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夢道の世界  作者: ジニー
第1章 夢の始まり
23/48

1ー21 「混乱のジャミル家」

桜と真琴が家に戻ると、ぐったりと椅子に座る健二の姿があった。

「その感じ、なんかあったんでしょ?」

真琴が苦笑いと共に尋ねると、

「ああ、あった………。」

健二は力無く返事をする。



 数時間前………。

「ンギャ〜〜〜〜〜〜〜ッ!」

「うぇ!?嘘だろ…………!」

健二が家に戻りドアを開けると、とんでもない鳴き声が聞こえた。大体予想はつくが、その声の正体はティアである。誰もいない事に気がついて泣いたのだろう。

「おいおい、どうすんだよ…………!」

健二はティアを抱き抱え、なんとかあやそうとするも、一向に泣き止む気配はない。

「まじか〜………!どうすんだよ〜!」

すると突然、ティアが泣き止んだ。

「あ、あれ?まあ、泣き止んだなら良いか。」

健二はひとまず家の中が静まりホッとする。しかし、


チョロチョロチョロ………


ティアから、なにやら水の流れる音が聞こえたと思うと、ティアの服が染み出し、健二の手にもつたわってきた。

「こ、これってもしかして………」

部屋に異臭が立ち込み始める。

「…………嘘だろ?」

それ以降、健二は一言も喋らずに「後始末」を始めた。



「………それがな…………」

「いや、良い!言わなくても分かるよ!」

真琴は健二の口をふさいで、それらの「物語」を彼の中だけに封じ込めた。

「ティアは今大丈夫でしょうか。…………うっ!?なんですかこの匂いはっ!?」

ティアの様子を見に行った桜が、鼻を覆って戻ってきた。

「まだ匂う?まじか!?………ぐっ!ほんとだ!」

「早くなんとかしましょう!」

「お、おう!」

桜と健二は鼻を覆いながら、窓を開けて換気し、部屋の清掃を始めた。

「なんか2人とも忙しそうだね?…………じゃ、じゃあ私、夕食の準備するね〜!?」

真琴は台所に行き、張り切って腕まくりをする。

「さーて…………っ!今日は何を作ろうかな〜!?」

「ンギャ〜〜ッ!!!」

「おい桜、赤ちゃんが起きたぞ!?」

「え!?ど、どうしましょう健二君!!」

「俺が知るかよ〜!?」

隣の部屋から雑音や騒音が聞こえる中、

「なんか少し騒がしいけど、始めるとしますかね〜。」

真琴は気にもせず、料理を始めた。



1時間半後、桜と健二はなんとかティアを寝かして掃除を済ませた。そしてその後は、2人とも椅子にもたれかかってボーッとしていた。

「疲れました………。」

「俺、もう2度とやりたくない………。」

その中、真琴は次々と料理を運んで来る。

「さあ、お2人さん!夕食の準備が終わりました!」

「ああ、そうか………っておい!?」

桜と健二はテーブル並べられた料理を見た途端、一瞬で脱力感が抜ける。

「なんか、豪華ですね………!」

テーブルの上には、鳥や何かの肉の揚げ物や、カラフルなサラダに、真琴の題名氏であるスパゲッティ、その他諸々、多くの料理が並んでいた。

「あはは〜!ちょっと張り切り過ぎちゃったかも………っ!」

真琴が「えへへ〜!」と笑って頭をかく、

「よっしゃっ!では早速…………!」

健二が嬉しそうに、フォークをとった瞬間、ガチャリと扉の開く音がした。

「ただいま〜!」

帰って来たのは慎二だった。

「あ、慎ちゃんお帰り〜っ!」

「お帰りなさい、北野君。」

「…………。」

慎二は後ろを向いて手招きして、ミラを家に呼んだ。

「どうぞ、入ってください。」

「では、お邪魔致します。」

ミラは慎二の後に続いて家に入る。

「っ!?」

すると、健二は血相変えて、入って来た女性に目を向ける。

「北野君、その人は…………?」

「村の教会のミラさん。僕らが村を出て行ってから、ティアの面倒を見てくれる方だよ。」

「初めまして皆さん、【ミラ・アルベルト】と申します。よろしくお願いします。」

ミラは笑顔で3人に頭を下げると、それに続いて、桜と真琴が頭を下げるが、健二は何やらボーッとミラの顔を見ていた。

「ほら、健二も挨拶!」

「なんて綺麗な…………。」

「あれっ?ちょっと健二〜?………しょうがないな〜。」

真琴は呆然とする健二の頭を掴んで、無理矢理下げさせた。

「今日からミラさんにはこの家に住んでもらって、ティアの面倒を見てもらう事になったから。よろしくね。」

「オッケー!初めましてミラさん。私は椎名 真琴です!さあさあ、これから夕食なので、どうぞ座って座って!」

真琴は慎二とミラの背中を押して、椅子に座らせた。

「それじゃあ、いただきま〜す!!」

真琴の挨拶と共に夕食は始まった。



「私は真木南 桜子と言います。ティアの事をよろしくお願いします。」

「貴女が桜さんですね。ティアさんの世話をずっとしていたと、この家に来る途中にジャミル君に聞きました!………というより、先程から気になっていたのですが………どうして、ジャミル君の事を、「慎ちゃん」とか、「北野君」って呼ぶのでしょうか?ニックネームなのですか?」

