1ー2 「慎二と桜子」
「ところで、今日の夕飯は何にするんですか?」
スーパーに着いた慎二と桜は、精肉コーナーのそばを歩いていた。
「久し振りにハンバーグにでもしようかなと思ってるんだけど………どうかな?」
「良いと思います。……では、私もハンバーグにしましょう。」
「確か、弟の梅君が好きだったよね?」
「あ、はい。先週もハンバーグにしたのですが、「また食べたい、食べたい」とうるさくて。」
慎二は挽き肉をカゴに入れると、桜もそれを見て、自分のカゴにも入れた。
「静江さんは好物とかないんですか?」
「姉さん?姉さんは〜……好き嫌いがないから、基本何でも喜んで食べるかな?」
「そうなんですか!?好き嫌いがないって良いですよね。」
「そうだね。……でもまあ、姉さんの場合はなさすぎっていうか……。」
そんな話をしながら夕食のものをカゴに揃えていく事数分、ふと桜が棚に手をかけて、何かを掴んでカゴに入れた。
慎二が覗くと、それは1枚の板チョコだった。
「そのチョコレート、桜のお気に入り?」
「はい。」
「それ、すごい甘いと思うけど。大丈夫?」
「私は甘いのが好きなので。……それに、」
「それに?」
桜はどこか懐かしい物でも見た様な暖かい目で微笑んで、
「それにこれは、私の大事な思い出の味ですから……。」
そう言った。
「そっか。……でも、あまり食べ過ぎない様に。太るよ。」
すると、微笑んででいた桜の顔がたちまち真っ赤になり、頰を膨らませた。
「なっなんて事言うんですか!?ちゃ、ちゃんと太らない様に日頃から努力してますよ!?」
「う、うん。なら良いんだけど……」
「大体、チョコレート1枚食べただけじゃ太りませんし!」
言い終わると彼女はプイっとそっぽ向いた。だがすぐに、慎二の方に顔を向けて、
「……でも、まあ……気にしてくれたのは嬉しいと言いますか………ありがとうございます……。」
と、笑顔を取り戻した。
慎二もなんだか嬉しくなって微笑んだ。すると、
「2人で何イチャついてんの?」
能天気な声と同時に、慎二は後ろから誰かに両肩を掴まれた。
振り向くと、彼の姉である、静江がいた。
「あ、姉さん。どうしてここに?」
「何となく気まぐれにね〜。何そんなに驚いてんの?……もしかして今、話しかけちゃいけないタイミングだったりした?」
「いやいや別に。それにしても、仕事が終わると真っ先に家に帰る姉さんが、スーパーに寄るなんて珍しいこともあるんだなーって。」
「ふっふっふ〜。あるんだな〜それが。こんにちは桜ちゃん。こ奴がなんか失礼な事言わなかった?」
しかし、桜は下を向いて、ぶるぶると小さく震えていた。
「……?桜ちゃん?」
「(私達、そんなイチャついてた様に見えたかな……?)」
「もしもし〜、桜ちゃーん?」
「……へ?あっ!はい!?」
頰を赤らめて、桜は顔を上げた。
「どうしたの?」
「い、いえ。特に何でも……す、すみません!」
ん?今どうして謝った?
慎二は、はてなと首を傾げたが、静江は何かを察したみたいで「なるほどね〜。」と言ってニヤニヤしていた。
「よしじゃあ慎二。必要な物揃ってるみたいだし、私達は「ゴーホーム」しよっか。」
「そうだね。」
何かよく分からないが、夕飯の材料はカゴに揃ったので、レジに向かうとしよう。
「じゃあ、桜。また明日ね。」
手を軽く振ると、桜もぎこちない様子で手を振り返した。
「ふふっ、桜ちゃん。【頑張りなよ】!」
そう言って、静江は大きく手を振った。
それを聞いた桜は、一気に顔を赤くさせて固まった。
「頑張りなよって、何を?」
慎二が静江に聞くと、
「それは秘密。あんたも女になったら分かるよっ!」
「生憎、生まれてこの方ずっと男なもので。」
「……ふふっ。でも……あの桜ちゃんがね〜…………!」
静江は帰宅中、ずっとクスクスと笑っていた。
「やっぱりよく分からない………。」
慎二は不機嫌そうに首をかしげた。