2ー3 「因縁と勧誘」
待機から2時間後、控え室に数人の人が入って来た。
「今から、合否の通知書を渡します。合格者には入学当初のランクが記載されています。それでは、先程の実技試験を行なった列毎に取りに来てください。」
通知の紙を貰った慎二は、まだ中身は見ず、静かに席へ戻る。そして、バッと一斉に紙を開いた。
そこには、「合格」という文字が刻まれていた。
「やった……やった………っ!」
もうあちこちから喜びの声があがっていて、慎二もその声の中に混ざって喜んだ。
「………ん?」
しかし、その後に書いてあった事に、慎二は眉をひそめた。
「合格おめでとうございます。あなたの入学当初のランクはFランク。校内1500人中1500位………っ!?」
すると、桜が走ってこっちにやって来た。
「ど、どうでしたか!?」
「ご、合格だけど………。」
「ふう……。良かったです…………!」
慎二の言葉に、桜はホッと肩の力を抜いた。余程心配していたのだろう。
「ランクはどうだった?」
「ランクですか?えー………っと…………」
桜が紙を見て、首を傾げた。
「あの、Sランク2位………らしいです。」
「ふーん…………ん!?」
「Sランク2位」という桜の発言から、慎二は心臓の鼓動が速くなっていくのが分かった。
「2位だって………っ?!」
「え、これって凄いんですか?」
桜はまだ分かっていないらしく、ボケっとしていた。
「校内の生徒の中で、2番目だよ!?2番目に強いんだよ!?」
「あ、そうなんですか………って、えっ!?…ゴホッゴホッ………!」
桜はようやく自分の立ち位置が分かったようで、息が止まりそうになって、むせてしまった。
「な、なんで私が!?」
「ちょっと紙見せて!」
「は、はい!」
慎二は桜から紙を受け取ると………まあ、大体の予想はついていた。
桜は、筆記・実技共に満点だったのである。
「それで、き………いや、ジャミル君は?」
「いや、あんまり見せられるようなものじゃないんだけど………」
「何言ってるんですか?見せてください!」
桜がとても気になっていたため、しょうがなく見せる事にした。
「えーっと………」
紙を見るなり、桜から笑顔が失われていくのが分かった。
合格者はこれから、大ホールで入学の式を行うようで、慎二と桜はホールに向かっていた。
「〔貴方には、自分から攻めるという積極性に欠けています。ガラスの破片でバルーンが割れたのは偶然ではありますが、運も実力の内です。これからの活躍に期待します。〕………って、流石にひどいと思います…………っ!」
先程、慎二のコメントを見た桜は、酷く怒っているようで、早足で歩いていた。
「ま、まあしょうがないよ。確かに僕は逃げ回っていただけだし…………バルーンが割れたのも運かもしれないしさ?」
慎二も早足で桜についていく。
「そんな訳ありません!私にはジャミル君がちゃんと考えて逃げている様に見えました!」
「もう、いいって。終わった事だよ?」
「それは…………まあ、そうなんですけど………………っ!」
彼女は自分の事でもないのに、なんでそんなに怒っているのだろう?
慎二はそんな疑問を感じでいる内に、2人はホールの中へと入る。
ここでの並びは特に決まりは無く、慎二と桜は隣に並んで立った。
「なんでなんでしょう………っ!?
