく声をかけると、桜は顔を上げて辺りを見回す。
そこには心配そうに見つめる慎二やロマリア。ロマリアとの戦いについて話し合うガイアとカリト。読みかけの本を閉じてこちらをじっと見るアリアの姿があった。
「す、すみません。大丈夫です………。」
「どこか体調が悪いのですか?でしたら、先に分隊室に戻っていても…………」
「いえ、どこも問題ないです!お気遣いありがとうございます…………。」
桜はゆっくり立ち上がると、ロマリアに礼をして、慎二と共にガイア達のいる所にまで戻った。
「ちょっとがっかりね。」
戻って来た桜に、アリアは冷たい言葉を投げかけた。
「アリアさん…………。」
「1期生と言えど、Sランクならあれくらい躱せないとね。あんなの………ランク戦じゃ通用しない。」
「す、すみません……………!」
「ちょっと!桜は体調が悪かっただけなんですよ……………っ!?」
必死に頭を下げる桜を見た慎二は、少し怒り気味で言った。
「そうね。体調が万全じゃないのは見ていて分かったわ。でも、ランク戦や実戦の時いつも万全とは限らないでしょう?それでも勝たなくてはいけないのよ、絶対にね。」
「アリア先輩…………!」
「私は事実を話しただけ。…………まあでも、入って来たばかりの子に少し言い過ぎたわ。許して。」
アリアは事だけ告げると、また少し離れて、本を読み出した。
「アリアさんの言う通りです………。」
桜が悲しそうに呟く。
「確かに………。言ってる事は間違ってない。けど……………。」
どこか冷たい。
慎二はそう感じた。