「あ、それはですねー………!」

桜がミラの素朴な疑問に答えられずにおどおどしていると、慎二が1回咳払いをして説明を始めた。

「この3人は3年前くらいからよくこの村に来てて、僕の名前を、3人の出身地域の現地語に訳して呼んでくれてるんですよ〜!?」

咄嗟に出た慎二のでまかせに、ミラは素直に頷いた。

「なるほど、納得がいきました。」

慎二は「良かった」と内心で呟く。

「あの、私の事、北野君はなんて言ってましたか?」

「ええと………、とても優しくて、面倒見の良い方だと言っていましたよ。」

「私って、そんな面倒良いですかね?北野君。」

「良い。いつも助けてもらってばっかだよ、桜には。」

「そ、そうですか!?………なんか、少し照れますね…………!」

桜は頰を染めて、目線をそらした。

「私は私は!?なんて言ってた!?」

真琴は自分を指差してはしゃぐ。

「真琴さんは、とても元気で明るい方だって言ってましたよ。」

「ほほ〜っ!やっぱり慎ちゃんは私の事よく分かってる〜!」

真琴は腕を組んで、自信満々に「うんうん!」と頷きながら言うと、ミラは何かを思い出した様に言葉を続けた。

「あ、後、食いしん坊でいやしい方とも聞いたような…………」

ミラの控えめな声が真琴の耳に入った瞬間、真琴は腕組みを外して、慎二をじーっと睨み出した。

「なぬっ!?それは少しレディーとして許せない気がする〜!」

「あれ、真琴ってレディーだったの?」

「ぬぁっ!?やっぱり私の事なんも分かってなーーいっ!!」

真琴はプイっと慎二から顔を背けた。

「………………。」

「ん、どしたの健二?」

4人が盛り上がる中、健二は弾かれた様にぽつんとしていた事に真琴は気付き、ぽんぽんと肩を叩き、健二の耳元で叫んだ。

「もしもーし!?」

「うおっ!?びっくりした…………!」

それに健二は肩をビクリと動かして周りを見渡す。

「そう言えば、まだ貴方の名前を聞いていませんでしたね?お名前を教えて頂けますか?」

ミラが健二を見つめる。すると健二は、みるみる顔が赤くしていく。

「(ちょっと健二?お腹でも痛いの?)」

「いや、大丈夫だ………。」

真琴が耳打ちして聞くと、健二は首を振って、ミラの方に向き直る。するとさらに、心臓の鼓動が速くなり始めてきた。

「(落ち着け………落ち着け俺…………!)………あ、新谷 健二です!よよ、よろしくお願いします!」

健二の見た事がないほどの緊張ぶりに、慎二と桜、真琴の3人は、思わず顔を見合わした。

「はい。よろしくお願いします、健二君。」

ミラはそんな状態の健二に、笑顔で優しく挨拶を返すと、健二はさらに顔を赤くして、ミラから目をそらした。

「ふふっ!そんなに緊張しないでください?」

ミラが口に手を当てて、控え目に笑う。

「ミラさんって、振る舞い方が本当に大人って感じですよね?」

桜の呟きに、ミラが少し「えっ?」と意外な顔をして、少し頰を赤くした。

「ミラさん?」

「いや、私ってドジっ子で、誰かに大人って言われた事なんて1度も無かったので、ちょっと照れてしまいました。」

「そうなんですか?」

「そうですよ?私なんて、「去年」巣立ったばかりですからね。」

「「「え!?」」」

桜と真琴、健二の3人はミラの発言に目を見開かせた。

「そうそう、「ミラ姉さん」は巣立ちの儀式の時、大遅刻して来たんでしたよね?」

「「「姉さんっ!?」」」

容姿からして、自分達よりも5、6歳は歳上なのだと思っていたが、そのイメージは今の会話で崩れ去った。

「慎ちゃん、もう1人お姉さんいたの!?」

「いやいや真琴さん……。そういう意味ではないかと………。」

「私とジャミルは、小さい頃からよく遊んでましたからね。まあ、ジャミルは私にとって弟みたいなものですから。」

「なんだ〜そういう事か〜!」

真琴は自分なりに納得していた。

「あだ名は「遅刻魔ミラ」とかって呼ばれてたよね?」

「そんな事もありましたね。でも、貴方も今日遅れてやって来ましたから。これで私の同志ですよ?」

「ま、まあ………。そういう事になりますね!」

慎二とミラはお互いに苦笑する。



かくして夕食は終わり、それぞれが風呂に入り終わると、みんなはそれぞれの部屋に戻っていった。

ミラと桜はティアのいる、あの少し臭う部屋で寝ることにし、後の3人は1人部屋である。

その一室で、慎二が先程、家の郵便受けに届いていた手紙を読んでいた。

丁度読み終わった時、ドアをノックする音が聞こえた。

「北野君、良いですか?」

ノックしたのは桜だった。

「うん。」

