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プール開きだ! ポロリはないよ!

※主人公が腐女子なので苦手な方はお気をつけください。また、のちのちホモくさいキャラが出てくる予定です。基本はNLのつもりです。

 国立レンブラント学園は男子校である。


「おーい、ルーク」


 たたた、と小柄な少年が駆け寄ってきて、長身の青年が振り向いた。


「どこ行くんだ?」


「カイ」


 ルークは手に持っていた鉢を見せる。


「これを温室に運ぶんだ」


「俺も行くよ。手伝うことあるか?」


「苗を植えるのを手伝って欲しい」


「まかせとけ!」


 ああ、いいなあ。


 シイナは並んで歩いていく二人の少年を見てため息をついた。カイは小さくてかわいい。ルークは背が高くて男前だ。


「素敵だわ……」


 シイナ・リングス。黒髪に華奢な体躯。頰は丸みを帯び、まつ毛も長い。傍目には美少年といっても過言ではない容姿をしている。


 しかし、実は女である。シイナの視線が、よそに向かう。ジャージ姿の短髪の男子が、腰に肘をついていた。対するは同じくジャージを着た、だるそうな男子である。


「おい、シン、おまえ先輩を立てようって気がねーのか!」


「あー、まー、ないですね」


「なんだとコラァ!」


「だってハルト先輩に尊敬するようなとこないし」


「ハアアアア!?」


 シイナは口元を拭い取る。


「おっとよだれが。ぐへへ、かわいいなあ」


 カイとルーク、シンとハルト。この組み合わせは鉄板である。男子校に男装して入り込んだシイナがなにをしているかというと、今のところは美少年同士の掛け合いを楽しんでいるだけだ。


「あー卒業しないで一生ここにいたいっ」


「なにニート宣言してんですか」


「あ、アルト」


 いきなり現れた少年に、シイナはぎくりとした。シイナと同じ制服を着ているのだが、手足が信じられないくらいに長いので、まるで丈が違う。シイナが女だというのもあるだろうが。


 アルトは美しい顔をシイナにむけた。


「わかってます? 姫様はここでやることがあるんでしょ。なんのために通ってんですか」


「わかってるよお。いいじゃん、ちょっとくらい」


 シイナは唇を尖らせた。シイナがやるべきこと。それは「王の威厳、男らしさ」を身につけることだ。シイナの国には王子がいない。だから、シイナが王にならねばならない。女王は認められていないから、男のふりをすることになる。


 三年間男子校に通い、ばれなかったら、王になれるのだ。ちなみに今のところ、バレる気配はゼロである。アルトがハア、とため息をついた。


「これが将来の王とかマジ不安です」


「なんだよ、じゃあアルトがやれば」


「やれるもんならやりたいですけど」


「でもアルトって腹黒い参謀って感じでなんかカリスマ性なさげ。クラスの副委員になって委員長操ってそう」


「誰が腹黒いんですか。というか実際副委員長ですけど。あなたが委員長に立候補なんかするから」


 委員長になれば女装喫茶が提案できると思ったのだ。


「敬語キャラは大抵腹黒いもんだし」


「偏見です。大体、自分はカリスマ性あるっていうんですか、姫属性生かせてないくせに」


「生かして潜入してんじゃない」


「しかし、違和感ないですね。ドレスとか着てたって信じられません」


「まー学校の制服って誰にでも似合うしー」


 シイナは自分の格好を見下ろした。正直、こんなことしてバレたらどーすんのと思わなくもないが。


「でもお父様に感謝だわ〜。こんな機会ないもん。美少年だらけで妄想し放題なんて」


 シイナはいわゆる「腐女子」であった。


「大体、なんで男同士の恋愛にはまったんです? ふつーないでしょ、そんなこと」


挿絵(By みてみん)


