1ー13 「招かれざるイレギュラー」
魔物の襲撃から3時間
門の付近の活気あふれていた通りは、あちこちから火が上がり、魔物が徘徊していた。
数十人いた憲兵は次々と魔物にやられ、もう5人しか残っていなかった。
「おい……まだ魔物が村に入ってくるぞ!?」
「くそ!こんなのキリがねえ!」
「お前ら気を抜くなよ!?……前だ、【ワイルドウルフ】が7体!それと、オークが3体!【ゴブリン】が5体!……くそ、まだ入って来る!」
「役場に行かせるか………!俺達で食い止めるんだっ!!」
5人は、次々と襲いかかる魔物に、死に物狂いで挑む。
「くそ、くそ!こいつら……っ!」
「数が多すぎるっ!」
次々と増えていく魔物に数で押され、憲兵達は少しずつさがり始めていた。
そこに、慎二達が合流した。
「大丈夫ですかっ!?」
「何だお前ら!?」
慎二達は憲兵を庇うように前に立つ。
「そこ!」
慎二がリボルバーの引き金を引き、ワイルドウルフ1体に命中した。
「俺だってっ!」
健二は剣を引き抜いた。すると、剣が赤く光り出した。
「っ?なんだこれ?まあ良いか!………やぁっ!!」
健二が力任せにゴブリン目掛けて剣を振り下ろす。肩口に入った剣は、なんとそのまま刃が進んでいき、ゴブリンの体を縦に両断した。
「よっしゃあ!なんだか分からんけどいけるぞ!」
桜は、2体のオークを1人で相手していた。
「は、はぁ………っ!」
青く光った剣で、オークの動きを見切った桜は、オークの腕、計4本を一気に斬り落とし、2体の首を素早く撥ねた。
「桜、銃貸して!」
「はい……!」
真琴は桜から投げ出されたリボルバーを受け取ると、自分のも取り出して2丁両手に構えた。すると、拳銃が緑色に光り出す。
「おーっ!一度やってみたかったんだよね〜っ!いっけーーっ!!」
真琴は魔物に向かって銃を乱射する。放たれた弾は風を纏って、ワイルドウルフに命中した。すると、命中した弾は貫通し、後ろの敵にも当たり、4体のワイルドウルフを倒した。
ダクも自分の武器である斧を強く握り締めると、斧が茶色に光った。
「おらあっ!!」
ダクは斧を横に勢い良く振るい、2体のゴブリンを倒した。
その様子を見ていたロマリアと憲兵達は、5人の手際の良さに唖然とする。
「彼らは本当にただの子供なのか………っ!?ふぅっ!!」
マリスタは、残ったオークなどを軽く蹴散らす。
「あの武器が光る奴は何なんですか?」
剣が光って驚く桜がマリスタに聞いた。
「あれは自分の【魔力】を武器に宿しただけだ。普通の事だろう?」
マリスタは桜の質問にあっさり答えた。
「あれ、普通なんですか……?」
「あれは普通に誰でも出来るものだろ?それにしても、桜と健二、真琴は、本当にこれが初めての戦闘なのか?俺とは違って桁違いの威力だったけど………。」
ダクが言った。
「な、なんででしょうね?」
「君達3人はかなりの才能があるみたいだ。おそらく、凄腕の戦士になれるだろう。」
マリスタさんが自分が言ったことを確信したように頷きながら言った。
「さ、才能か〜!」
「俺達、すごいん……だな………?」
「はい。そうみたい……ですね………。」
健二達は先程から、世界観が飲み込めず、適当な返事を繰り返していた。
「今の技、みんな、どうやってやってるの?」
慎二が5人に問い掛けた。
「「「「「え?」」」」」
5人は、慎二の言った事に驚いたが、今の状況から話している暇はなかった。
「そんな事より……」
マリスタは憲兵達の方を向いた。
「ここら辺の住民は皆避難したのか?」