慎二はドアを開けて、桜を部屋に入れた。

「あの、その手紙は………」

「ああ、これ?これは、ダクのお父さんから。お母さんが無事に出産したってね。」

「それは良かった。名前は決まったんですか?」

「男の子で、名前は【ケン】。」

「ケン、ですか…………。」

慎二は手紙を丁寧にたたむと、それを机の引き出しにしまい込む。

「それで、桜は何の用事?」

「そうでした!」

桜は話を思い出すと、慎二の目をしっかりと見て言った。

「明日…………。私も、北野君について行って良いですか?」

「え………っ!?」

慎二は、予想外の用事に少しドキッとした。きっと、桜は僕なんかより、健二や真琴の方について行くと、勝手に思っていたからである。

「な、なんで?軍に入るって事は、今回みたいな危険な戦闘が多くなるかもしれないんだよ?」

「それは、旅に出ても同じ事です。それに、私達3人で北野君1人って、なんかひどいじゃないですか!?私達は、その…………友達ですよ!」

桜がグイっと慎二に詰め寄ると、慎二はグイっと後ろに退がった。

「訓練とか………大変だよ…………?」

「心配ありません!体力や集中力には自信ありです!」

桜が自信満々に腕を組みさらに慎二に詰め寄る。

「い、いや、その、ちょっと、近い………うわっ!」

「きゃっ!」

慎二が後ろに下がろうとすると、その後ろはベッドだった。その為、慎二がベッドの上に倒れ込むと、その勢いで桜も倒れ込んだ。

「ふーっ。後ろがベッドで良かった………。………ちょっと桜、起き上がってくれないかな?」

慎二が自分の上に乗りかかる桜に呼びかけるが、何も応答がない。それどころか、桜は慎二の腰に腕を巻いて、がっちりと固定していた。

「ちょ!?あの、桜〜?」

慎二は少しじたばたして拘束を外そうとするが、ぴくりともしない。すると、桜は小さな声で、そのまま話し出した

「本当は……心配なんです…………。」

「……訓練が………?」

慎二の答えに桜は首を振る。

「北野君がです………。」

「え?僕?」

慎二は自分を指差して首を傾げた。

「あの時、北野君はどんどん、先へ先へと進んで行っちゃって……。今回は大丈夫でしたが、次はいつ、何が起こるか分からないんです……。」

「桜…………。」

桜は泣いているのだろう。慎二の胸の辺りで、服がどんどん湿っていくのが分かった。

「私、北野君の助けになりたいんです。そして元の世界に戻って、またみんなで仲良くしたい………!」

「……………っ!?」

(それは………。でもなんで……………?)

「だから…………、誰1人、欠けさせるわけにはいきません!」

桜は泣き顔で慎二を見る。

(なんで彼女はこんなにも………まあいいか…………。)

慎二はちょっとした疑問が浮かんだが、今はそれよりも、この世界に来てからの桜の変貌ぶりに驚いていた。

前までは引っ込み思案で、自分の考えを誰かに伝えるなんて事はしなかっただろう。それが、今は桜が、自分と、そして他人と向き合っている。


その事に慎二は驚きだけではなく、ある事にも気づかされている。

変わっていくのは、自分だけではないという事を。

慎二は天井を向いて、独り言のような微かな声で言う。

「………桜……………。」

「……なんでしょう…………?」

「行こう、一緒に…………。」

「慎二君……。………はいっ!」

桜は涙を拭い、無邪気な笑顔で頷いた。

「うん!……それじゃあまずは…………」

慎二は腕で拘束される体を揺らす。

「これを解いてくれないかな?」

「……え?……………っ!?」

桜は、ようやく今の自分の体勢に気づくと、すぐに離れ、高速で部屋の壁に後退した。

「す、すみません!こ、こここんな事、する予定なかったのに……………っ!」

「予定?」

「い、いえいえいえなんでもありませんっ!と、とととにかく、今日の事は忘れて下さいね!?」

「え、今の話も…………?」

慎二は少し顔を暗くさせる。

「い、いえちがっ………!そういう事じゃなくてですね!こ、行動の事ですよ!?……………それではお休みなさい北野君っ!!」

桜はやや興奮状態で早口に話した後、飛び出す様に部屋を飛び出していった。

そして、ぽつんと部屋に取り残された慎二は少し苦笑して、ベッドに横になった。


【お前の友達は、良い奴ばかりのようだな?】

「そうだね……。本当に良かった…………。」

慎二はそのまま目を閉じて、ドラークとの会話を続けた。

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