屋上の椅子
お題を全然守ってない
私の学校は、屋上に上がる事が自由である。
そして意外と屋上へ上がる酔狂な人がいない為
誰もいないのだ。
私は屋上のそんな所が好きだった。
誰でも行けるのに誰もいない。
少し変わった所があると言われる私は、
自分らしいなと思っていた。
今日も学校に早く着き過ぎたので、
教室に荷物を置くと屋上へ向かった。
するといつもは私の特等席になっている椅子に、
誰かが腰掛けていた。
フードを被り階段には背を向ける様に座っていた。
私は背中合わせになるように、もう一つ椅子を引っ張ってきて座る。
「今日はあんまり天気が良くないみたい」
私が落ち着いたタイミングで話し掛けてきた。
声で女だと分かった。
「そうみたいね」
あまりにも素っ気ない返答。
「貴方随分と素っ気ない人なのね」
「別に...私と貴方が初対面だから緊張しとるんだよ」
「嘘ばっかり」
声を押し殺した笑い声が聞こえる。
ちょっとムッとした私は、
「そういう貴方は性格が悪いみたい」
すると今度はケラケラと声に出して笑った。
「貴方かわいい所があるのね」
バカにしたような言い草に私は余計腹が立った。
「私ね 貴方みたいな人が好きだったのよ」
妙な既視感を覚える一言だった。
「そういえば貴方は誰なの?」
背中合わせだから確認出来ないが、
私はなんとなくこの人が、
この学校の人だと思えなかった。
「名前はね 言ってはいけない約束なの」
この屋上に忍び込んで来たのか。
気持ちは分からないでもない、
ましてや告げ口なんてする義理もないので、
とりあえず誰でもいいかと結論を出す。
と考えていたら
「貴方親友なんて人はいるの?」
脈絡もない一言
親友...いない いなくなってしまった。
「そんな人いないよ」
「そう」
悲しそうな声
「私にはいるのよ」
「優しくて 強くて 一人で 何でも出来る」
別に聞いてもいないのにペラペラと親友を褒める。
「そして私が傷付けたの」
「ふーん」
興味なんてないから私は話半分だ。
「まぁ懺悔みたいなものよ」
「私なんかにそんな事しても意味はなさそうだけど」
「懺悔は聞いてくれる事に意味があるのよ」
「あっそう」
キーンコーンカーンコーン
と予鈴がなった。
「私授業だし行くわ」
「そう 短い時間だけど楽しかったわ」
私は立ち上がって階段を2段降りて振り向く
「貴方 見つかったら多分怒られるから気を付けなさい」
「ありがとう」
「 」
階段を降りる背中から、
二言程聞こえた気がするが、
ありがとうしか聞こえなかった。
次の日、高校の同級生が亡くなったと連絡が来た。
昨日の朝の出来事だったらしい。
それは私の親友だった女の子だった。
彼女は卒業後重い病に掛かって、
ずっと入院していたとの事だった。
そして思い出した。
「「私ね 貴方みたいな人が好きなの」」
その台詞は、
昔彼女に告白された時に聞いたセリフだった。
私はその告白を拒絶した。
それからなんとなく疎遠になったのだ...
私はそんな目で見れない。
確かそう言って教室を飛び出した。
高校生の間はずっとモヤモヤと心に何か、
言葉に出来ない何かを抱えていたのだ。
昨日のあの人は、絶対に彼女だった。
私は全てを思い出した。
「ごめんね」
昨日聞いた最後の言葉はきっとこれだった。
病院にいたはずの彼女は、死ぬ前に
私に謝りに来たのだった。
多分他の人に言っても信じてもらえないだろう。
だからこそ私は、あの出来事を本当だと思った。
彼女はよくこんな事を言っていたからだ。
「私は人がそんなに好きじゃないの、だから貴方にだけ信じてもらえればそれで満足なの」
「じゃあ貴方の事は全部信じてあげる」
私は確かこう返したのだ。
思い出した私は泣いていた。
そして今日も私は屋上へ行く。
昨日と同じ配置の背中合わせの椅子、
私の椅子を彼女の椅子の隣に並べて座った。