1ー14 「友を越えて……」
「ジャミルっ!!」
ダクは慎二が吹き飛ばされたのを見て、思わず走り出した。しかし、前を見ると、ゴーレムが剣を投げようと振りかぶる。その事に、まだ慎二は気づいていない。
「危ねえっ!」
ダクは慎二を守るように前に立つ。しかし、慎二を守る事は出来たが、自分自身の防御が遅れてしまった。
ズンッ!
致命傷を受けたダクは斧を手から落とし、へなへなと座り込むと、慎二はすぐさまダクの所に駆け寄った。
「ダクっ!」
慎二はそのまま倒れそうになるダクの体を支える。
「しまった……自分の事、何も考えてなかった…………。でも、お前が無事って事は……何とか間に合ったみたい………だな…………?」
「き、貴様ーーーっ!!」
マリスタはゴーレムに向かって剣を薙ぎ払うが、軽々と躱される。
躱したゴーレムは、マリスタに回し蹴りを放った。
マリスタはギリギリ剣で防ぎ切り、間合いを取る。
「はぁ…はぁ…………。………っ!?」
その時、マリスタは立ちくらみの様なものから、剣を地面に立て、膝をついた。
マリスタは頭の傷が思った以上に深く、一向に出血が止まなかった。更に、右手が痺れ始め、剣を持つ手から力が抜けてきていた。
「これは………少しまずいな…………!」
マリスタはなんとか立ち上がるも、思うように動けず、立っているだけで精一杯な状況だった。
そこをゴーレムは見逃さず、次々と連撃を繰り出していき、マリスタは少しずつ押され始める。
「くっ!このままだと………グフッ!?」
ついにマリスタの鳩尾に、ゴーレムの強烈な拳が入った。
「待ってろ、今助ける!」
慎二は手元のポーチから布を取り出し、出血を止めようとする。しかし止めるどころか、さらに血が溢れ出すばかりである。
「くそ!どうすれば………!」
慎二は次に包帯を取り出すが、剣が刺さっている以上、どうやって巻いたらいいのかが分からなかった。
「……もういい…………。」
ダクは何とかしようと奮闘する慎二の手を払った。
「何、言ってるんだよ…………!?僕のせいで、こんな………!」
「だから、いいって………!」
「く…………っ!」
慎二は包帯を持つ手を下ろして俯いた。
「俺はな………」
ダクが微かな声で話し出した。
「お前が………ジャミルじゃないってのは、雰囲気からして会った時からなんとなく分かってた………気がするんだ…………。」
「え…………?」
慎二は顔を上げた。
「でもな、俺が……俺自身がそれを認めなかった………。外見だけじゃなくて、話し方とか、考え方とか、性格も、全て…………。全てが、あいつそのものだったんだよ……………。………ゴホ………!」
ダクは口から血を吐き出し、ゲホゲホと咳き込み始めた。
「もう良い!これ以上喋ったらもう………っ!」
「最後に……1つ聞きたい…………。」
「……っ!?な、何……………?」
ダクの「最後に」という言葉を聞き、涙が込み上げる。
「あいつと同じ様に、俺は、お前の友達か………」
ダクが慎二の前に、血だらけの手を挙げた。それを慎二は力強く握って返答した。
「な、何、言ってるんだよ?さっき言ったよ!?ジャミルも、僕も、それに桜、健二、真琴だって、みんな友達だよ!?だから、だから僕はね……!?僕は…………」
慎二がまだ話している最中、ダクの手が慎二の手から落ち、先程まで動いていた心臓の動きが止まった。
慎二の体から血の気が引いていく。
「ダク………?ねえ、起きてよ………!?ねえ、ねえってばっ!!」
慎二はダクの肩を揺すったり、呼吸を確認したりしたが、何の反応も無かった。
「くっそーーーーっ!!」
慎二は、地面に拳を叩きつけた。
「僕のせいだ!僕が自分勝手にしないで、もっと周りを見ていればダクは、ダクは…………!」
「全く………お前も後もう少しで死ぬ所だったのだぞ?」
あの草原でまた、ドラークが話しかけて来た。
