1ー1 「始まりの目覚め」
2020年の夏だった。
「起きろ、北野!」
耳にくる教師の一喝で、北野 慎二の目は覚めた。
机にもたれ掛けた体を起こす。
「いくら成績優秀でも、授業中の居眠りはいかんぞ。」
「あ、すみません……。」
「うむ。……では、授業の続きを始める。第一次世界大戦の発端は、セルビア人の青年による…………………」
またあの夢を見た。いつからだろうか、あの夢を見るようになったのは。
「北野……。」
あれは他の夢よりも鮮明で、頭に残る。あれは、実際あった事なのだろうか。
(まさか……。)
それは無いなと首を振る。だいいち、夢であり、夢に出てくる人や場所を自分は知らない。
だけどあれは…………、
「北野っ!」
「は、はいっ!」
「ぼーっとするんじゃない!!」
2度目の怒鳴り声が、北野のいる1年A組に響き渡った。
「はあー、疲れた……。」
午後の授業が終わり、教室を出て、慎二は校門の前を歩いていた。
「あっ、そうだ!今日は姉さんが早く帰ってくるんだっけ?」
なら、帰りにスーパーに寄って、すぐに帰って夕飯の支度をしなければならない。
急いで行かねば。慎二が走り出そうとしたその時、
「待ってください北野君!」
ふと後ろの方から声がかかった。
振り向くと、幼馴染みである、真木南 桜子が手を振って、追いかけて来ていた。
近くまで来ると彼女は足を止めた。
「あ、桜。どうしたの?」
慎二は昔から、親しみを込めて「桜」と呼んでいる。
「あ、あの……」
「ん?」
桜は少しばかり目を逸らしてためらったが、すぐに答えた。
「い、一緒に帰りませんか……?」
「うん。良いけど、何でそんなにおどおどしてるの?」
「へ?」
桜は不意をつかれたようにきょとんとし、たちまちに顔が赤くなった。
「そっそそそうですか!?わ、私は別に緊張なんて……!」
「あっ、そう。じゃあ帰ろうか。」
そう言うと、ぱっと明るい笑顔になり、
「……はい!」
と、嬉しそうに慎二の横についた。慎二はそういう、昔と変わらない、嬉しそうな彼女の笑顔が好きである。
慎二も、ほのかに微笑んだ。
「よし。……じゃあ、急いでスーパーまで走ろう!」
「え?あっ、北野君!?待ってくださ〜い!」
慎二が走り出したのを見た桜も、慎二の後を追って走り出した。