「俺達は魔物を倒すのに必死だったから分からない。すまん………。」
憲兵達が軽く頭を下げた。
「いや、貴殿らはよく戦った。だが、あともう少し動けるか?この周辺で逃げ遅れた人を探す。」
「役場の方は無事なのか?」
「多分問題はない。この村に滞在中の旅人が役場を守っているだろう。大丈夫だ。」
「そうか。良かった……。」
マリスタの言葉を聞いて、憲兵達は一安心した後、すぐに気を引き締めた。
「よし。まだ逃げ遅れた人が家の中で隠れているかもしれない。探しに行こう。」
2時間探した結果、案の定、家の中や外に隠れていた人が数人見つかり、彼らの保護に成功した。
街を走る度に、見るに耐えない人々の死体も多く見つかり、慎二達は目を逸らした。
「20人か……。ではまず、彼らだけでも我々が連れて行こう。他にも見つけたら頼む。」
憲兵達はそう言うと、20人を連れて、役場へと走っていった。
「そうは言っても、もう他にいますかね?」
桜がマリスタに尋ねた。
「ここ周辺の家屋は全て回ったはずだ。そろそろ我々も役場に向かうとしよう!」
マリスタが憲兵の後に続こうと後ろを向いた。その時、ふと桜が村の入り口の傍の道に、人が倒れているのを見つけた。
「外です!外に1人いました!」
桜が全員を呼び止めた。
「すぐに行こう!」
慎二達は少女を保護するため、村の入り口へと走り出した。
「オギャーッ!オギャーッ!」
近づくに連れ、それは、赤ん坊を抱えて倒れた女性だと分かって、マリスタはすぐさま駆け寄った。
「おい!しっかりしろ!」
マリスタは女性の肩をさすった。
「……………っ!?……あなた…は…………?」
「大丈夫だ、今助けに来た!」
「もう、無理……です………。」
女性は肩に置かれたマリスタの手を払う。
「私はもう……どの道助かりません…………。」
「な、何を言って…………っ!?」
マリスタは女性の背中を見ると、下腹部にオークの剣などにやられたであろう、深い傷があった。
「く………っ!」
マリスタはその傷の深さと血の流れる量から、彼女の言う通りだと分かり、目をそらした。
「代わりに………この………子を…………。」
「!?」
その女性は、倒れながらも大事に抱えて守っていた赤ん坊を、マリスタの前に差し出した。
マリスタは、それを慎重に受け取ると、女性は安心したように、深呼吸をした。
「よ、良かった………。」
マリスタは悲しみから唇を噛み締めて、目から溢れそうな涙をこらえた。
「…………この子の名前は?」
「【ティア】……ティア……………です。」
「ティアか………。分かった……………。」
すると、女性は泣き続けている赤ん坊の顔に触れた。
「ティア……?ごめん…………ね…………?」
そして、ついに赤ん坊の顔から手が離れ、ぱたりと地面に落ちた。
「どうか、安らかに………。」
マリスタは、開いたままの瞼を閉めてあげ、赤ん坊を抱いて立ち上がり5人の所に戻った。
傍で見ていた5人は、複雑な顔をしていた。
「マリスタさん………。」
「これで最後だと思う………。さあ、私達も役場に急ごう。そうすれば、その内私の…………。ん……なんだ………っ!?」
マリスタはなにか言いかけた所で話を止めて、周囲を激しく警戒し始めた。
「ど、どうしたんですか?」
「何か……何かが来る………!」
ズシン!ズシン!
「!?」
5人も、少しずつ近づく音に気づく。マリスタは何かに気づき、門の方へ顔を向けた、するとその途端に叫んだ。
「しまった!みんな、伏せろ!!」
ガゴンッ!!