「なんで………なんでもっと早く言ってくれなかったのさ………!?」
「私は何回もお前に話しかけた。だが、お前がそれに応じなかっただろう?違うか?」
ドラークは淡々とした話し方で言った。
「何回も………?」
「ああ、何回もだ。多分お前は葛藤に駆られて、周りの音など何も聞こえていなかったのだろう?」
「そ、そんな………。」
慎二は膝をついた。
「やっぱり、やっぱり僕は駄目な奴だ………。」
「何…………?」
「何をしたって失敗ばっか。すぐに自分の感情に揺さぶられて他人に迷惑ばっかりかける。どうしようもない奴だよ……………。」
慎二の目から涙が落ちる。自分の不甲斐なさを悔やむ様に、ポロポロと涙が溢れる。
「…………だったらどうする?」
ふと、ドラークが口を開いた。
「確かにお前は阿保だ。先程までの様に、お前は他の奴らとは違ってロクに戦えないのにも関わらず、只々前に突っ走る阿保の極みだ。………だがな、お前はお前で、他の奴には持ってないものを持っている。」
「え………?」
「1つは思いやりだ。自分の事ではなく誰かを。ましてや、前まで全く知り合いでも何でも無かった他人の事に対して、笑ったり、怒ったり、悲しんだりする事が出来る。」
「…………っ!」
「もう1つは、機転が利く事だ。先程、オーク相手に対して、隙をついた攻撃をしただろう?あんな事、常人なら到底真似出来ん。」
「ドラーク………。」
「お前は決して駄目な奴ではない。だが、もう少し周りを見ろ。あの若造が死んだのは確かにお前のせいだ。なら、次こういう事があった時、仲間を絶対に守ると覚悟を決めろ。………お前が守りたいものはなんだ?お前のやりたい事はなんだ?お前は何になりたい?」
「僕は…………」
ドラークの言葉に慎二が戸惑っていると、またあの事を思い出した。
[僕はよく、あの夢を見る。]
「なんだ………そんなの………もう決まってたんだった…………。」
慎二は、ゆっくり立ち上がると、ドラークに告げた。
「………僕は守りたい!僕の大切な人の笑顔を!そして、みんなを元の世界に帰したい……!」
「………そうか。なら、お前はそれに全力を尽くせ。」
「で、でもどうやって!?僕には皆みたいな技は使えないし………」
「先程から言っているだろう?だったらどうする、と。」
「ど、どうするって言われても………」
「皆と同じ事をやろうとするから出来ない。自分のやりたい様にやれ。自分で自分の限界を決めるな。」
ドラークは大きな爪の甲で、グイッと慎二を押した。
「け、けど………」
「自身の肉体構造だけに捉われるな。自分の思う様に動けばいい。ほら、仲間達が待っているぞ?」
「ちょ、ちょっと………!ドラーク…………!!」
ドラークは慎二との会話を強制的に終わらせた。
慎二は拳をを地面に叩きつける瞬間に目が覚め、寸前の所で拳を止めた。
「ぐわぁっ!!」
マリスタがゴーレムに蹴り飛ばされ、地面に転がって倒れる。その衝撃で、損傷に耐えられなくなった全身の鎧がバラバラに吹き飛んだ。
さらに、
「やべえ………っ!」
「健二君!」
「まずいぞこれ!?」
「なんか、敵が群がりすぎじゃない!?」
後ろから聞こえた桜達の声で慎二は振り返った。そこには、多くの魔物に囲まれた桜、健二、真琴の姿が見えた。
マリスタ側と桜達側、両側共危機的状況だった。
「みんな!………どうすれば良い…………っ!?」
慎二は頭を押さえながら必死に考える。そして、
自身の肉体構造だけに捉われるな。自分の思う様に動けばいい。
というドラークの言葉を思い出す。
「僕は両方とも助けたい…………!それなら………!」
慎二は足元に落ちていた、ダクの斧を手に持つ。
「自分の思う様に、自分の思う様に………!僕はみんなを…………っ!!」
慎二は斧を強く握り、横に振りかぶる。その時、
ブウンッ!