「そうね、そこまで言うならアルトには話しておこうか……」


「そこまで気になるわけでもないですけど。俺ただの同室だし」


 アルトの言葉を無視し、シイナは話し出す。


 あれはそう。五年くらい前だろうか。叔母の部屋で読む本を探していた時だ。


「ないなあ、確かおばさまが持ってたと思うけど」


 シイナはキョロキョロしながら本棚をあさった。


「ん? なにこれ」


 やたら薄い本が出てきたので、シイナはページをめくった。


「……!」


 男同士のあれやこれやが挿絵付きで描かれていた。


「これ、宰相と将軍に似てる・・・」


 しかも、実在の家臣をモデルにしたものだ。


「うわっ、えぐいですね」


 アルトが顔を引きつらせた。


「ええ、最初はびっくりしたわ。だからおばさまを問い詰めたの。続きはないのか、って」


「びっくりも何も、早速はまっちゃってるじゃないですか」


「それ以来宰相と将軍を見る目が変わったわ」


「変わらなくてよかったのに」


「というわけよ。それ以来おばさまは私を見ると気まずそうに目をそらすようになったわ」


「そりゃ、姪っ子が自分のせいで妙な性壁に目覚めたらね」


「私はなにも後悔してないわ。おかげでこの環境にも適応している」


「しすぎですよね」


「なんにも怖いものなんかないわ。お父様に趣味がバレたらヤバイけど」


「それはいいんですけど、明日のあれ、どうするんです?」


「どうするって、なにが?」


「プール開きですよ、明日から」


「!」


 シイナは唐突に焦りだした。


「えっ、どうしよ。見学とか!?」


「男子が見学ってどんな理由にする気ですか」


「心臓が悪いとか!」


「昨日ドッジボール全力で楽しんでた人が何言ってんです?」


「こうなったら男体化だ!」


「は?」


「男体化する薬持ってない!?」


「なんですか男体化って」


「ファンタジーだとよくあるじゃない、性別逆にする薬とか!」


「ねーよそんなもん」


 思わずタメ口になるアルト。


「さらしめっちゃ巻いたらダメかな!?」


「ダメでしょ。海パンってこんなですよ」


 アルトが鞄から海パンを取り出した。


「布少なっ、美少年がこれ一枚でくんずほぐれずするのね」


 想像してシイナはぐへへ、と笑った。


「しねーよ、泳ぐだけだよ」


「アルト、キャラ崩れてるわよ」


「姫様がアホなことばっかり言うからでしょ。水着じゃなくなればいいんですよね?」


「へ?」




 翌日。


 俺に任せてください。アルトがそう言うもので、シイナは昨夜ノープランで爆睡してしまった。


「あー、大丈夫かなあ。いざとなったら仮病使おう」


 シイナが教室のドアを開けると、挨拶が飛んできた。


「おはよー、シイナ」


「おはよ」


 シイナはカイに笑顔を向け、本を読んでいるアルトにこっそり尋ねる。


「ねえ、あの件どうなった?」


「心配いりませんよ」


 がらりと教室の扉が開き、教師が入ってきた。


「はよーっす。席つけよー」


「もうついてまーす」


 あはは、と笑い声が起きるが、シイナはいつ仮病の件を言いだそうかハラハラした。


「あー、プール開きだがな、特例で水着以外もオッケーになったぞ」


「特例?」


「ま、水着のが泳ぎやすいと思うがよ。じゃ、着がえろ


 シイナはポカンとしてアルトを見た。


「あんた、何言ったの?」


「そんなことより、さっさと出てってください」


 見ると、周りは既に着替え始めていた。


「うおっ」


 シイナは慌てて教室を出る。「っていうか、水着以外って何着ればいいわけ? あ、保健室で借りよっかな」


 行ったことないけど。


 早速保健室に向かい、扉を開く。


「すいませーん、服貸してもらえますか?」


「服?」


 振り向いたのは、若い女性の保険医だ。かなりグラマーである。おお・・・男子校には刺激が強いな。


「ああ、あなた? 痣のある生徒って」


「痣?」


「特例で水着以外オッケーって。用意してあるわよ」


 紙袋を差し出され、シイナは目を瞬いた。これもアルトの根回しか。気が効くなあ。