瞬間、木の板でとめられていた村の門が吹き飛んだ。そして、その残骸が慎二達の方へと転がって来ていたのだ。
彼らはマリスタの言葉を聞いて一瞬でしゃがむ事が出来たため、なんとか全員無事だった。
「なになに!?今度は何〜〜っ!?」
真琴が頭を手で守りながら言った。
「みんな大丈夫〜?」
真琴が頭を上げると、慎二やマリスタ達はもう立ち上がっていた。彼らは唖然として、1つの方向を見ていた。それを真琴が見た時、何も言葉が出なかった。
そこには、壊れた門をまたいで村へと入る、肌が岩でできている巨体がいたからだ。
「ゴーレムだって………!?」
ダクが声を震わせながら言った。
「いや、ただのゴーレムじゃない!このタイプは………」
マリスタは、ゴーレムの体を念入りに観察した。そして、「まさか、そんなはずは!?」と声をもらす。
「【ヘビーアース】………!?警戒レベル8だと!?何故こんな地域に………!?」
マリスタは焦りの表情を浮かべていた。
「警戒レベル8!?」
ダクは腰を抜かしそうになった。
「あの、警戒レベルってなんですか?」
「ザンクテンブルクで定められてる、10段階に分かれた魔物のレベルの事だよ……あれは通常より動きは遅いけど、外殻が異常に硬くて、1撃が重いから、8番目というレベルに定められているんだ………!」
慎二の説明から、桜達4人はようやく今の状況が掴めてきた。
「そんなのを、どうやって相手にしろっていうんですかね………?」
全長5メートルはあるそれは、大きく息を吸い、とてつもない声で吠えた。
「オオオオオオオ……………………ッ!!!」
慎二達はその声のあまりの大きさに耳をふさいだ。
「なんだ!?」
「しまった……!魔物を呼ばれた!!」
マリスタはさらに周囲を見回した。
するとすぐに、どこからともなく魔物が姿を見せ、慎二達を眼光で捉えた。
「ま、まずいぞこれ!?」
健二は剣を鞘から引き抜き、剣を赤色に光らせた。
「俺達だけで倒せる敵の数じゃないぞおい!?」
「私、弾が足りないと思うんだけどー………?」
「うぅ………っ!」
「…………分かった!多分あれが今回の騒ぎの元凶だ。動機は分からないが、あれがこの村に魔物を呼び寄せ、襲撃して来たのだと思う。」
「あれが元凶………!?」
慎二は、今まで見て来た人の死体が次々と頭に浮かぶ。そして、マリスタが抱いている赤子を見た。
(あいつが………あいつがみんなを…………っ!)
すると、今まで感じた事のない何かが、自分の中から湧いて出て来たような気がした。
「一旦この子を安全な所に連れていかなければならない!………1度後退しよう!」
マリスタが1歩後ろに退がると、他の4人も後ろに退がる。しかし、1人慎二は動かなかった。
「慎二君!?撤退だ!」
マリスタは慎二に呼びかけるが彼は反応しない。
「北野君………?」
桜が慎二の肩に手を置こうとしたその時、慎二はゴーレムに向かって走って行った。
「慎二君何をしている!?戻って来い!」
マリスタが呼び止めようとするも、慎二は構わず走り続ける。
「あ、あいつ………っ!」
「待て!」
ダクも慎二を追って走り出そうとするとマリスタは手で止めた。
「何言ってんすか!?あいつ1人じゃ無理ですよ!」
「分かってる、だから私が行く!君達4人はこの子を守ってくれ!」
マリスタは桜に赤ん坊を預けると、剣を抜いて、慎二の後を追いかけた。
「俺達はこいつらを出来る限りぶっ倒すぞ!」
健二は飛びかかって来たワイルドウルフを斬り倒した。
「りょっ!!」
真琴を襲ってくる魔物に銃弾を放つ。
「桜はこの子を連れて、出来るだけ遠くに逃げろ!」
ダクが後ろにいる魔物をどけ、健二達はそのまま、子供を守る桜を囲むようにして、役場方向へと後退を始めた。
ゴーレムが、慎二めがけて大きな拳を振り下ろす。
慎二はそれを躱すも、ゴーレムの拳と地面がぶつかった衝撃波で、うっかり右手に持っていた拳銃を落としてしまった。
「く…………っ!」
慎二はそれを気にせず、鞘から剣を引き抜く。
《慎二、一旦立て直せ………!》
「うるさい…………っ!」
ドラークの忠告を聞かず、慎二はゴーレムの懐に入る。そして、ゴーレムの足に、思い切り剣を振り下ろした。
「やあっ!」
しかし、
カンッ!