「ほら、そろそろ始まるから、機嫌なおして?」
「は、はい…………!」
しばらくすると、たちまち場が静かになり、前の舞台に人が立った。
「皆さん、ヨルダム士官学校への入学、おめでとうございます!それでは………」
「…………次に、校内でのランク戦についての話をいたします。先程皆さんにお知らせしました校内ランクは、これから上下する事があります。それは、校内で定期的にランク戦が行われるからです。これはランク毎に、先輩後輩関わらず、全ての生徒が対象です。」
「(なんだ。良かったですね、ジャミル君。)」
「(う、うん……………。)」
嬉しそうに手を合わせる桜を見た慎二は、苦笑いと同時に頷いた。
「ここで、「分隊」システムについてお知らせします。」
「(分隊?)」
「ヨルダム士官学校は個人戦だけでなく、生徒同士で分隊を結成する事が出来ます。もちろん分隊毎にもランクがあり、ランク戦も執り行われます。そして分隊での戦績によっては、個人のランクが上昇する事もあるので、どこかの分隊に入隊するか、分隊の新規結成をお勧めします。………そして、最後に「エリート卒」についてです。」
「(桜……)」
「(分かってます。重要なのはここですよね?)」
慎二と桜は姿勢を直して聞き入った。
「エリート卒とは、ヨルダム士官学校の3年制の単位全てを1年でとれる資格の事です。もちろん誰もがとれる訳ではありません。基準はSランク以上の上位30人のみです。…………まあ、毎年度大体Sランクは2、3年生が占めてしまうので、殆どの1年生の皆さんにはまず関係のない話ですが、一応お伝えしておきます。
それでは、入学の際の説明は終わりです。寮などの申請のある方は、今日中に2階の事務室まで来てください。それでは、本日はこれで終了です!」
終了の合図で、今まで静寂を保っていたホールが一気に活気で溢れかえる。
その中で、慎二と桜の2人は未だにぽつんと立ち尽くしたままであった。
「桜…………?」
「はい?」
「確かマリスタさん、1年で来いみたいな事言ってた………よね?」
「そ、そうですね………。」
「だ、だよね〜…………?」
慎二はぐたりと前のめりに体を倒す。
「僕、いけるかな…………?」
「い…………いけますよ!自信を持ってください!私もお手伝いしますから!」
「あ、ありがとう桜………!」
やり取りをする2人の所に、1つの足音が近づいて来て、慎二達の前に止まった。
「おい!」
「ん?」
聞いた事のある声で、慎二は体を起こす。
目の前にいたのは、筆記試験の時の少年だった。
「お前、ランクは?」
「僕?えーっと………1500位で、ランクF………だけど…………。」
「……………は?」
慎二が躊躇いがちに言うと、その少年は1500位と聞いて、数秒固まった。
「1500位………だと?」
「な、なんですか貴方は………!?丁度、き、ジャミル君が落ち込んでる時に……………っ!!」
「ちょっ?大丈夫だから………!」
少年に突っかかろうとした桜を、慎二が停止させる。
「それで、何?」
慎二が先程から体を震わせる少年に尋ねると、少年は、両拳を力強く握って
「あの審査員……ふざけやがって…………!」
顔を怒りで溢れさせていた。
「……………え?(あれ、この人も、なんでこんなに怒ってるの?)」
慎二は、その少年の反応にきょとんとした。
「ま、まあいい…………っ!俺が1番聞きたかったのはそういう事じゃない。……お前、何故あんな卑怯な戦い方をした?」
「へ?」
「なぜ正々堂々向かって行かなかったと聞いてる。」
「だって、持ってたのは盾だよ?普通に戦ったら駄目だと思ったから…………」
「だが、逃げるのとは話が違うだろ…………!?」
少年が顔を強張らせる。返答次第では、今すぐ飛びかかってくるような態勢だった。腕を組んで黙り込む慎二が、その内、少年の意表をつく回答を返すともとも知らずにである。
「違うよ。」
言う事を決めた慎二は顔を上げ、少年の顔を直視して口を開く。
「なに?」
「逃げてなんかない。僕は武器があの盾だけの状況で、どうしたら最適に、最小限の消耗でバルーンを割る事ができるのかを考えただけだよ。」
「どういう事だ?」
「だって、実戦だったら、相手はあれ1体だけのはずないでしょ?あんなの1体に無駄な体力を使う必要はないからさ。」
「っ!?」
少年は、慎二の返答に体が震えた。しかし先程とは違って、どちらかといえば、感動に近い震えであった。
「僕の戦闘能力と体力じゃ、あれ1体を倒すのに、相当な労力と時間が必要。下手したらやられるかもしれないし…………」
慎二は人差し指を立てながら、戦闘中に自身が思った事を思い出しながら説明する。
「実戦………。」
「そう、実戦は訓練とは違って、いつ何が起こるか分からないんだ。何が起こるかは…………ね?」
慎二はそれと同時に、自身の過ちをも思い出す。
「ぬ…………っ!?」
少年は、返す言葉すらなく、己の器量の小ささを実感する。
「(こいつは、あの中だけではなく、あれの後の事まで考えてやってたっていうのかっ!?こいつ……実戦を、本当の戦いを知ってやがる……!)」