「ここで着替えていいですか?」


「いいわよ」

 痣があるかあ、なるほど。保健室で着替えられるなら、これから体育の時、あらかじめ着込んでこなくてもよくなるな。暑くなるから助かる。


 シイナはシャツを脱ぎ、ブラジャーを外そうとして動きを止める。


 ……つけたまんまのほうがいいかな。透けたらまずいし。


 用意されていたタンクトップとシャツを羽織り、短パンを履こうとした時。


 シャッ。


「!」


「あら、まだ着替えてたの」


 思いっきり女ものの下着をつけていたシイナはしばらく固まった。


「なるほどねえ」


「せ、先生……」


「事情は今度聞くわ。早く着替えなさい」


 再びカーテンが閉まる。シイナは慌てて短パンを履き、カーテンを開けた。


「お願いしますー! なにとぞこのことは御内密に」


「だから、今度聞くわ。遅れるわよ」


「ありがとうございますッ!」


 深々と頭を下げ、シイナは慌てて保健室を出た。



「遅いぞシイナ!」


「すっ、すいません!」


 シイナは慌てて列に並んだ。体操が始まる。隣にいたアルトにこっそり礼を言う。


「アルト、ありがと」


「大した手間じゃないですけど、その格好で泳げます?」


「いけるいける、私は人魚姫の生まれ変わりと言われ


「さすがにおこがましすぎますよ」


 実際姫なのにおこがましいとか言われた。


 いっちにー、さんしー。これ何体操っていうんだろう。動きがよくわからないので適当に腕を振り回していたら、アルトに当たって睨まれた。


ピー、と笛の音が響く。


「おまえには負けねーからな」


「ふん、言ってろよ」


 競い合う水着の美少年。


「おまえなにその帽子だっせー」


「う、うっせえ、返せよ!」


 じゃれあう水着の美少年。


 二十五メートルを泳ぎきったシイナはざばっ、と顔を出す。

「ザッツ天国!」


「鼻血ふいてください」


 隣を泳いでいたアルトも顔をだした。プールサイドをぺたぺた歩きながら言う。水も滴るいい男だが。


「アルトも誰かと絡んできてよー。一人で水滴らせてても萌えないよー」


「むしろ萌えないでください。というかマジで泳ぐの早いですね」


「だからあ、私は人魚姫と呼ばれ」


「きっと鮫の生まれ変わりですね」


「せめてシャチがいいわー可愛いのがいいわー」


 といってもさすがにちょっと疲れた。さて、ウォッチングするか。


「ふう」


 シイナはプールサイドに腰をおろし、じゃれあうクラスメイトたちを見つめた。


「素敵〜」


「よっ、シイナ」


 隣にカイが座り込む。


「あれ、カイ、泳がないの?」


 ぜひルークとのからみを観たかったのに。


「俺走る方が好き。なあ、なんで服着てんの? 泳ぎにくくない?」

「えっ?」


 少し離れたところにいたアルトがこちらを見た。


「そんなことないよ」


「せめてシャツ脱いだら?」


「えっ、ちょ」


 カイの手が伸びてきたので、シイナは慌てた。


「俺、着瘦せすんだよ! ははは! じゃね!」


 ぴゅーっとアルトの方に向かう。


「なんです、今の不自然なリアクション」


「だってシャツは痣あるとか関係ないし」


「脱いでもいいかもしれませんね、そうないですし」


 ないって何が? 胸がですか?


「どうせ保健室の先生みたいにばいーんじゃ……」


 言いかけて、はっとする。


「ああっ! そうだ、保健医にばれたっぽい!」


「はあ? なにしてんです」


「だってパンツいっちょの時にいきなりカーテン開けるんだもん、パンツ丸見えだよ」


「姫がパンツパンツ言うな。……まあ、いっそのこと全部話して協力させたほうがいいかもしれませんね、俺の時みたいに」


「でもアルトみたいに金で買収できる汚れた人種かどうかわかんないし」


「誰が汚れた人種だ」


 頬を引っ張られ、シイナはいでで、と呻く。


「私は姫だよ! 不敬だよ不敬!」


「汚れた人種なんで、すいません」


教師の声が飛んでくる。


「おまえら真面目に授業受けろ!」




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