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夢道の世界  作者: ジニー
第2章 別れ道
29/48

2ー2 「試験の行方」

翌日

2人は外に出ると、ロビーは入学希望者で溢れかえっていた。そのため、元々中にあった受付に行くために、わざわざ外に出て並ぶ羽目になった。



数分経って、ようやく受付の前に立つ事が出来た。

受付にいたのはルナールで、笑顔で2人に挨拶した。

「やあ、2人共!昨日はよく眠れたかい?」

「はい。心地良すぎて、2人共ベッドから転げ落ちたらしく、朝起きたら床で寝てました。」

慎二が寝起きの悪さから、無愛想に言った。



昨日の夜、部屋に入った慎二と桜は絶句した。ベッドが1つしか無かったのである。

「この狭さを2人で………?」

桜が困った様に眉を下げた。

「しょうがないよ。1日くらい我慢しよう。」

最初はそう言った慎二だったが、寝てみて後悔した。

「「はあ〜………。」」

非常に狭い。2人共、落ちるギリギリのラインで、背中を合わせて眠る事になったのだ。



「あはは………。朝起きた時、最初腰が動かなくて大変でしたよ…………!(それに、変な緊張もしましたし…………。)」

桜が気恥ずかしそうに苦笑い。

「なんだ。隣の部屋も使って良かったのに。」

ルナールがきょとんとして呟く。

「まあ、いいや。それじゃあ2人共、名前を教えて、フルネームでね?」

「はい。【ジャミル・ジャンクソン】です!」

「っ!?あ、えっと、サクラコ・マキナミです!」

初めてジャミルのフルネームを聞いた桜は、今まで知らなかった事を少し気にしつつ、自分の名前を告げた。

「オッケー、2人共通ってよし。…………それじゃあ、これはそれぞれの試験番号ね?頑張るんだよ〜!」

ルナールは手を振って2人を見送った。



会場に入った慎二と桜は、自分の番号の席に別れて座った。慎二と桜は番号の関係で、大分離れた位置に座る事となった。

「やっぱりここも広いな………!」

慎二は会場を眺めて驚いた。自分が通っていた高校の体育館の3〜4倍はある。

すると、慎二の隣に他の人が座った。

「あーっ!だるっ!!」

慎二と同い年くらいの、明らかに柄が悪そうな少年であった。

「筆記試験とかまじだりーよ…………早く実技やりてーよ…………っ!」

トントンと机に指を立てて苛立っている。慎二はその隣に座っていて、非常に気まずい。

「大体なんで筆記なんてやるんだよ!どうせ戦うだけなんだから意味ねーだろ!?」

「いや。咄嗟に自分で作戦を立てたりとか、もし非常事態になった時とかは、ある程度の知識が必要になると思うよ?」

「はあ………?」

「あ、しまった………。」

慎二はつい口を挟んでしまい、思わず口を手で塞いだ。

「何だよ?」

「………………。」

「こいつ………!」

反応のない慎二に、隣の少年はますます腹を立てる。

「ああっ!胸糞悪い………っ!」



そして、それからすぐに筆記試験が始まった。

解けないのか、今でも隣の男はイライラしているが、とりあえず無視して、慎二は問題に取り組む事にした。

まずは問題文を見る。そういえば、テスト対策も全然やっていなかった事に気付き、どうしようかとため息をつく。しかし、

「(………………あれ?)」

よく見ると、さほど難しい問題ではない。こんなの中学校………いや、小学校で習うようなものだ。

慎二はペンを止める事無く、スラスラと書いていく。

「(よくこんな問題を出そうと思ったね。まあ好都合だけど。)」

問題の幼稚ぶりに呆れ、慎二は軽く咳払いをする。するとその瞬間、

「………………っ!?」

お腹の急降下が始まった。



「あんな問題で………本当に良かったんでしょうか?」