「っ!?」
ゴーレムの足は並の魔物よりも頑丈なため、剣の刃が通らなかったのだ。
ゴーレムは1歩後ろにさがると、もう1度拳を振り下ろす。剣を振った反動で体制を崩した慎二は、回避が間に合わないでいた。
「しまった!」
「慎二君!」
すると、追いついたマリスタが、剣を青く光らせ、ゴーレムの重い拳を横に受け流した。
「はああああっ!」
なんとか慎二から拳の軌道から外れた。
「マリスタさん!」
「くっ………!大丈夫か!?」
2人はゴーレムを見上げると、さらにもう1撃のために、腕を振り上げていた。
「させるか!!」
マリスタは軽くしゃがみ、足に力を入れた。
そして、剣と同じ青い光を足の鎧にも纏わすと、勢い良く跳躍。
なんとマリスタは、ゴーレムの背丈を越える程の高さまで跳び上がった。
ゴーレムは標的をマリスタに変え、拳を前に突き出すが、それをマリスタは渾身の力で斬り砕き、ゴーレムの胸に剣を勢い良く突き刺す。
「はああああっ!!」
マリスタは渾身の力で剣を押し込み、ゴーレムの胴を貫いた。
「ゴアアアアア………………!」
胴に穴の空いたゴーレムは、うめき声のようなものをあげ地面に崩れ落ちていく。
「はぁ………はぁ………………。」
マリスタは慎二の所に走って戻った。
「マリスタさん、その怪我………」
「大丈夫、少し破片が掠っただけだ………………。」
岩の破片などが当たったらしく、彼女の頭からは、血が流れ落ちていた。
「やりましたか………?」
慎二が安心する。それを見てから、ふと、マリスタはゴーレムの方に目がいった。
崩れたゴーレムの瓦礫から、何かが出てくる所が目に入る。そしてその「何か」は、マリスタと目が合った途端、人外な速度で、マリスタに接近した。
「なに……っ!?」
マリスタはすぐにその接近に気づき、剣を楯のように横にして、前に突き出した。
ガンッ!
マリスタは突如前から繰り出された蹴りを、前に出した剣のお陰でなんとか防げたが、その衝撃で後ろへと押し出された。
「ぐゎっ!」
マリスタはすぐに態勢を立て直す。そのせいで、慎二と、ある程度の距離が開いてしまった。
「中から……別の魔物だと!?」
マリスタはそんな事例を見た事はおろか、聞いた事すら無かったため、驚愕と焦りの表情に変わる。
マリスタと慎二の前にいるのは、先程のゴーレムよりも遥かに小型で、慎二達2人と、背丈や格好が似ていた。
「お前っ!」
慎二はゴーレムに接近し、剣を振り下ろす。
剣の刃が、見事にゴーレムの肩口に入ったと思いきや……
「な!?」
慎二が驚くのも無理もない。
あろう事かゴーレムは、慎二の振り下ろした剣を片手で軽々と受け止め、慎二の手から剣を奪い取ったのだった。
「慎二君!逃げろ!!」
マリスタの叫び声の途中に、ゴーレムは慎二に右ストレートを放つ。
慎二はとっさに、盾代わりに持って来た鍋の蓋で防ごうとするが、ゴーレムの強烈な1撃で、鍋の蓋はグニャリと折れ曲がり、そのまま慎二は10メートル程吹き飛ばされ、地面に体をこすらせながら転がった。
「ぐっ!ごは………っ!」
慎二は殴られた衝撃で息が詰まり、思わず咳き込んだ。するとすぐに、
《慎二!!》
「慎二君!!前だーーっ!!」
ドラークとマリスタの声が同時に聞こえて、咄嗟に前を向く。
「あ………!」
すると、ゴーレムが先程の剣を投げ、剣が手から離れていく光景が見えた。
逃げようとしても、先程の攻撃で足を挫いてしまっており、それは不可能だった。
一瞬で、慎二は自らの死を悟った。
マリスタが向かっているが、距離的に間に合わないだろう。
慎二の目の前の景色がゆっくりと流れる。
ああ、自分はここで死ぬんだ。
まだこの世界に来たばかりなのに、自分は、あの3人を守る事なく死んでしまうのだと思い、無念で仕方ない。
「せっかく………守るって決めたのに………っ!!」
刻々と自分に迫る剣先を前に、慎二は目をつぶって覚悟を決めるしかなかった。
ズンッ!
胸を貫く音が聞こえ、血が吹き出した。
しかし、剣が貫いたのは慎二ではなかった。
「あれ………?」
痛みを感じず、不思議に思った慎二がゆっくりと目を開ける。するとそこには自分の身代わりになり、立ち尽くす者がいた。
「ダク………………?」
慎二はその者の名前を、自身の目を疑うように呟いた。