慎二のまっすぐと見つめる目に、少年はただ圧倒されていた。それと自然と、少年は拳の握りが弱くしていった。
「そうか……………確かに、あれは良い手だった………。」
そう言はざる負えない。
「でしょ?」
慎二は少年を見据えて言った。
「………絶対上がって来いよ?」
「へ?」
「1度お前みたいな奴と戦ってみたくなった。俺はAランクの38位だから、まだお前と戦う事はできないがな?」
「う、うん。」
言われなくてもそのつもり。と、慎二は頷いた。
「お前ら、名前は?」
「僕は、ジャミル・ジャンクソン。」
「私は、サクラコ・マキナミです……。」
「そうか………。俺は、【ゴーシュ】だ。
ゴーシュは自分の名前を告げると、早歩きでホールを出て行く。
「なんか、嫌な感じですね……………!」
桜は、ゴーシュの後ろ姿をジロリと睨みながら言った。
「…………そうかな?」
慎二は、変わった奴だと内心思った。だが、審査員も見抜けなかった自身の戦法に気付き、その審議に怒りを覚えていた事から、あまり嫌な印象は抱かなかった。
「それじゃあ、寮の申請にでも行きましょうか?」
「そうだね。」
慎二と桜がホールの扉に向かって歩き出すと、唐突にホールがザワつき始めた。
どうやら、扉から入って来た茶髪の女性が原因らしい。
「あの人、すっごい美人じゃない?」
「あれって、今年度入った新しい先生だよ……………っ!」
ホールに残っていた生徒達が色々と噂をする中、その「先生」はゆっくりと歩み出して、丁度こちらに歩いて来た2人の新入生を引き留めた。
「お尋ねします。」
「なんでしょう?」
「お2人は、ジャミル・ジャンクソンさんとサクラコ・マキナミさんで間違いないですか?」
「はい。そうですけど…………?」
引き留められたのは、慎二と桜の2人だった。
「良かった、すぐに見つけられて。」
女性は安堵の笑みを浮かべ、自分の名前を言った。
「私は【ロマリア・エルセルベルト】。第3分隊の顧問をしている者です。」
「どうも。」
「は、はい……………。」
慎二と桜は訳が分からないまま礼をした。
「い、いやいやお気遣いなく!頭を上げてください。」
彼女、ロマリアは若干戸惑い気味に、2人の頭を上げさせた。
「あの、私達に何か………?」
桜がロマリアに尋ねると、ロマリアは1度大きく頷いて言った。
「単刀直入にお伝えしますが、私は今、ジャミルさんとサクラさんをスカウトに来ました。」
「あ〜、スカウトですか〜……って…………えっ!?」
ロマリアの言葉に慎二は自身の耳を疑った。
「さ、桜の事は分かりますが、なんで…………僕なんですか!?やっぱり……桜のついでとか…………?」
そんなまさかとロマリアは首を振る。
「いいえ。貴方とサクラさんの実技試験の戦闘を見て、貴方もスカウトしに来たのです。ジャミルさん。」
「えっ?」
「軟質ガラスの振動で空気をも振動させてバルーンを割る。まさか、あんな奇策な手を使うとは思いませんでした……………!ふふ……!驚きですよ…………!」
「っ?…………そうですか?」
ロマリアは慎二の戦闘を思い出す。空気振動を使った見事な戦略とあまりの振動にガラスが割れてしまう滑稽さのギャップにツボってしまったのか、「ふふ………っ!」と、笑い声が溢れてしまった。
「サクラさんも。あの剣技は普通の人じゃ出来ませんよ。」
「あ、そんな…………!私なんて………全然です………。」
桜は褒められた事が恥ずかしいのかロマリアから目を逸らした。
「流石はマリスタがひと目置いた2人ですね。」
「え……………?」
マリスタという名前に慎二は反応すると、ロマリアは小さく頷く。
「とりあえず、少し場所を変えましょうか………?」
ロマリアは先程からの周囲の視線が気になるのか、気まずそうにそう提案した。
それからホールを出た3人は廊下で話の続きを始める。
「ロマリアさんは、マリスタさんの事を知ってるんんですか?」
「ええ、もちろん。幼いながらに帝国軍に入り、若くして中尉まで昇進した彼女を知る者は、軍関係者ならほぼ全員と言っていいでしょう。」
それから階段で2階上へと登る。
「なるほど……!」
「そ、そんなに有名な方だったんですね………!?」
慎二と桜は、とんでもない人と共にしていたのだとと改めて思った。
「それに、マリスタは私と同期ですから。」
「あ、そうだったんですか!?」
「歳は私の方が4年上でしたけどね。」
今思えば4歳も離れていたのだという事に知っていながらも少し驚いたロマリアは、それを微笑む事で誤魔化した。
「マリスタは、私の大切な親友でした………。」
そして何かを思い出したのか、少し複雑な表情をした。
「ロマリアさん?」
異変に気付いた慎二は、ロマリアに声をかける。
「あ、いえ……!……着きましたよ。」
ロマリアは足を止めて、丁度右にある部屋のドアノブをひねり、扉を開けた。
「ここが、私の受け持つ第3分隊の分隊室です…………………って、はあ………。」
扉の先の光景に、ロマリアはため息をつき、
「え……………?」
慎二と桜は絶句した。