筆記試験後、桜が怪訝そうな顔で慎二に話しかける。その慎二の顔は、青ざめてげっそりとしていた。

「だ、大丈夫ですか北野君!?」

「だから、「北野君」は禁止………。」

「あ!そうでした………。ジャミル君、大丈夫なんですか!?」

「うん。……いや、色々とまずいかも………。問題、半分しか解けなかったし。」

「え、えっ!?」

桜は口に手を当てて驚く。まあ無理もないだろう。筆記試験の合格条件は、最低でも5割を超えていないといけないのだから。

2人は微妙な空気の中、実技試験の会場へと向かう。



「どこもかしくも広いね?」

「ここもかなりの広さです………!」

実技試験の会場は、大きなドーム場のグラウンドで、あちこちには厳重に四方をガラスで封鎖したと思われる、仮設闘技場のようなものがあった。

しばらくすると、どこからかアナウンスが聞こえて来る。

「皆さん、番号毎に闘技場の前に並んでください。並んでいる間に、私からルールをお伝えします。」

アナウンサーは咳払いを1回してから、ルールを話し出した。

「始まり次第、1人ずつその闘技場に入って、訓練用の魔物1体と戦ってもらいます。もちろん殺し合いではありません。その魔物は、対象者から武器を取り上げ、気絶させるだけのようにしっかり訓練されていますのでご安心下さい。だから皆さんにも、訓練用のとても軽い武器を1つ選んで戦ってもらいます。

ルール。皆さんは、魔物の身体のあちこちについているバルーンを、どれか1つでも割れば勝ち、魔物側は、皆さんを気絶させるか、降参させれば勝ちになります。得点は、勝利するまでの時間や、戦闘内容などから加算されていくので。それでは皆さん、実技試験スタートです!」

大きなスタートの号令で、実技試験は始まった。

慎二と桜は違う列ながら、お互いに暇を持て余していた。なにせ、試験番号が最後の2人である。

意外と白熱していて、先頭の方はえらく盛り上がっていた。2人は皆と同じ様に、闘技場の中を眺める事にした。

「「わぁ………っ!」」

闘技場の中では、意外にも激しい戦闘が行われていた。確かに盛り上がる訳だ。と、慎二と桜は納得する。

すると、

「おぉー………っ!」

慎二の列の1個隣から、審査員や試験者達の歓声が聞こえて来た。

慎二がそちらを向く。

「あ、あれは………」

闘技場に入っていたのは、先程隣で苛立っていた少年であった。彼の目の前には、気絶して倒れる魔物の姿があった。少年は不敵な笑みを浮かべて、その魔物の額についているバルーン1つを踏み潰した。

「凄い!魔物を気絶させるなんて………!」

慎二は驚きながら関心していた。



それから数分後、慎二よりも先に桜の番がきた。

「それでは武器を選んで下さい。」

審査員が台に並べられた沢山の武器を指差す。

「で、ではこれを………。」

桜は剣を1本手に取った。

そして、緊張の中闘技場に入った桜は、目の前の魔物を前に、ひどく気が動転していた。

「落ち着いて………落ち着いて、桜…………。」

そう自分に言い聞かせ、左手に持つ剣の柄に、そっと右手を添える。

「それでは、始めてください………」

そして審査員が始めの合図を出したと同時に、

「抜刀…………っ!」

桜は剣を振り抜いた。




バタンッ!

ある剣道場で、驚きや屈辱からか、膝をつく老人がいた。

「馬鹿な………っ!?」

老人は前にいる対戦相手を見やる。それは、まだ7つにもならない年の少女であった。

「ありがとうございました。」

律儀に頭を下げる少女に、老人は同じ様に、ただ頭を下げる事しか出来なかった。

剣の天才少女、名前は真木南 桜子。剣豪の生まれ変わりと言われる程の腕前で、剣道界では密かに恐れられていたという。

そんなある日、彼女は運命の人に出会った。



パンッ!パパパパパンッ!

