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二段ベッドは下に限る。

 汚れた人種ことアルト・シリアは金に汚い。


「俺、貧乏貴族なんで」

 購買の値切りパンを手にし、アルトは言う。

「お金もらえるなら靴とか舐めますよ、マジで」

「いや、そんなことしろって言ってないし」

 シイナとアルトは昼休み、屋上で昼食をとっていた。傍目には仲のいいクラスメイトに見えるだろうが、実際二人の関係は利害関係だ。

「でもシリア家って名門じゃなかったっけ?」

「名門だけど金ないんです。奨学生ですし、俺」

「そーなんだ」

「だからシイナみたいに超のんきな人種見ると割とイラッとするんですけど」

「汚れた人種よりましだし」

 それで割と仲が悪い。なのになぜ昼休みまで一緒にいるかというと。

「でも卒業まで私に協力してくれるんだよね~?」

「ええ、金のためにね」


 話は二ヶ月前、入学時にさかのぼる。シイナは荷物を抱え、学生寮に来ていた。

「相部屋かあー気が合う人だといいなあ」

 入学前にばっさり切った髪がスースーする。

「っていうかバレないようにしないと」

 もしバレたら速攻城に連れ戻される。せっかく楽園に来たのに、このチャンスを逃してたまるか。

 205号室と書かれた部屋の扉をノックする。

「おじゃましまーす」

 がちゃり、とドアを開くと、段ボールを抱えた少年が立っていた。

 うお、イケメン。

 色素の薄いさらさらした髪に、澄んだ瞳。さすが良家の子女が集まる名門レンブラント学園。レベル高いなあ。

「俺、シイナっていうんだ。よろしくな!」

「アルトです。よろしく」

 そっけなく言い、アルトは段ボールを机に置いた。

「な、なにそれ?」

「内職ですけど」

「ないしょく?」

 なにそれ。アルトは段ボールから紙を出し、器用に薔薇を作っていく。

挿絵(By みてみん)

「おー、すごい」

「感心してないで荷物を片付けたらどうです? 六時から夕食ですよ」

「あ、うん」

 シイナはうなずいて、鞄を下ろした。ベッドは二段だ。寝相が悪いから下がいいなあ。

「なあ、俺下の段でいい?」

 アルトはこちらを見ずに答える。

「どうぞ」

 鞄を開き、中に入っている薄い本を見てにやける。全部は持ってこられなかったが、お気に入りのものばかりだ。

 にやにや笑っているシイナを、アルトが不気味そうに見ていた。


「えへへえ、かわいいなあ~」

 シイナはにやにや笑いながら、男同士のいちゃつきを書いた小説をめくる。宮中にはどうやら同好の士がいて、薄い本をこっそり集まって作っているのだ。

「この絵とかさいこー」

 二段ベッドで、間違えて相手の布団に潜り込んでしまうのだ。

 その時、がちゃりと浴室の扉が開いた。シイナは慌てて薄い本を枕の下に押し込む。

「どうぞ」

 髪を拭きながら、アルトが浴室から出てくる。時間がかかるから先に入って、と言ったのだ。

 シイナは着替えを持って、浴室に向かった。念のため、寝巻きの下にタンクトップを着込む。

 シャワーを浴びて浴室を出ると、アルトがベッドに寝ていた。

「あれ?」

 しかも下の段に寝ている。それは良いのだが。枕の下には薄い本があるのだ。

 まずい。

 シイナはなんとか本を取ろうと、そっと枕を持ち上げた。アルトが寝返りを打つ。

 うわあ……

 まつ毛が死ぬほど長い。髪はさらさらしていて、絹糸のようだ。正直、色気で負けている。

「って見とれてる場合じゃないし」

 こうなったら枕ごと引っ張るか。

「せーの、ってわ!」

 腕を掴まれ、つんのめる。

「何してるんですか、さっきから」

「起きてたんかい!」

「人が寝ようとしてるのにうるさいんですよ」

「あのさ、俺下の段がいーんだよ。どいてくんない?」

「はあ」

 起き上がったアルトが、枕をつかんだ。

「ん?」

「わあっ」

 本を手に取り、パラパラめくる。

「ちょ、ちょ、わー! わー!」

「『ルカはハルヤの服に手をかけた。「わからないなら身体に教えてやる」』」

「音読するな!」

「ハルヤは必死に抵抗し」

「やめろっつーの!」

 シイナは本をひったくり、服の下に押し込んだ。沈黙が落ちる。

 アルトは視線を合わせずに、

「えーと、そういう趣味が?」

「べ、別にどんな趣味があろうがいいだろ」

「まあ、そうですが」

 アルトはベッドから立ち上がる。そのまま上のベッドへ行くのかと思いきや、シイナの寝巻きに手を突っ込んだ。

「ぎゃー!」

「続き気になるんで読ませてくださいよ、ハルヤくんはどうなるんです?」

「気になってるようには見えない、嫌がらせだろ! ちょ、なにすんだこの」

 むに。

「!」

「ぎゃあああ!」

 シイナは思いっきりアルトを突き飛ばした。

「な、なに、なにすんのよ!」

「のよ?」

 慌てて口をふさぐが、遅い。

「あんた、もしかして女なんですか?」

「ち、違うし」

「でもむにって」

「筋肉だ!」

「今から寮長呼んで来ましょうか。ルームメイトが女かどうか調べてくださいって」

「ちょっ」

 シイナは慌ててアルトの腕をつかんだ。

「正直に言ったほうが身のためだと思いますよ」

「っああ女だよ、女、超美少女!」

「自分で言います?」

 アルトはそう言って、ベッドの柱にもたれる。じっとシイナを見た。

「ふうん」

「なに」

「男にしちゃ華奢だと思ってましたけど。まあ、俺の好みじゃないですね」

 あんたの好みなんか知るか! シイナは息を吸い込み、アルトを見据えた。

「私はシイナ。この国の姫よ。王位を継ぐため、男の威厳と振る舞いを学ぶべく、男子校に来たの」

「えらくリスキーなことしますね。城内にだって男はいるでしょうに、なぜわざわざ」

「だから、バレないように振る舞う練習だよ」

「すでにバレちゃってますけど」

「不可抗力! 今のはなし、セーフセーフ!」

「ずるくないですか、それ」

「よく考えて、私が城に帰ったら、あんたに胸揉まれたって言いふらすかもよ? そしたら不敬罪だよ! それでもいいわけ!?」

「なんつー脅しだ」

 まあいいですけど、とアルトは言う。シイナはちらりと内職の段ボールを見た。

「もしかしてお金に困ってるわけ?」

「はあ、まあね」

「なら、私が卒業するまでサポートして。ちゃんと報酬出すから」

「なるほど」

 アルトが顎に手を当てた。

「悪くないですね」


 回想終わり。

「今考えても最悪だよね」

「今やなんの恥じらいもないそっちのほうがどうかと思いますよ」

 再び昼休みの屋上。二人は昼飯を食べ終えていた。

「風呂上がりにタンクトップと短パンでうろうろしてますもんね」

「だって楽だし。にしても、女の子に興味がないアルトが同室でよかった~」

「興味ないなんて言ってませんけど」

「だってふつー女の子と同じ部屋なんて、どきどきしちゃって眠れないでしょ?」

 うふっ、と笑うと、

「そのテンションなんかむかつきますね。……どきどきはしますよ」

「へ?」

 アルトが今までで一番の笑顔を見せた。思わずドキッ……

「いくら貰えるのかな、って」

「……汚れた人種め」

 こんな感じで、ときめき皆無の同室生活を送っている。


 アルトの興味 金>>>>>>>>女の子


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