斧と共に、慎二の体が虹色に光る。
「桜っ!みんなっ!伏せてーーーっ!!」
「北野君!?………わ、分かりました!」
「お、おうっ!」
「アイサーーっ!」
声が届いたらしく、3人はすぐさま伏せた。
「いっけーーーっ!!!」
慎二は大きな斧を、横向きに力強く投げた。
投げた斧は落下する事無く飛んで行く。そして、桜達の周りにいる魔物をなぎ倒して、最終的には近くの家屋の壁に刃が突き刺さった。
桜達を襲っていた魔物は半分以下になり、残った魔物は混乱している様だった。
桜達は上体を起こすと同時に、歓喜の声をあげた。
「すごいぞ慎二!」
「グッジョ〜ブ!!」
「流石です………って、え!?今、この斧を投げたんですか!?」
「な、なんだこれ!?」
その時、慎二は光り輝く自身の体に驚いていた。
「力が、全身から溢れている………?………いや、今はそんなのどうだっていい!次は………!」
「こ、ここまでか…………っ!?」
マリスタは体を起こそうとするが、身体中が痛み起き上がれなかった。
ゴーレムは少しずつマリスタへと近づく。
「……無念………っ!」
マリスタが覚悟を決めて目をつぶった時、体がぐわっと持ち上がった。
目を開けると、慎二が自分を抱えて、数メートル後ろに後退させていた。
「し、慎二君………?」
「大丈夫ですかマリスタさん?ここにいてくださいね?」
慎二はマリスタを丁寧に建物の壁に寄りかからせる。
「これ、少しお借りします!」
慎二はマリスタの剣を預かると数歩前に出て、ゴーレムと対峙した。
それから、慎二は横に倒れるダクに目を向ける。
「もう誰も……誰1人死なせるもんか!!」
慎二が剣を構える。すると、剣と体がさらに強く虹色に光りだした。
「っ!?」
それを見たマリスタは、体を小刻みに震わせる。
「虹色の………騎士…………?」
ゴーレムは、剣を構える慎二を見て、首をゴキゴキと左右に捻る。そして、
「ヒトノコゼンイン…………マッサツ……スル…………。」
そう小さく呟くと慎二に突撃し、前蹴りを放つ。
慎二はそれを横に受け流し、ゴーレムの背後に回って剣を振り下ろした。ゴーレムは瞬時に反応して振り返り、腕をクロスにさせて、剣を受け止める。
バチバチと音を鳴らす、慎二の剣とゴーレムの腕。
「ふぅ………っ!」
慎二は腕に力を込め、振り下ろす力を強めていく。
「っ!????」
ゴーレムはその力に耐えれなくなり、片膝をついた。剣を守る腕にビキビキとヒビが入っていくのが分かった。
「そこだ!」
慎二はそれを見逃さず、ゴーレムの脛を力強く蹴り、体勢を崩させる。そして、剣を構え直して横に薙ぎ払った。
しかしゴーレムはその一瞬で体勢を立て直し、慎二の攻撃を躱して後ろに引き退がった。
(やはり速い!通常の攻撃もあの速さから来てるものなのか………?)
慎二はゴーレムの動きを観察して驚く。
「ヒトノコ……マッサツ…スル……!」
ゴーレムはヒビの入った腕を一瞬で修復し終えた。
(それに、あの再生能力………一太刀入れただけじゃ無理か…………なら!)