闘技場内に、複数、バルーンの割れる乾いた音が響き渡った。

驚きのあまり、審査員は声が出ず、魔物すらその場を動く事が出来なかった。

魔物の身体のバルーンを、一瞬にして、1つ残らず割り切ったのである。

「ふぅ………。なんとかなりました!」

青く光った剣を鞘に収めた桜は、そんな事を一切気にせず、闘技場から降りる。そして、茫然とする慎二に、グッと親指を立てて微笑んだ。

「おい………。最初のバルーン破壊までの時間は………?」

「0.36秒です………!」

「新記録じゃないか………!?」

審査員が小声で騒ぎ立つ。

「おい、見えたか今の………!?」

「いや、あんなの見えるわけないだろ!?」

周りの試験者も数秒経ってから、ザワザワと盛り上がりだした。

「桜、あんなに強かったんだ………。」

慎二は、こちらをじっと見つめる桜を見て、呟いた。

すると、試験者の1人の声で、慎二は我に返った。

「お、待て。あいつで最後みたいだぞ!?」

「え?」

慎二は周りを見渡すと、どこの闘技場にも人が入っていなかった。気付けば、自分が最後の1人だった。

「さっきの奴が強かったんだ。最後の奴はもっと強いんじゃね?」

「まさか!?でも気になるな………!」

次第に会場は、最後の試験者である慎二に目が集まっていた。

「試験番号3801のジャミルさん。」

「は、はい!」

「使用する武器を選んで下さい。」

審査員に呼ばれた慎二は、変な緊張の中、剣と盾を手に取る。

「待って下さい。武器は1つだけですよ?」

「あ、すいません!じゃあこっちで!」

慎二は慌てて片方を戻すと、審査員は眉を少し動かした。

それに気付かず闘技場に駆け込んだ慎二。扉を閉めると、外側から審査員に鍵をかけられた。

魔物を前にして、慎二は武器を構えた。そして、

「なんかいつもとちがうような………。ん?あ…………っ!?」

武器を見て、自分の間違いの深刻さに気付いた。

「盾持って来ちゃった…………。」

「それでは始め!」

「あ、ちょっと待って!」

慎二が審査員を呼び止めようとするも、闘技場は密閉されていて、中に声がこだまするだけで、外に声が届いていなかった。

「ガルル………っ!」

「っ!?」

狼型の魔物の声に慎二が振り返ると、目の前に魔物の前足蹴りが迫っていた。



「えっ!?」

闘技場の中に入った慎二を見た桜は、目を疑った。なんと、慎二は盾を持って入ったのである。

「おい、あいつ剣じゃなくて盾持ってったぞ?」

「間違えたのか?」

「いやいや。多分盾で戦う奴なんだろう、あいつは。」

観戦者からは、疑問の声が聞こえ始めた。



慎二は、ぎりぎりでその前足蹴りを躱した。外れた前足蹴りはガラスに当たり、ガァンと激しくガラスが振動し、室内に反響した。

「危な………っ!」

慎二はそのまま魔物の股下を抜けて背後に回り込むと、渾身のパンチをぶつけた。

「だあっ!!」

見事パンチは命中した。

ペチン!

