クレストール米国へ
十二月初頭の米国は塩野義カラーの着物姿のクレストールには少し肌寒かった。
軽く頭を押さえていないと黄色のAZを模した大きな髪飾りが飛ばされてしまいそうだ。
それでも彼女はホテルの屋上に来たかったのだ。
「明日からあの場所で臨床試験があるのですね♪」
うっとりと建物を眺めていると、何処からか少女の涙混じりの声が風に乗って聴こえてきた。
クレストールは左右を見るが人影すら見えず、まさかと思いまわれ右をすると屋上の扉の近くでビジュアル系のボーカルっぽい女性が電話で何かを訴えているのだけは分かった。
――――こんなに近くにいらっしゃったのに気が付きませんでした。でも冬でも半袖なんてやっぱり米国ですね。
しかし、クレストールはそんな彼女の服装に少し好感を持てた。
真っ白なコートの裾に一本太目の海のような青いラインを見つけたからだ。
そして金髪のショート髪の真ん中は眉のすき間程度の髪の毛が紅く染まっていて、左側には丸の中にKの文字と緑の星を組み合わせた髪飾りが風にパタパタと揺れていた。
『……………絶対!認めてもらうんだから』
クレストールがやっと聞き取れたのは女性の会話が電話の、終わり際だった。
そのまま女性は体育座りする様にぺたりと座り込んだ。ショートパンツからブーツまでの間の健康的な脚を覗かせている。
彼女は声だけは出さないと頑張っていても両肩は小刻みに震え泣いているのは隠せていなかった。
クレストールは彼女の側まで行くと懐から懐紙を取り出すと彼女の前にそっと差し出した。
「どうぞ」
「………ありがとう。あなた見かけない顔だけど………英国人……にしては鼻が低いね」
「………日本人です」
「それで、そのヤマトナデシコは私に何の用事だい?」
「………泣いていたから」
「泣いていた?……私が?」
クレストールは黙って頷いた。
「そこからじゃ私が泣いていたか分からないだろ?もっと顔を近づけて眼を見てみないと分からないぜ」
クレストールは彼女の前で座る。
「もっと近くに……」
彼女に言われるまま近づくと唇を奪われた。
「………ごちそうさま。おかげで元気になれたよ!」
「………な、ななな………」
「オイオイここは自由の国だぜ?キスだって挨拶だよ」
「………ふざけないで下さい!」
「じゃあねヤマトナデシコ次はキスだけじゃすまないからね♪バーイ♪♪」
クレストールは唇を両手で押さえてぺたりと座り怒りと悲しみと………分からない気持ちが混じった感情で女性が屋上から離れるのを見届けていた。
《臨床試験当日》
臨床試験会場は秘密裏に決まったらしいが多分先方が用意したのだろう。
米国に来た時点でアウェイなのだから嘆いても仕方無い。
臨床試験は約1ヶ月行われて最終審査で多くの票を得たアイドルに軍配が上がるという解りやすいがそれだけ実力が必要になってくる。
―――リピトールさんってどんな人なんだろう?
「どうしました?クレストール何か心配事でも?」
「いえ、少々お花を摘みに行っても宜しいですか?」
「多分まだ大丈夫ですが早めにもどって下さいね」
クレストールは廊下に出てトイレに向かうが途中のスタッフルームからばか騒ぎが聞こえた。
「リピトール来年度で特許が切れるってさ」
「じゃあ女王も失墜ってかぁ」
「しかも親元から離されるって噂だぜ?」
「マジか!」
――――えっリピトールさんそんな状態で舞台に立つの?
クレストールは慌てて控室に戻った。
2011年のあのニュースの妄想ですから、ググってしまえば結果は見えてるのですが………。
ここから、ブロックバスターとかのカテゴライズやらが始まってくるのです。
こうやると、なんかアイドルっぽいなって思ってやっちゃいました。
しかも、新聞を見るたびに百合展開が溢れてくるじゃないですかぁ!(;´Д`)ハァハァ
おっと、これ以上は話せないぜ!
では、また次回。