慎二はさらに腕の力を強める………かと思いきや、逆に力を抜いて、発光状態から元に戻った。
ゴーレムはそのチャンスを見逃さず、慎二に高速で近づき、拳を下から上へ振り上げ、慎二の剣を上にはじき飛ばした。そして、力いっぱいのパンチを慎二に放とうとした。
ゴーレムはふと慎二の顔を見る。そこには彼の想像していた、人間の焦りと絶望の表情とは違って、余裕のある表情を浮かべていた。
「もらった!」
慎二は一瞬で全身に力を込めて発光状態になった。それから慎二は跳躍してパンチを躱し、はじき飛ばされた剣を取ると、上から下へ向かって振り下ろす。
「やぁぁぁぁーーっ!!」
攻撃が外れた反動でバランスの崩れたゴーレムは動けず、体が半分に割れる。
「まだぁっ!」
それから慎二は高速で、次から次へとゴーレムの体を斬り刻んだ。
バラバラになったゴーレムの体は元の形に戻るため破片を集めようとするが、再生が追いつかず結局破片はバラバラと地面に崩れ落ち、ピクリとも動かなくなった。
「ふう〜!やったの………か?」
ピクリとも動かないゴーレムの体の破片を見た慎二は、不思議ながらも、自身の発光状態を解いた。
「この力は……一体……?」
《力の共鳴……………》
「え?」
《いや、何でもない……………。それよりも慎二。その力は強大だ。いつでも使えると思って、油断するなよ?》
「そ、そうだね………。」
ドラークが何か言いかけていた事が少し気になったが、今は置いておこう。と、慎二は思った。
慎二はマリスタの所に行き、剣を返した。
「剣、ありがとうございます………。」
「あ、ああ………。」
マリスタは驚きと動揺の中、剣を受け取った。
そのまま、慎二はダクの死体まで歩いて行き、ゆっくりと、腹に刺さる剣を抜いた。
「ごめん………。でも、僕はもう大切な人を誰も死なせない。だから、出来たら見ていてくれると嬉しい。ジャミルと一緒に………。」
死体の前で手を合わせる。
慎二は自分の剣を鞘に収めて、道に落ちた拳銃も拾った。
周りの魔物を粗方倒し終えた桜達も、ダクの所に集まった。
慎二がダクの死体を背負った。
「さあ、僕らも役場に戻ろう………。」
慎二が歩き出そうとした時、
「マリスタ中尉ーーーっ!」
1騎の馬が壊れた村の門を飛び越えて入って来た。マリスタの前に来ると、急いで馬から飛び降りた。
「ご無事でしたか!?頭から血が………、鎧はどうしたんですか!?」
「ガレス准尉!何故貴殿1人が此処に?」
「この村の役場に旅団を泊めれるかを聞きに行ったきり、何時間待っても一向に戻って来なかったため、何かあったのかと単身で村に近付くと煙が上がっていたもので、大急ぎでやって来たのです!数分後には残りの兵もやって来ますよ!」
「そうか、それは助かる………。見ての通り、装備は重度の損傷により大破したんだ。これは、また新しいのが必要になるな………。」
「中尉の装備を破壊するなんて………どんなのと戦っていたのですか?」
「『これら』だ………。」
マリスタは周囲に目を泳がす。ガレスは周りを見回すと、そこには崩れ落ちた家屋や人・魔物の死体が至る所に転がっていた。
「な、なんと………!」
ガレスは唖然とした。
「それより、私は彼らと共に奥にある村の役場に向かう。ガレスは後から来る中隊と共に、村の復興作業の指揮を執って欲しい。まだこの周辺に魔物が数体いるから注意してくれ。」
「はい、お任せ下さい!」
ガレスは敬礼した。
「頼んだぞ!………それでは、我々はもう行こう。」
マリスタも敬礼を返すと慎二達の方を向いて、役場に向かって歩き出した。
「あ………?(これは、ダクの………)」
健二は歩きざまに、壁に刺さったダクの斧を引き抜き、両手で大事に握った。
何時間経ったのか。気付けばもう陽は暮れようとしていた。




