14
「今日は図書委員会のメンバーを集めて貰うことにしたからな」
「え?」
憂鬱な月曜日、一週間の学校が再び始まりを迎えるブルーマンデーである。
土曜日の昼に帰らされたから、アリスの顔を見るのは約一日半ぶりぐらいになるのだろうか。
マンションから出てくるなりドヤ顔でそれだけ言い放った隻眼少女を見て、俺は間抜けな声を上げてしまっていた。
最近立て続けに見れているせいか、アリスの眸のありがたみが薄れているような気がしてならない。
「どういうことだ?」
「少しは自分で考えてみたまえ」
細腕が差し出してきた鞄を反射的に受け取り、俺たちは歩き始める。
鍵を閉めるということはしない。オートロックだからだ。
――考えれば考えるほど、この歳の一人暮らしにしては勿体ないほどにいい物件である。
当たり前のように俺の前を行くアリスは、振り向きもしないままに続けた。
自分で考えろといっても、結局は教えてくれるのはアリス自身の数少ない長所だと思う。
「繭乃が言っていただろう、図書委員会内で一人の委員を犯人扱いしていると。話だけだとわからん。実際に眼にしてみないとな、と思ってだな」
「いや、それだけで召集掛けるつもりか?」
「調査に必要だからな」
ふんっとアリスが鼻を鳴らす音が聞こえた。長い黒髪がゆるゆると左右に揺らされる。
「深紅から送られてきた資料からしても、四人の中に犯人がいるだろうという仮説が容易に導き出せる。だが逆に否定することは困難なことだ。だとすれば残りの三人から犯人を見つけ出さないとな」
「ちょっと待てよ、お前が受けた依頼は無実の証明だろう」
アリスの台詞に引っかかりを覚えて、話の腰を折ると、あらかさまに不機嫌そうになった声が返ってきた。
「そうだが」
「だったら何で犯人探しみたいな話になってるんだよ」
「馬鹿め」
僅かな間も置かずに冷ややかな侮蔑が突き立てられる。
おかしいことは何一つ言っていないはずなのに、どうしてこんな声を掛けられなきゃいけないのか。
指を引き攣らせる俺に背を向けたまま、エレベーターのボタンを押して中に入り、ふんっとアリスはまた鼻を鳴らした。くるりとこちらを振り向く。
漆黒の眸は、半眼の状態で俺を見上げていた。いわゆるジト目というやつだ。
「榊原灯弥の無実を証明するのなら、他の犯人を見つけ出して犯行を証明したほうが手っ取り早いに決まっているだろうが。効率の問題だ」
「まぁ、言われてみればその通りだよな」
いつの間に押していたのだろうか、一階のボタンが点灯している。
うぃーん、と降下していく感じが内臓を競り上げる感覚に似ていて、俺は思わず顔を顰めていた。
同じようにアリスも顔を顰めている。
「これには前提として、本当に榊原灯弥が無実であるという仮定が存在しているがな」
「そうか」
「これでわかったか、このポンコツは」
やはり、一言余計なのがアリスである。腹が立つ。
口をへの字に曲げるのと同時に、ちんっと音を立ててエレベーターが停止した。
扉が開かれて、妙に立派な造りのエントランスが姿を見せる。
――ふと、アリスの生活費は何処から捻出されているのだろうか、と疑問に思った。
質問してみようか、と口を開くと、タイミング悪くアリスが言葉を重ねてくる。
「ああ、そうだ眩」
「っ、あ、何だ?」
彼女に譲歩の精神なんてものは備わっているとは思えない。
質問を飲み込み、俺はさっさとエントランスを歩いていく小さな背に抜かさないようにしながら寄り添った。
「日曜日に深紅から電話があってだな」
深紅から電話。そこはかとない不穏がその単語から漂ってきている。
拭えない嫌な予感を感じて、俺は思わず言葉を鈍らせた。
「そ、れで?」
「またのご機会に私の家でお茶でもご一緒にいかがでございましょうか、だと」
「……」
アリスが他人の伝言を受けるという珍しさに気付く余裕もなく、俺は背筋を凍らせた。
「そ、そうか」
――何となく、お茶の目的はわかった気がした。