弱々しい音と共に。

「ですよね………。」

慎二は無意味さに苦笑い。すぐに距離を取ろうとする。

しかし、魔物はこちらを振り返らずに、両方の前足で身体を支え、後ろ足で慎二を蹴り飛ばした。

「ぐふ…………っ!」

咄嗟に盾で守った慎二だったが、後ろに大きく飛ばされ、壁のガラスに身体をぶつけた。

「いたたた……!」

慎二は痛そうに頭を押さえて立ち上がる。魔物は既にこちらに振り返り、再度こちらに攻撃しようとしていた。

「まずい!正面からやり合うのは無理か………。何か、何かないのか!?」

この絶望的状況で、慎二は辺りを見回し始めた。

しかしここはガラスに囲まれた小さな闘技場。何か落ちていたり、仕掛けがあったりするはずもない。唯一の情報は、床と天井はガラスではないという事だけである。

「どうする………っ!」

このままやられるだけなのか!?慎二が頭を捻らせていた時、ふと、静江の言っていた事を思い出した。




確かこれは、僕が剣道をやっていた時だった気がする。

「慎二さ〜?あんた目だけで物を追いすぎ。人間には目の他にも、色々と使う所はあるよん。」




「目だけで……。他に使える所はというと…………鼻、口、耳……耳………。」

慎二は、先程から闘技場内に響く振動音に気がついた。

「振動音………これは四方のガラスの反響のせい………。バルーン……風船………………っ!あっ、そうだ!!」

慎二は何かに気付いたのか、手の平をポンっと叩いた。

「ガルッ!」

そのすぐ後に、魔物がとてつもない速度で突進して来た。

「こ、殺す気!?」

慎二は横に飛び込んで避ける。魔物はそのまま壁にぶつかる。それにより、また一層振動する音が激しくなった。

「やっぱり………!ふっ!!」

慎二は自分の後ろのガラスの壁を盾で叩く。そしてさらに振動が激しくなっていく。

それからも、慎二は魔物の攻撃を一心不乱に躱し続けていく。



一方、外ではひどいブーイングの嵐だった。

「臆病者ーっ!!男なら正々堂々ぶつかっていけよ!?」

「逃げてばっかじゃねえか!?」

「なんかつまんねーな…………。」

多くの人が慎二の姿を見て、同じように言っていた。

「北野君、何をやってるんでしょう?」

桜も不思議でたまらなかった。

「ちっ!………それにしても、よく逃げるな………?」

先程の苛立ち少年は戦闘を見たり見なかったりで、早く試験が終わって欲しくてたまらなかった。




闘技場内

慎二には勿論外野の声が届いていない。審査員が合図を送る時以外、通気口はしまっている。

「そろそろ空気が薄くなって来た。やっぱり殺す気満々だよね、この作り………!」

慎二は躱しながらそう呟きながら、魔物の攻撃を避けていた。ずっと躱し続ける内に、この魔物の動きを完璧に見切っていた。

「そろそろかな?」

室内は度重なる衝撃から、耳がおかしくなる程の振動音が響いていた。

「ガルル!」

魔物が、次こそは討ち取らんとばかりに慎二を睨んでいた。

「悪いけど…………」

慎二は盾をフリスビーの様に持ち、

「これで終わりだ!」

天井めがけて投げた。

グワァン………………ッ!

天井に盾がぶつかったと同時に、闘技場内は振動の音の変わったかと思うと、

パンッ!!

一気に全てのバルーンが割れたのだった。

慎二は落ちてきた盾をしっかりとキャッチする。

慎二は気付いたのだ。これは魔物と戦う必要はなく、ただ、バルーンを割れば良いだけだという事を。

「よし!………て、え………!?」

ガシャンッ!!

その後すぐに、壁のガラスが崩れ落ちて、会場がざわついた。

「うわっ!」

審査員らはすぐさま闘技場から離れた。

「北野君っ!?」

ガラスが崩れ落ちたのを見た桜は、闘技場内にいる慎二の所に駆け寄ろうとする。

「危険です!近づかないでください!!」

「そんな…………!」

が、審査員に止められて、近づく事が出来なかった。

中からは魔物が大人しく出て来たが、慎二が中々出て来なかった。

「北野くんっ!!」

「はい!」

「っ!?」

慎二が盾を頭に乗せて逃げ出して来た。

「盾持ってて良かった〜!」

慎二は出て来て、ほっと一息ついた。

「…………!」

桜は慎二を茫然と見つめる。

「あれ、どうしたの?」

「な………っ!?」

当然の様に出て来た慎二に、桜は興奮して詰め寄った。

「し、心配したんですからね!?」

「そうなの?ありがとう。」

「ありがとうって…………!?はあ…………。」

桜は「全く…………。」とため息をついた後、落ち着いた声で言った。

「でも、無事でよかったです。」

「だね。盾が役に立ったよ。………あ、そうだ。」

慎二は審査員の所に走って行って、頭を下げた。

「ガラス、壊してしまってすいません!」

「い、いや。まあ、確かにこれまで壊れた事無かったけど、1年に1回しか使わないから大丈夫です。多分老朽化だと思うから。」

「そ、そうならいいんですが………。」

「さ、控え室に戻りなさい。皆さんも!これで全員の試験はおわりです!」


「なんだ、ガラスの老朽化かよ?」

「そのガラスの破片でバルーンが割れたんだろ?どうせ。」

シラけたのか、他の試験者もぞろぞろと静かに会場を後にした。

「そんな訳あるか………っ!」

だが、例の、魔物を気絶させた少年は、他の人とは違った。

「(破片なんかじゃない!あいつ、音の振動でバルーンを割りやがった………っ!)」

少年は立ち上がると、他の試験者に紛れて控え室へと戻っていく。

「(知識は力なりってか?最後の2人……。あの女は良いとして、やっぱり………あいつの戦い方は気に食わねえ………!)」

今度は足に手の指を立て、トントンと叩き始めた。



 多くの人が試験会場から出て中、1人足を止めて、割れたガラス部屋の方へ振り返る女性がいた。

「あの2人……………ふふ……っ!なんて面白い………!」

その女性は1人笑うと、試験会場を静かに出て行った。


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