1ー18 「伝えたい気持ち」
慎二はあまり良く眠れず、2時間程で目が覚めた。
「ぅ…………ぅん………………。」
未だ意識が朦朧とする中、ゆっくりと起き上がって前を見ると、ティアが丁寧に毛布に包まれて寝ているだけで、桜の姿は無かった。
「…………………。」
「起きたら外に来てください………。」
慎二は、眠る前に桜から言われた言葉を思い出して立ち上がると、ホールを静かに出た。
外に出ると、まだ日は昇っていなかったが、ぼんやりと明るかった。
慎二は迷いもせず、ある場所へと歩き出す。
役場は少し街から離れた位置にあり、少し高い位置にある。
そのため、集会などがある日、村民がくさい顔をしながら、役場へと続くやや急な坂道を登るのであった。
そしてこの役場の外にはもう1つ、今度は住民に好かれる名所がある。それは、村を一通り見渡す事が出来るちょっとしたスペースである。そこに慎二は向かったのだ。
そして、推測通り桜の姿を見つけた。
すると、足音でこちらに気付いたのか、桜は村の景色から、慎二に体の向きを変える。
「桜、何?話って………。」
慎二は尋ねながら桜の顔を見る。完璧に起こった顔だった。
桜は深呼吸すると、慎二をキリッと見つめて言った。
「謝ってください…………っ!」
「え?」
「友達じゃないって言った事を謝ってください!」
あんなに桜が怒っている所を、慎二は初めて見たかもしれない。そもそも、桜はこの世界に来てから、少し様子がおかしい気がする。ふと、慎二は思った。
しかし、今はそんな事を考えている時では無いと判断し、今は桜に応える。
「ごめん。ごめんなさい………。」
頭を下げて謝る。確かにあれは言い過ぎだった気がする。
しかし、慎二はどうしてもあの質問の答えが気になる。
慎二は思い切って頭を上げ、もう1度聞いてみる事にした。
「本当に悪かったと思ってる。でも僕は、愛想悪いし、桜に優しくした事なんて全然無いし、なのになんで、桜は僕の友達でいてくれるの?」
緩みかけていた桜の顔が、またすぐに引き締まる。そして少し考えた後、桜はブンブンと首を振って、こう言った。
「ただ、一緒に居たいから…………それだけでは駄目ですか………!?」
「え…………?」
「私は貴方と一緒に居たいんです……っ!」
「……桜…………。」
その時の桜の顔は、ちょうど彼女の後ろから出て来た日によって見えなかった。
「それに、北野君は充分優しいです。私はそんな北野君が大好きなんですから……!」
そして日が完全に昇った時、桜は微笑んでいた。
慎二は嬉しかった。
父と母の顔を覚えていないし、姉とはたまにしか会わない自分。
自分はずっと1人だと思ってた。でも今、目の前には
自分を大切に思ってくれる人がいる。きっと健二も真琴も同じに違いない。
でも、はっきりと自分の前でそう言ってくれた。それだけで嬉しかった。
自然と慎二も笑う。こんなに心から微笑んだのは初めてではないだろうか。
あぁ、最近初めてづくしだな、とふと思う。
「桜。」
「はい?」
「ありがとう……!」
慎二はニッ!と笑う。
「い、いや、そんな………!なんでお礼なん……て…………………?」
「ん?」
桜がいきなり硬直したため、慎二は思わず首を傾げた。
一方の桜は、数秒前に、自分が言った事を思い出していた。
それに、北野君は充分優しいです。私はそんな北野君が“大好き”なんですから……!
「す、好き…………!?あ、あぁ………っ!?」
元の世界で全く伝える事の出来なかった言葉を、今、自然と口に出してしまった。それだけではない。その前の言葉も、今思えばとても恥ずかしい。
桜の顔がみるみる赤くなり、プルプルと震え始めて来た。
「さ、桜?大丈夫?」
慎二は桜に駆け寄り、手を肩に置く。
「きゃあああ〜っ!!!」
「うわっ!?」
しかしそれが引き金となったのか、桜は役場に猛ダッシュで屋内へと戻っていった。
「な、なんだ………っ!?」
慎二は目をパチクリさせて驚く。
そして、先程から照りつける太陽を見た。
その太陽は、元の世界よりも心なしか少し大きい気がした。




